イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが、銅の結晶粒界における原子スケールの応力を、マシンラーニングを用いて予測することに初めて成功した。分子動力学シミュレーションから得られるデータを、ニューラルネットワークに学習させることにより、結晶粒界における様々な原子配列に対して、応力を予測するアルゴリズムを構築したものだ。研究成果が、『Acta Materialia』誌の2022年1月号に掲載されている。
通常の金属は、多くの結晶粒から構成される多結晶体だ。各々の結晶は異なる方位を持つ単結晶構造を示し、全ての原子は規則正しく配列しているが、このような結晶が交錯する結晶粒界の原子的構造は、非常に複雑で、そこには極めて高い応力を生じ得る。
この結晶粒界における応力は、金属の破壊や疲労特性などに大きな影響をもたらし、航空機や宇宙往還機だけでなく多くの構造を設計する上で重要な情報であるが、原子スケールの応力レベルの詳細な把握は、分子動力学シミュレーションに頼らざるを得ない。また、結晶粒界の原子的構造は、比較的単純な規則性を持つものから、複雑な規則性を持つもの、あるいは規則性が乱れ粒界転位を含むものまでさまざまだ。つまりこの多種多様な結晶粒界の応力に対して分子動力学シミュレーションを適用することは、極めて難しいと言える。
研究チームは、複雑な構造を持つ結晶粒界における原子スケールの応力を、マシンラーニングを用いて予測することにチャレンジした。銅の結晶粒界における応力に関する分子動力学シミュレーションから得られるデータを、ニューラルネットワークに学習させることにより、多種多様な結晶粒界の原子的構造に対して、応力および応力パターンを予測するアルゴリズムを構築した。
これをさまざまな結晶粒界構造に対して適用し、開発したアルゴリズムの正確性を検証した結果、この手法の信頼性が高いことが実証された。原子レベルの解像度を有する高解像度電子顕微鏡から得られる結晶粒界構造について、初めて観察するような新しい結晶粒界構造を含め、それらの原子構造を認識した上で、原子スケールの応力を正確に予測できることが確認できた。
「複雑で高度な物理学に基づいた分子動力学データをベースとしたマシンラーニングにより、材料内部の結晶粒界の応力パターンを迅速かつ信頼性高く予測できることは、破壊や損傷を事前に予測する上で有意義で、極限的な環境で使用される航空宇宙用材料などの最適設計に向けて大きな前進だといえる。将来的に、より強靭で高い耐熱性と耐食性を有する結晶粒界を作り込むことができるだろう」と、研究チームは語る。開発したアルゴリズムは、非常に普遍的であるので、他の多くの材料系においても、破壊や損傷に影響を与える原子レベルの応力を定量化するのに活用できる、と期待している。
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New method to predict stress at atomic scale
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