アーバリーさんは昨年2月23日、住宅地をジョギングしていたところ、トラヴィス・マクマイケル被告(35)と父親のグレゴリー・マクマイケル被告(65)、2人の隣人のウィリアム・ブライアン被告(52)に追跡され、射殺された。
被告は、アーバリーさんを捕まえようとした際の自己防衛だと主張した。一方、検察側はアーバリーさんの人種が事件に関係しているとした。
ジョージア州は殺人罪の量刑を最低でも終身刑と定めている。
白人を中心とした12人の陪審員は約10時間にわたり評議し、24日正午ごろに有罪評決を言い渡した。
被告は殺人、加重暴行、不法監禁、意図的な重罪などの罪で有罪となった。
3人は来年2月、アーバリーさんが黒人であることを理由に標的にしたとして、憎悪犯罪(ヘイトクライム)に関する裁判にもかけられる。
アーバリーさん死亡の経緯
アーバリーさんは昨年2月23日午後、ジョージア州ブランズウィックの住宅地でジョギングをしていた。
近所に住んでいたグレゴリー・マクマイケル被告は、同州サティーラ・ショアーズで発生した一連の強盗事件の容疑者にアーバリーさんが似ていると思ったと警察に話した。
警察によると、そのような強盗事件の通報はなく、アーバリーさんの所持品の中に盗品はなかった。
拳銃と散弾銃を所持したマクマイケル親子は、丸腰のアーバリーさんをピックアップトラックに乗って追いかけた。ブライアン被告も追跡に加わった。
陪審団はトラヴィス・マクマイケル被告の通報時の音声を確認した。同被告は受理係に対し、「私はサティーラ・ショアーズにいる。黒人男性が道を走っている」と伝えていた。
トラヴィス被告は裁判で、父親と2人でトラックの中からアーバリーさんに話しかけようとしたが反応がなかったと述べた。
同被告はトラックを降り、アーバリーさんと争いになった際に3度発砲した。アーバリーさんが自分の銃をつかもうとしたからだと、正当防衛を主張した。
これに対して検察は、被告たちが自ら引き起こした事態について正当防衛は主張できないと主張した。
検視では、アーバリーさんの胸部に2発の銃創と、片方の手首の内側に銃弾によるかすり傷が確認された。
マクマイケル親子とブライアン被告は、事件から2カ月以上たった同年5月に逮捕された。
検察は、トラヴィス被告が地面に倒れているアーバリーさんに対し、人種的な罵倒の言葉を発していたとしている。被告は人種差別を否定している。
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「リンチ集団に打ち勝った」
24日に有罪評決が読み上げられると、裁判所の外に集まっていた数十人の人が歓声を上げた。
アーバリーさんの父マーカス・アーバリーさんは泣きながら支援者と抱き合った。
「息子は何もしていなかった」、「走って、夢を追いかけていただけだった」と、マーカスさんは話した。
マーカスさんは記者団に対し、「私たちはリンチ集団に打ち勝った」と述べた。
アーバリーさんの母ワンダ・クーパー=ジョーンズさんは、集まった支援者らに感謝し、この日を迎えられるとは思わなかったと語った。
「長い戦いだった。辛い戦いだった。でも神は善い方だ」
そして、「息子はこれで安らかに眠れる」と述べた。
アーバリーさんは事件当時、電気技師を目指して専門学校に通っていた。
公民権活動家でケーブルテレビの司会者でもあるアル・シャープトン師は、裁判所の外でこのように述べた。「ディープサウス(保守的とされる米最南部地域)の白人11人と黒人1人の陪審団が法廷で立ち上がり、黒人の命は確かに大切だと発信した。この言葉を世界中に伝えよう」。
有罪評決を聞いたトラヴィス被告は、退廷する際、母親に向かって「愛してる」と口を動かした。
リンダ・ドゥニコスキー検察官は、「この国では陪審員制度が機能している。人に真実を提示し、人がそれを見れば、人は正しく行動する」と述べた。
ブライアン被告の弁護人ケヴィン・ゴフ氏は、弁護団は「有罪評決にはがっかりしたが、尊重する」とした。
ジョー・バイデン米大統領は、今回の有罪評決はアメリカの刑事司法制度が「その役割を果たしている」ことを示すものだと述べた。
ただ、この殺人事件は「この国の人種的正義のための戦いにおいて、まだどれだけ前進が必要かを思い知らされる、悲惨な出来事」だったと付け加えた。
裁判のカギとなった映像
この裁判では事件前後を映した映像が焦点となった。
最初の重要な映像は、アーバリーさんが死に至るまでの様子をとらえた36秒の映像だった。
これはブライアン被告が、アーバリーさんの後ろを車で走行しながら携帯電話で撮影したもの。
動画には、アーバリーさんが前方で待ち構えているピックアップトラックを回避しようとし、その後トラヴィス被告と格闘している様子が映っている。くぐもった叫び声が聞こえ、3発の銃声が聞こえる。
グレゴリー被告が、息子のトラヴィス被告とアーバリーさんが格闘する中、ピックアップトラックの荷台に立っているのが確認できる。
この動画は昨年5月5日にオンライン上に流出した。被告たちの相談に乗っていた地元の弁護士経由で、地元ラジオ局に提供されたのが、流出のきっかけだった。
この動画流出を機に、この事件は世間の注目と怒りを集めることになり、被告たちの刑事訴追につながった。
5日後には、白いTシャツを着た黒人男性(アーバリーさんと思われる)が銃撃の直前に建設現場にいるのをとらえた監視カメラ映像が浮上した。
黒人男性は建設現場に入り、数分間周囲を見回した後、通りを走っていった。
土地の所有者ラリー・イングリッシュ・ジュニアさんは法廷で、この男性が自分の所有物を乱したり傷つけた事実はないと証言した。
イングリッシュさんは、子供や白人カップルらが自分の敷地に侵入しているのをカメラで確認したとしつつ、マクマイケル親子が敷地に入ることや、自分の土地について誰かと争うことを許可したことはないと述べた。
陪審員は、事件発生後に現場に到着した警官たちのボディカメラ映像も確認した。