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優秀なアプリというのは、私たちの生活をより便利に、より快適にしてくれるものである。クルマに搭載されたGPSは渋滞の際にレストランへの最適ルートを見つけてくれるし、クルーズコントロールがあれば高速道路で切符を切られないよう速度を設定することができる。こういった車両機能は現代生活の必需品となっているが、あまりにも当たり前の存在のためそれがなくなってみない限りそのありがたみを感じることはない。Rebelle Rally(レベルラリー)の場合なら「その機能が禁止されない限り」と言ったところか。

Rebelle Rallyとは、年に一度開催される女性のためのオフロードナビゲーション競技だ。参加者は8日間にわたってテストエンジニア体験を行い、オートモーティブグレードというものへの理解を深めながら、砂漠に隠されたチェックポイントを見つけてポイントを獲得するというものである。

ハイテク製品を技術的に不利な環境下で限界に近い状態で走らせるというのは、自動車メーカーが生産前に行うテストの1つである。自動車メーカーは気候や気温の厳しい世界各地でテストを行い、氷点下、雪、泥、雨、猛暑、砂、風など、あらゆる環境下で車が極限に近い状態でも走ることができるかを試すのである。

こんなプロセスを意識する人などほとんどいないだろう。しかし2020年、Porsche Cayenne S(ポルシェ カイエン S)のハンドルを握り、砂嵐や砂漠の中を走り抜けた筆者はそれを肌で感じることになる。この経験は、オートモーティブグレードがいかに堅牢であるかを示すと同時に、消費者の手にクルマが渡るまでにどのようなテストが行われているかをほんの少しだけ教えてくれたのだった。

極限状態での競争

Rebelle Rallyはジオキャッシングとオフロード競技を組み合わせたイベントで、毎年10月に米国西部の砂漠地帯のさまざまな場所で開催される。ベテランのラリードライバー兼ナビゲーターであるEmily Miller(エミリー・ミラー)氏が考案したもので、2021年で6年目を迎える。女性が自分の家にあるクルマの限界を試すため、特に普通乗用車(険しいオフロードに挑むために改造されていないクルマ)を対象にこのラリーを始めたとミラー氏は語っている。

大会では52チームが毎日、紙の地図とコンパス、地図定規だけを使い、風景の中に点在するジオフェンスで囲まれた隠れたチェックポイントを探しに出る。チェックポイントには旗が立っているところもあれば、目印がまったくないところもあり、それぞれのチェックポイントには開始時間と終了時間が設定されている。

競技者は携帯型GPSロケーター(Iridium Yellowbrickトラッキングデバイス)を使って各チェックポイントでチェックインし、場所、オフロード走行の難易度、ジオフェンスで囲まれた正しいポイントにどれだけ近づいたかなど、さまざまな要素に基づいてポイントを獲得する。競技終了時に最も多くのポイントを獲得したチームが表彰台に上がることになる。

画像クレジット:Regine Trias / Rebelle Rally

カリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州の1500マイル(約2400km)を超えるオフロードコースで開催された2021年のレース。Porsche(ポルシェ)、Rivian(リビアン)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Jeep(ジープ)、Nissan(日産)、Toyota(トヨタ)などのメーカーが自社のクロスオーバー、SUV、トラックの性能を誇示するために、女性チームをOEM車に乗せて送り出す。2021年は各メーカーがスポンサーとなった11のチームが参加した。

この大会は、筆者にとってもPorsche North America(ポルシェ・ノースアメリカ)にとっても初めての試みだ。

このラリーは「実験場として設計されています。エンジニアが自分の設計したクルマで実際に走って競争するために参加している企業もあれば、ジャーナリスト、社員教育、顧客開拓、インセンティブのための本格的でハードコアなテストドライブと考えている企業もあります。そして、どこよりも美しい風景の中で競技が行われるのです」とミラー氏は話している。

砂と現代のクルマが出会うとき

画像クレジット:Regine Trias / Rebelle Rally

2021年のイベントは、天候の影響で例年よりもさらに厳しいものとなった。

最低気温が一桁となり、雨や雪、みぞれが降ったり、ネバダ州ビーティ近郊のビッグデューンで24時間続いたすさまじい砂嵐があったりと過酷な状況にさらされた。一晩中突風が60mphを超えて完全なホワイトアウト状態となり、筆者とチームメイトのBeth Bowman(ベス・ボウマン)を含むほとんどの選手が安全対策のために車中泊を余儀なくされた。

風と砂嵐がテントを破壊し、50人以上の競技者に毎晩燃料を供給している燃料トラックが非常に危険な状態になっていた。

これこそが、PorscheでCayenneのテストを担当するRalf Bosch(ラルフ・ボッシュ)氏のような人たちが、車両テストの際に望む気象条件なのである。「現代の自動車にとって、砂はとてつもない拷問です。砂丘で故障しないように、冷却装置やクラッチ、ドライブシャフトなどを特別に設計しなければなりません」とボッシュ氏は話している。

ボッシュ氏と同氏のチームは、フィンランドからアフリカまで世界各地を訪れ、燃焼エンジンとハイブリッドエンジンの両方を搭載したCayenneの試作車を過酷な天候の中でテストしている。

「極端な寒さ、極端な雨や霧雨、塩分や泥、雪を含んだ厳しい気温などでテストし、これらの条件がクルマにさほど影響を与えないことを確認しています。砂嵐の中で何日もクルマを走らせた後、雪と氷と寒さの中ですべてが凍るまで追い込み、その上で故障の兆候が出ないことを目指しています」。

