日本時間の6月25日、ついにWindows11が正式発表された。そもそも、Windowsは「10」で最後であり、アップデートにより対応するという当初の予定はどこへやら、結局は新しいバージョンのOSがリリースされることになった。
古くからのWindowsユーザーであれば、OSのメジャーバージョンアップと聞けば戦々恐々ではないだろうか。2010年頃までは、PCのハードウェア自体がOSの要求するスペックに追いつかず、特に、Windows Vista黎明期にメーカー製の廉価なPCに見られたのが、OSの「動作要件」ギリギリで構成されたマシンであり、当たり前であるがまともに動かずイライラさせられた人も多いだろう。今思えばよくあんなスペックで発売しようと思ったものである。きちんと製品のテストをしたのだろうか?
しかし、近年のハードウェアの進歩は目覚ましく、OSの要求する性能程度であれば軽く満たすことができる。特に、2011年にリリースされたIntel第2世代のCore iシリーズ(Sandy Bridge)は、CPUのオーバークロックをカジュアルレベルで実現できるようになった「倍率ロックフリー」の製品が投入されるなど、革命的な進歩を遂げたCPUとして、今でも重量級のゲームなどをプレイしない限りは十分に現役で使用できるスペックを持っている。しかし、それ以降は多コア化によるマルチスレッド性能やグラフィック性能こそ進化したものの、根本的なCPUの処理能力は、Sandy Bridgeの衝撃を超えるものは出てこなかったともいえる。
このため、Sandy Bridgeが発売されたWindows7後期からWindows10までの期間においては、Windowsに要求されるスペックはほぼ変わってこなかった。Windows10リリース時、Windows7のPCが無償アップグレード対象となっていたが、Windows7がプリインストールされて発売されたPCはほとんどの場合、Windows10にアップグレードすることができた。
よって、私個人の中では、Windows11のシステム要件が公開されたが、どうせ今回も代り映えしないだろう、と大した問題だとは考えていなかった。
Windows11のシステム要件は以下の通りである。(マイクロソフトの公式サイトより)
ざっと見た限り、CPU やメモリ、ストレージ容量といったいつもの面々には特に高性能を要求されないようだ。
プロセッサ: | 1 ギガヘルツ (GHz) 以上で 2 コア以上の64 ビット互換プロセッサまたはSystem on a Chip (SoC) |
RAM: | 4 ギガバイト (GB) |
ストレージ: | 64 GB 以上の記憶装置注意: 詳細は下記の「Windows 11 を最新状態に維持するために必要な空き領域についての詳細情報」をご覧ください。 |
システム ファームウェア: | UEFI、セキュア ブート対応 |
TPM: | トラステッド プラットフォーム モジュール (TPM) バージョン 2.0 |
グラフィックス カード: | DirectX 12 以上 (WDDM 2.0 ドライバー) に対応 |
ディスプレイ: | 対角サイズ 9 インチ以上で 8 ビット カラーの高解像度 (720p) ディスプレイ |
インターネット接続とMicrosoft アカウント: | Windows 11 Home Edition を初めて使用するとき、デバイスのセットアップを完了するには、インターネット接続とMicrosoft アカウントが必要です。Windows 11 Home の S モードを解除する場合もインターネット接続が必要です。S モードの詳細はこちらをご覧ください。すべての Windows 11 Edition について、更新プログラムのインストールや一部の機能のダウンロードと使用にはインターネット アクセスが必要です。 |
物は試しと、windows11のアップグレード要件を満たすためのチェックアプリなるものがリリースされているようなので、「どうせイケるだろう」と、メインで使っているマシンに対して使用してみた。
※チェックアプリは6/29時点では一時公開停止となっている
CPUスペックは以下の通り。Sandy Bridgeの次世代の第三世代Core シリーズである「Ivy Bridge」世代のハイエンドCPU、Core i7 3770の省電力版である3770sである。ちなみに用途は当サイトの更新やOfficeソフトの使用であるが、全く不便がないためシステムを更新していないだけである。
実行結果はすぐに分かる。
ん…このpc ではwindows 11を実行できません!?
ええーっ!
CPU 性能もメモリ容量も大幅に要求を満たしているのになぜだ!
