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PART 2では、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)のミライ小町による『ミライ』ミュージックビデオ(以下、MV)がどんなプロセスでつくられたのか、現場の声をお届けします。渡邉さんと阿部さんはPART 1に続いての登場です。


※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.270(2021年2月号)掲載の「キャラつく!ミライ小町 PART 2」を再編集したものです。

INTERVIEW & TEXT_安堂ひろゆき / Hiroyuki Ando(フライトユニット)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

こんにちは!ミライ小町です!


  • ミライ小町



    バンダイナムコスタジオのゲーム開発技術や未来に向けた技術研究を紹介するために生まれたオリジナルキャラクター。技術と共に世界中の人たちを笑顔にしたいと願う未来型アイドル。ときどきボーカロイド。テクノロジー、ネコ、ニンジンが好き。

    公式サイト:www.miraikomachi.com

    ※公式サイト内から、3Dモデルデータ(Unityプロジェクト・Blenderプロジェクト・VRM形式・MMD形式)をダウンロードできます。
    『ミライ』 MV:youtu.be/0dlAbHms4rc



左から、アニメーションディレクター・飯島弘通氏、シネマティックアーティスト・谷口博昭氏、アートディレクター・渡邉良子氏、リードアーティスト・阿部貴之氏(以上、バンダイナムコスタジオ)
※本記事の取材は、ビデオ会議システムを使って実施しました

目指したのは、大人カッコ可愛い感じ

安堂ひろゆき(以下、安堂):自己紹介と、『ミライ』MVで担当した役割をお聞かせください。


▲ミライ小町 『ミライ』MV

飯島弘通氏(以下、飯島):格闘系の『鉄拳』『ソウルキャリバー』シリーズから、可愛い女の子系の『アイドルマスター』シリーズまで、幅広いジャンルのアニメーション制作に携わってきました。『ミライ』 MVではアニメーションディレクターを務めています。

谷口博昭氏(以下、谷口):キャリア採用でシネマティックアーティストとして入社した直後に、『ミライ』 MVの映像制作を担当しました。具体的には、全体の方向性の提案、背景のモデリング、カメラワーク、ライティング、コンポジットなどを担当しています。

安堂:BNSのシネマティックアーティストは、普段どういう仕事をなさっているのですか?

谷口:自社タイトルのトレーラー、PV、ゲーム内のムービー、イベントシーンなど、映像制作全般を担当しています。

安堂:例えば僕らがよく見る『鉄拳』のトレーラーなどでしょうか?

谷口:そうです。『鉄拳』のトレーラーやPVはほぼ社内だけでつくっています。一方で、OPムービーなどは社外の方々につくってもらう場合もあり、状況に応じて臨機応変にやっています。

安堂:『ミライ』 MVのコンセプトをお聞かせください。

谷口:「可愛いAR」というコンセプトを基に、ミライ小町が机の上のARステージで踊っているのを鑑賞しているような映像を目指しました。そのため『ミライ』MVの背景には、ボールペン、ノート、ファイルスタンドなど、机の上にありそうな小物を配置しています。



▲『ミライ』 MVの完成映像

阿部貴之氏(以下、阿部):MVの企画が起ち上がる前に、スマホを使ったARの実験をしており、『ミライ』のダンスモーションをキャプチャしていました。そこで「MVもつくろう」というながれになったわけです。

谷口:『ミライ』MVのカメラワークはCinema 4Dで付けており、自分が机の上でスマホをかざし、ARを鑑賞するときの動きを再現しています。「正面だけでなく、横、後、上など、いろんな方向から見るだろうな」という想定でカメラを設定し、回り込むときにはちょっと手ブレを大きくしたりもしました。コンポジットにはAfter Effects(以下、AE)を使っており、ふんわりしたアニメ調のミライ小町のルックと、シャープな3Dの背景を馴染ませた方が魅力的に見えるので、背景には常時フィルタをかけています。机の上という設定なので、被写界深度はちょっと浅めにしており、例えばミライ小町をバストショットで映す際には、手前にある腕をマスクでぼかしてあります。本作ではデプスマップをつくらなかったので、カット単位で力技の処理をすることになりましたね。