冬季の過酷なテスト地として自動車メーカーにとって人気の高い、カナダのイエローナイフの荒野に、クルマの持ち主がCayenneを連れて行くことはまずないだろうが、このような厳しいテストは業界では日常茶飯事だ。こういったテストにより、自動車メーカーは車内外のテクノロジーがオートモーティブグレードであることを確認しているのだ。つまり、クルマに搭載されているGPS、オートストップ&スタートシステム、エンジンやモーターなどのすべてのものが、あらゆる条件のもとで故障したり完全に壊れたりすることなく動作するのである。

テック:諸刃の剣

画像クレジット:Regine Trias / Rebelle Rally

Rebelle Rallyは特にハイテク化が進む現代の自動車にユニークな課題を突きつける。同レースではGPSやデジタルコンパスの使用が禁止されているため、その緋色の内装からルビーという愛称が付けられた筆者達のCayenne Sには、Porscheの指導のもと、大会の規則や規定を満たすため、ナビゲーションシステムが完全に混乱して不正確なデータを表示するようにするための大掛かりな作業が施された。

「Cayenne SのGPS機能を無効にするために、すべてのアンテナ(GPS、GSM、WiFi)を取り外し、さらにPCMが米国以外の衛星を検索するようにプログラムして、米国の衛星ネットワークに接続しないようにしました」と、システムを担当したPorscheのプレスフリートテクニシャンのKyle Milliken(カイル・ミリケン)氏は伝えている。

つまり、我々が砂漠の奥地を運転している間ずっと、車両のシステムは自分たちが太平洋上にいると勘違いしており、デジタルコンパスもまったく役に立たないのである。

最新のクルマの多くがそうであるように、Cayenne Sにも気候から最低地上高、トラクションまですべてをコントロールする単一のスクリーンが配置されている。後者2つの機能は、全輪駆動車で困難なオフロードに挑戦する際に車高とパワー配分を積極的に管理、制御する必要があるため絶対に欠かせないものだ。もしPorscheがGPSを適切に無効化しなかった場合は、レース主催者側がCayenne Sのスクリーンを物理的にブロックし、車をドライブ、リバース、パーク、ニュートラルに入れる以上のことができない状態に設定する。

画像クレジット:Regine Trias / Rebelle Rally

堅牢な車体を持ち、デフロックやトランスファーケースを物理的なボタンで操作できるなど、オフロードの名に恥じない性能を持つ初代Cayenneとは異なり、最新のCayenneのオフロード機能やプログラムは、センターコンソールのメインスクリーンからしかアクセスできないようになっている。

それに加えて、ルビーも同様だったのだが、エアサスペンションを装備した最新のCayenne Sのタイヤ交換をするためには、スクリーン(およびそのメニュー)にアクセスできなければならない。また、クルマのオンロードとオフロードを快適にするオートレベリング機能をオフにしないと、ジャッキアップできないのである。もしGPSのために画面が遮られていたら、かなり苦戦していただろう。

Cayenne Sのエアサスペンションに装備されている優れたオフロード設定(筆者のお気に入りの設定は「Sand 」と「Rocks」で車体の高さが「Terrain」)のいくつかは、我々が行った耐久テストでは少々スマートすぎたようだ。

8月下旬にオセアノ砂丘でトレーニングをしていたとき、ベスと筆者はラリーで必要となるであろうセルフレスキューのスキルを練習するため、柔らかい砂にわざとはまってみることにした。エンジンをふかして抜け出そうとすると、Cayenneのトラクションコントロールシステムがホイールスピンをオーバーライドして止めてくれた。幸いにもラリー中にスタックすることはなく、タイヤがパンクしたり、クルマのどこかが破損したりすることもなかった。その頑丈さを証明したCayenneは、グラミス砂丘でスタックした他のクルマを救出したことさえある。

画像クレジット:Nicole Dreon / Rebelle Rally

これらはすべて、オートモーティブグレードの技術や部品、特に新Cayenneに搭載されているそれの開発過程における、過酷なテストに耐えた頑健性の証だ。大規模な砂嵐(さらに8日間の滞在中に小さな砂嵐が2回)、厳しい環境、そしてトリッキーな運転にもかかわらず、Cayenne Sは毎日期待通りのパフォーマンスを発揮してくれた。

毎朝、ルビーは快適なエンジン音とともに目覚め、私たちを快適に暖かく(あるいは涼しく)保ってくれた。不調だって一度もない。エアフィルターやブレーキが壊れることもなく、20インチのタイヤに空気を入れる以外何もすることなく、不気味なグラミス砂丘からハイウェイに入り、混沌としたロサンゼルスへと直行することができたのである。

これぞまさに、いかなる天候や環境下でも道路を走り続けることができるようにするための「オートモーティブグレード」テストの真髄だ。

「路上であれだけ優れていても、砂だらけのぐちゃぐちゃな状態ではそれほど優れているはずがないと考えるのが普通でしょう」とボッシュ氏。「Cayenneではオンロード性能を向上させることでオフロード性能も維持しようと努めており、その結果非常に高性能なクルマに仕上がっているのです」。

画像クレジット:Regine Trias / Rebelle Rally

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(文:Abigail Bassett、翻訳:Dragonfly)