「IDEA(The International Digital Economy Academy、国際デジタル経済アカデミー)」は、2020年、香港との国境の川を挟んだ深圳の地の超近代的なオフィスビルの中にひっそりとオープンした。
香港とは地理的に離れているが、厳密には香港と深圳にまたがる「深圳-香港・革新技術協力区」という特別なエリアに位置する研究機関だ。名前を見れば一目瞭然だ。これは、深圳と香港の政府が、北京の支援と有利な政策を受けて、科学技術の研究を共同で行うためのものだ。
IDEAは、サッカー場540面分に相当する3.89km²の特区内に設立された組織の1つで、Harry Shum(ハリー・シャム)氏の発案によるものだ。著名なコンピューター科学者であるこの人物は、2013年から2019年までMicrosoft(マイクロソフト)の執行副社長を務めた他、Microsoftの米国外で最大の研究部門であるMicrosoftリサーチアジアを共同で設立した。
Microsoftの元同僚であるKai-Fu Lee(カイフー・リー)と同様に、シャム氏はAIの研究面とビジネス面の両方で活躍していた。現在、IDEAにいる彼のチームは「社会的ニーズに基づいて破壊的な革新技術を開発し、デジタル経済の発展からより多くの人々が恩恵を受けられるような形で社会に還元すること」を目指している。IDEAのリサーチディレクターには、Yutao Xie(ユタオ・シー)氏やJiaping Wang(ジェイピン・ワン)氏など、Microsoftのベテランが名を連ねている。
中国のインターネット企業に対する徹底的な規制強化は、北京がテック企業を敵視しているという見出しにつながっている。しかし、政府の意図はもっと微妙なものだ。金融市場のリスクやゲーム中毒、ギグワーカーの搾取などを助長してきた、社会や経済にとって有害とみなされるビッグテックを対象にしているのだ。
その一方で、中国は基礎研究を促進し、西洋技術への依存度を下げるという目標に固執している。Huawei(ファーウェイ)、DJI、Tencent(テンセント)などの巨大企業の本拠地である深圳では、政府が世界レベルの科学者らを採用している。ハリー・シャム氏と彼のチームは、その中でも最も新しい研究者の1人だ。
IDEAは、確かに話題性のある名前(そしてすばらしい頭字語)だ。習近平国家主席の演説では、テクノロジーが経済の原動力になるという意味で「デジタル経済」という言葉が出てくることがよくある。習近平国家主席は10月「デジタル経済は近年、世界経済を再構築し、世界の競争環境を一変させる重要な力となっている」と述べた。「インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーは、経済・社会の発展のあらゆる分野にますます組み込まれています」。
IDEAは、AIが金融、製造、医療などの産業をどのように変革できるかを検討している。今週、中国の大手クオンツトレーダーであるUbiquant(九坤投資)と提携し「金融取引市場のリスクモニタリングと回避 」や「ハイパフォーマンスコンピューティングシステムの基本的なインフラ」に関する研究を行う共同ラボを設立することを発表した。
IDEAは、近年、深圳に誕生した数多くの研究機関の1つにすぎない。政府の支援を受けて香港中文大学の深圳キャンパスに設立された「深圳データ経済研究所」もまた、中国のデジタル経済の発展のために活動しているグループだ。
画像クレジット:LIAO XUN / Getty Images
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(文:Rita Liao、翻訳:Akihito Mizukoshi)