▲コンポジット時のAEの作業画面。【上】ふんわりしたアニメ調のミライ小町のルックと、シャープな3Dの背景を馴染ませるため、【下】背景にフィルタをかけている。また、手前にあるミライ小町の腕をマスクでぼかすことで画面に奥行きをもたせている



▲さらにレンズフレアのような効果を追加し、空気感や、ミライ小町の大人カッコ可愛い雰囲気を高めている



▲完成映像

安堂:Cinema 4Dを選択した理由もお聞かせください。

谷口:Cinema 4Dを使った理由は3つあります。1つ目の理由は、私が使い慣れているからです。2つ目の理由は、本作は約2分半の長尺だったので、背景のレンダリングには高速なOctaneRenderを使いたかったからです。3つ目の理由は、シーン内に複数のカメラを設定し、楽曲に合わせて調整するにあたり、Cinema 4Dのステージという機能が有効だったからです。ステージを使うと、撮りたい位置やアングルのカメラをシーン内に全て設定してから、各カット用のカメラを選んだり、調整したりできます。カットの開始・終了フレームを確認しながらリアルタイムに映像の編集もできるので、とても使い勝手が良いです。



▲ステージ機能を使用中のCinema 4Dの作業画面。オブジェクトウインドウ(画面左)にずらっと並んだカメラと、タイムラインウインドウ(画面下)を確認しながらシーン内で映像を編集できる。背景のレンダリング結果をOctaneRender(画面右)で逐次確認できる点も、Cinema 4Dを選択した理由だったとのこと



▲完成映像

安堂:Cinema 4Dのオブジェクトウインドウにいっぱい並んでいるカメラは、個別のデータとして存在しているのでしょうか?

谷口:そうです。大量のカメラがシーン内に配置されている状態です。飯島から受け取ったダンスモーションの付いたミライ小町のデータを見ながら、一番見映えのする位置やアングルを探り、カメラを配置していきました。Cinema 4Dはカメラ機能が充実しており、エクスプレッションを使うと手軽に手ブレ感を表現できます。

安堂:ミライ小町の方はUnityでレンダリングしていますよね? このデータをUnityにもっていくのは大変な気がします。

谷口:社内のテクニカルアーティストの方にサポートしていただきながら、いったんMayaにエクスポートしてからUnityにもっていきました。

安堂:ダンスモーションの制作についてもお聞かせください。

飯島:ミライ小町とはどんなキャラクターなのかを社内でヒアリングし、アイドルのような可愛さだけでなく、大人っぽい雰囲気や、カッコ良い雰囲気も出していくというコンセプトを立てた上で仕上げていきました。

安堂:ダンサーさんの選定はどのように進めたのでしょうか?

飯島:『アイドルマスター』シリーズですごくお世話になってきたモーションアクターさんに相談しました。過去のプロジェクトを通して「この方だったらできる」という確信があったので、お願いしたかたちですね。

安堂:『アイドルマスター』シリーズのお馴染みのアイドルであれば、性格も雰囲気もはっきりしていると思います。ミライ小町という新しいキャラクターの場合は、どのように決めていったのでしょうか?

飯島:ダンスのキャプチャをする前に、楽曲の担当者にもイメージを聞き、楽曲のテーマや振付イメージを記した資料をモーションアクターさんにお渡ししました。それを基に振付を提案していただき、確認・調整していくというながれでつくっています。


ミライ小町の振付イメージ


● ミライ小町のキャラクターの方向性は「大人で現代的(未来的)な雰囲気」のため、いい感じにアイドルを感じさせないダンスでお願いしたいです!
● 可愛い動きがダメということではないので、全体の雰囲気は大人カッコ可愛い感じでお願いできればと思います!
● 歌詞の「innovation」は大事な言葉なので、キャッチーなポーズを入れていただけると嬉しいです。
● 別資料の立ち絵のポーズは曲中のどこかに必ず入れていただきたいです。ダンス全体の中で、そのポーズが印象に残ると嬉しいです。
● 曲の展開に合わせた大きなながれは、Aメロは「内向き」「内に秘める思い」、サビは「外向き」「広がり」というかたちで明確に表現を変えていただけると嬉しいです。
● 歌詞の節々を拾うのではなく、歌詞全体のながれをイメージして振りを付けていただけると嬉しいです。
● サビは、ポーズからポーズというよりは、『ながれるような感じ、走り出しそうな感じ』をイメージして振りを付けていただけると嬉しいです。
● ダンスとしては、漠然としていますが……いわゆる『今風』で考えていただけますと嬉しいです。

