都市部への人口や経済の集中により、地方では人手不足や高齢化をはじめとするさまざまな課題が生じている。そんななかKDDIは、ICTなど先端技術を活用するとともに「人づくり」の観点で地方創生活動に取り組み、地域が抱える課題解決を進めてきた。
2021年4月にはその一環として、DX(デジタルトランスフォーメーション)のコンサルティングや教育事業を展開するチェンジ社と共同で「ディジタルグロースアカデミア」を設立。研修やeラーニングなどデジタル人材を育成するためのさまざまなカリキュラムで、地方のデジタル人材育成事業を推進している。
なぜ、地方におけるデジタル人材の育成が必要なのか。その狙いや、DXを取り巻く現状や課題について、ディジタルグロースアカデミアの豊川栄二副社長と、同社と協業して地方でのデジタル人材育成事業を手掛けるKDDIの白井大介に聞いた。
DXとは「変革」である
――まずはKDDIが地方創生に取り組む狙いを教えてください。
白井「KDDIは、地域にとっても企業にとってもサステナブルなビジネスモデルの構築を支援するため、強みである通信のチカラを活用し、自治体や企業と連携しながら、その解決に取り組んできました。私の所属する地方創生推進部では特に人材育成による地域の活性化に取り組んでおり、DX推進のためのデジタル人材育成事業もそのひとつです。」
――近年、さまざまな分野でDXの重要性が叫ばれています。DXの定義についてあらためて教えていただけますか?
豊川「ひとくちにDXといってもいろいろな捉え方があります。たとえば、業務改善のために社内のIT化を進めることも、DXのひとつと捉える向きもあります。ただ、それは入り口に過ぎません。DXとは「トランスフォーメーション」、つまり「変革」を意味します。デジタルを活用して、ビジネスに変革をもたらすこと。これがDXの本質です。」
白井「DXには大きく分けて3つのフェーズがあります。まずは、これまでアナログでやってきた業務をデジタル化すること。次に、デジタル化したものを活用して、生産性の向上やコスト削減につなげること。そして最後は、それまでのビジネスモデルを変革することです。
「デジタル化で業務を改善した」というだけでは企業の価値向上にはつながりません。新しいビジネスモデルの創出や組織文化の変革により継続的にデジタルを活用した価値創出ができるレベルに達して、ようやく大きな企業価値向上につながります。」
豊川「近年、DXという言葉が叫ばれている背景には、「うかうかしていると、時代の波に取り残されてしまう」「新しい技術によって既存のビジネスが駆逐されかねない」という危機感を多くの人が抱いているからかもしれません。
具体的な例をお話しましょう。私自身、これまでの社会人経験のなかで、二度の大きなDXを体験しています。
ひとつめは、インターネットの普及です。私が入社した当時の主力事業は国際電話でした。しかし、国際電話が担っていた役割が、のちにインターネットに取って代わられたことは、みなさんご存知のとおりです。
ふたつめは、スマホの普及です。その後、私はフィーチャーフォンのコンテンツビジネスを担当しました。しかし、スマホの急速な普及により、フィーチャーフォン自体の市場が大幅に縮小。私が担当していたビジネスも見直しを迫られました。
当時はまだDXという言葉はありませんでしたが、いま振り返ると、いずれも大きなデジタルトランスフォーメーションだったと思います。」
課題は「人材不足」
――企業や自治体がDXを推進するうえで、現状どのようなことが課題になっていますか?
豊川「最大の課題は人材不足です。外部の業者やコンサルに依頼してDXを推進したものの、そのとき限りで終わってしまい、社内に定着しないというケースは少なくありません。
どんなに優れたシステムをつくっても、それを扱える人がいなければ意味がない。社内のデジタル人材を育成していくことが、DXを推進するうえで非常に重要になります。」
白井「デジタル人材の不足はDX推進における大きな課題ですよね。その傾向は地方において特に顕著です。KDDIは「DXと言われても、なにをどうしたらいいのかわからない」という地域の悩みを解決するため、デジタルを学べる場や機会を設けるほか、変革に必要とされる環境の構築を目指しています。」
豊川「人材の育成には時間がかかります。知識やスキルを得たからといってすぐに役立つとは限りません。大切なのは、中長期的な視点で、学び続けようというマインドを、一人ひとりが持つことですね。」
白井「DXは近年における重要な経営課題のひとつでもあり、経営層など組織のトップの危機感の有無がDX成功のカギを握ります。ただ、その点に関しても都市部と地方で温度差があります。都市部の大企業や自治体はDX推進に前向きなところが多いですが、地方ではまだまだ尻込みしているところも少なくありません。KDDIは、ディジタルグロースアカデミアをはじめとするさまざまな企業と連携しながら、これからも地方創生における人材育成に取り組んでいきたいと思います。」
人材育成の取り組み事例
KDDIとディジタルグロースアカデミアによる取り組みの事例を紹介しよう。両社は2021年7月、長野県長野市にて、企業経営者向けのDXセミナーを実施した。主催者は一般社団法人長野県経営者協会。ディジタルグロースアカデミアの柴田佳幸が講師を務め、DXに取り組むメリットや成功と失敗のパターンを、事例を交えながら紹介した。
長野県経営者協会は、なぜ経営者向けのDXセミナーを開催したのか。企画した同協会の原田岳志さんは次のように語る。
「長野県は『信州ITバレー構想』という施策を進めていて、県内のあらゆる産業におけるDXの推進を目指しています。ただ、企業の経営者の方と話していると、DXに対する危機感はあるものの、『最初の一歩をどう踏み出したらいいのかわからない』という声も少なくありません。そこで以前からお付き合いのあったKDDIさんに相談し、今回のセミナー開催に至りました。
DXを推進するうえで課題となっているのは、デジタル人材の不足、そして経営層や現場のデジタルに対するアレルギーです。DXにおいて、デジタルリテラシーの向上やスキルの習得はもちろん大切ですが、『変革を恐れず、新しいことに挑戦しよう』というマインドを持つことのほうがより重要になってくるのではないでしょうか。今回のセミナーがそのきっかけになればと思いますし、参加者にとって非常に有意義な内容だったと思います」
KDDIとディジタルグロースアカデミアがともに取り組む、DX推進のための人材育成。人を育てるということは一朝一夕にはならず、継続的な取り組みが必要となる。KDDIはこれからも、さまざまな企業や自治体と連携しながら、中長期的な視点で地方におけるデジタル人材育成を支援していく。