▲モーションアクターにダンスの方向性を伝えるため、飯島氏が作成したミライ小町の振付イメージ。文中にある「立ち絵のポーズ」というのは、PART 1で紹介した小林くるみ氏によるキービジュアルのポーズのこと。「innovation」という歌詞の部分で効果的に使われているので、ぜひ『ミライ』MVを確認してほしい

安堂:かなり詳細で丁寧な資料ですね。文中の「大人カッコ可愛い感じ」という言葉が、ミライ小町の雰囲気をよく表しています。

飯島:ミライ小町は生まれたばかりのキャラクターだったので、イメージ通りのダンスに仕上げるため、できるだけ細かく要望を伝えました。ダンスモーションのキャプチャでは、こういう伝え方をよくやりますね。



▲キャプチャ時の記録映像(ダンスモーション協力:ソリッド・キューブ



▲アニメーション作業中のMayaの画面。「モーションアクターさんにミライ小町のキービジュアルに近いポーズをとってもらい、全身のシルエット、左右の手の位置関係、目の動きなどをMaya上で細かく調整しています」(飯島氏)



▲完成映像

「アンニュイって何だ?」とものすごく調べた

安堂:モーション制作でこだわったところを教えてください。

飯島:当初はスマホARで使う想定だったので、どの方向から見ても可愛く魅力的に見えるよう、頭から足先まできっちりと調整しています。数あるモーションキャプチャの中でも、ダンスは収録した動きの多くが最後まで残っていくので、モーションアクターさんとしっかりイメージを共有することも重視しました。

安堂:それでも仕上げの段階でアニメーターさんが手を入れたところがあると思います。どういうところでしょうか?

飯島:ミライ小町のような頭身の高いキャラクターは、実際の人間に比べて足が長い場合が多く、重心の位置もちがいます。特に足を開いて立つときは、腰から下のシルエットを綺麗に見せるのがなかなかに大変で、いかに綺麗なシルエットをつくれるかはアニメーターの腕の見せどころであり、こだわりどころでもあります。腕を開いたときの左右の肘の角度を揃えたり、手のめり込みをなくしたり、指先にまで命が宿っているかのように調整したりと、こだわるところはたくさんありますね。

安堂:指の動きや表情はキャプチャしていませんよね。どのように付けたのでしょうか?

飯島:指は手付けで、キャプチャ時のモーションアクターさんの動きを正面から撮影した映像をリファレンスにしています。あらかじめキャッチーな指のポーズを10種類くらいつくっておき、それを組み合わせたり加工したりすることで、作業の効率化を図りました。表情はブレンドシェイプで、楽曲のイメージに合わせて付けてあります。フェイシャルを担当した当社のアニメーターの深澤瑞恵は「私がミライ小町を一番可愛くします!」と宣言しながらつくってくれました。実際、宣言通りの可愛さで、意気込みが伝わってくる表情に仕上がっていると思います。



  • ◀▲「女性らしくキャッチーな指のポーズを10種類ほどつくっておき、アニメーターに活用してもらいました。いずれも立体的、かつ、しなやかなシルエットに見えることを意識しています」(飯島氏)



▲表情のブレンドシェイプ。「あ」〜「お」の母音や、「Sorrow」「Fun」などの感情を伝える表情が設定されている




▲完成映像

渡邉良子氏(以下、渡邉):Aメロからサビに切り替わるタイミングで目を閉じて場面転換を演出したり、「涙が」という歌詞のところでアンニュイな表情をさせた後、目線を1回横にながすことで「悲しいのはここまで」という区切りにしたり、目の動きを上手く使っている点が印象的ですね。

阿部:「ミライ小町は、媚びる感じではなく、大人カッコ可愛いキャラクターなので、アンニュイな表情がほしい」と渡邉からリクエストされたものの、どう表現すればいいのか見当がつかず、「アンニュイって何だ?」とものすごく調べました。

渡邉:アイドルなら上目遣いの表情をよくやりますが、ミライ小町の場合はもっとさらっとしているけど印象に残る表情がほしくて、「目線をもうちょっと、もうちょっとだけ残してから、ながして……」みたいなやり取りを、非常に細かくやっていましたね。



▲アンニュイな表情をつくるため、阿部氏らによって専用のブレンドシェイプが後から追加された



▲完成映像

安堂:アニメーションのツールについてもお聞かせください。

飯島:キャプチャしたモーションデータをミライ小町にリターゲットした後は、全てMaya上で仕上げています。リグはMayaの標準機能のHumanIKを使いました。HumanIKのメリットは、セッティングにかかる時間が短く、すぐアニメーション作業に着手できることですね。なお、最近のミライ小町のプロジェクトでは、より汎用性の高い内製リグを使っています。

安堂:MayaのHumanIKは、少しアニメーションを付けにくい印象があるのですが、気になりませんでしたか?

飯島:当時はHumanIKを頻繁に使っていたし、キャプチャデータを扱う場合は不便に感じることはなかったです。IKとFKを状況に応じて切り替えられる点が良かったですね。手付けだと、クセがあってちょっと付けにくいかなという印象はあります。

安堂:内製リグの使い勝手はいかがですか?

飯島:当社のアニメーターが昔から慣れ親しんできたIKをベースにしており、UpVectorのトランスフォームによって制御しています。ローカル座標とグローバル座標を柔軟に切り替えられるし、キャプチャでも手付けでも扱いやすいリグになっています。

安堂:UpVectorと言えばSoftimageやXSIの印象が強いですが、BNSさんではMaya以外の3Dツールを使っていますか?

飯島:格闘系やアクション系のプロジェクトを得意とするアニメーターは、XSIに慣れ親しんできた人が多く、過去資産のライブラリが充実していたので比較的最近まで使っていました。一方で、ゲーム内のカットシーンやイベントシーンの制作では以前からMayaの使用頻度が高く、プロジェクトによって傾向が異なっている感じでした。2016年にSoftimageがサポート終了になったという事情もあり、最近はどのプロジェクトもMayaに移行してきましたね。

安堂:インタビューの締めくくりに、学生さんやアニメーションを学んでいる人たちへのメッセージをお願いします。

飯島:自分の知らないものをつくるときには、参考になるものを観察し、上手く自分の中に取り込むことがすごく大切です。フェイシャルを担当した深澤は、ミライ小町の表情を付ける前に「アイドルの動画をめっちゃ見て、研究しました」と言っていました。3Dのアニメーションは、キーとキーをつなげると、ある程度それっぽく見える動きを作成できますが、それだけでは観る人につくり手の意図を感じてもらえません。「こういう意図を込めて、動きを付ける」あるいは「演出する」ということをしっかり意識すると、全てのキーの良し悪しが気になり、動きに説得力が生まれ、観る人に何らかの感情を受け取ってもらえます。

阿部:今の話は、アニメーションに限ったことではありません。観察が必要なのはモデラーもまったく同じだなと、飯島の話を聞いて思いました。今のプロジェクトのメンバーには「つくるもののリファレンス探しに時間を割き、観察したことを頭の中に叩き込んでほしい」とよく話しています。自分がモデリングをするときも、手を動かす前に、最低でも丸1日かけてリファレンスを集めます。

渡邉:アニメーションでもモデリングでも、つくっていく中で情報量だけが多くなり、目標がぼやけてしまう場合がよくあります。煮詰まっているなと思ったら、最初に決めたコンセプトをふり返り、つくりたいものの輪郭をはっきりさせ、取捨選択していくことが大事だと思います。

インタビューを終えて

ものづくりを始める前に、リファレンスをしっかり集め、ゴールをしっかり見据えた上で、目標に向かっていくという話は、チーム作業や、モーションアクターさんとの意思疎通において特に大切なことだと改めて感じました。僕も人を採用して雇用する立場ですが、観察眼や基礎力は入社前の期間に培ってきた個々人の財産のようなもので、入社後に会社が教育することは難しいものだなと感じていますので、話を聞いて頷くことが多かったです。Cinema 4Dのステージ機能を使ったカメラワークは、とても便利で楽しそうな感じがしたので、一度使ってみたいです。


©ミライ小町プロジェクト

info.

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    発売日:2021年1月9日

    cgworld.jp/magazine/cgw270.html