要求仕様を読んでいくと。どうも見慣れない単語があることに気が付く。
TPM 2.0
なんだこれは、と調べてみると。どうもセキュリティ系の仕様らしい。
TPMは基本的にはハードウェアとして実装されるが、CPUのファームウェアとしても組み込むことができるため、その場合はファームウェアバージョンアップで対応可能である。
であれば、CPUファームウェアの更新で対応可能なのではないか?
問題はいつのCPUまでサボートしているのかということだ。
結論からいうと、ファームウェアレベルでTPM2.0をサポートするのは、Intel第四世代Coreシリーズからであり、Ivy Bridgeはサポートされていなかったのである。つまり、ハードウェア的なチップも無ければファームウェアでも対応していない第三世代のCoreプロセッサであるIvy Bridge以前のCPUを搭載するマシンは、windows11より切り捨てられることが確定したというわけだ。
個人的な検証環境ではIvy BridgeのPCしかないため、それより新しい世代については実機による検証はできなかった。しかし、TPM2.0その他インストール要件を満たしているにも関わらず、チェックツールによりWindows11のインストールが不可能と診断されるとの情報も見られる。その理由としては、マイクロソフトより公開されている「サポート対象のCPU」(以下にリンク有)が関係しているのかもしれない。これによると、IntelのCPUでは第8世代のCoreアーキテクチャ(Coffe Lake)以降のCPUしか記載されておらず、それ以前(Kaby Lake)のCPUは記載されていない。もし本当にこれ以前のアーキテクチャをサポートしないのであれば、Windows11はSandyおじさんが絶滅どころか、比較的新しめ(2016年頃までの製品)であっても、インストールすることができないということが現実になるかもしれない。少なくともチェックツールで弾くということであれば、実際のインストール時にも当然同様のチェックは可能であり、要件を満たさないCPUを搭載しているPCにインストールさせないことは可能だろう。
しかし、第4世代(Haswell)から第7世代(Kaby Lake)までは、Windowsが求める全ての要件を満たしている。にもかかわらず、一方的にサポート対象外と切り捨ててインストールすらさせないとなると、ユーザーからすればまだまだ利用できるのにハードウェアを強制的に買い替えさせられる感覚になるだろう。さすがに、セキュリティ面で懸念のあるIvy Bridge以前であれば10年近く前のCPUなので諦めもつくだろうが、要件を満たすシステムに対しては、自己責任でよいのでインストールぐらいは可能にできないのだろうか。
Intel(Core i/Pentium/Celeron等)のCPU対応リストは以下サイトの通り。
参考
Windows 11 Supported Intel ProcessorsMicrosoft公式
AMD(Ryzen/Athlon等)のCPU対応リストは以下サイトの通り。
参考
Windows 11 Supported AMD ProcessorsMicrosoft公式
6/29時点で、Windows11へのアップデート可否チェックアプリは公開停止されている。
マイクロソフトは当該アプリについて、ユーザーの期待に応えるものではなかったと発表している。
確かに、「アップデートすることはできない」とは出るが、何が原因かまでは明示してくれていなかった。私の場合は、Ivy Bridgeがあまりにも古すぎるだろうということで特に気にすることはなかったのだが、これが第7世代Coreプロセッサを使用している人であれば、なぜこのシステムはWindows11を利用できないのか!と思っても不思議ではない。
実際に要件の見直しが生じるかは正式な発表やプレビュー版の動向によると思うので、引き続き情報収集を進めていきたい。ただし、現時点でTPM2.0などの要件を満たしていないIvy Bridge以前のCPUが追加でサポートされる可能性はほとんど無いだろう。あくまで、要件を満たすにも関わらず、サポート対象外として切り捨てられたCPUがどこまでサポート対象として取り扱われるかがカギとなる。
また、正式な発表ではないが、第7世代のCoreプロセッサ(Kaby Lake)については、サポート対象とすべく検討しているとの情報もある。
仮に、Windows11のアップグレード対象から外れてしまった場合においても、勘違いしてはいけないのは、今回のアップグレード対象から外れたマシンも今すぐ使えなくなるわけではないということだ。Windows11のリリースは2021年秋ごろと予想されているが、Windows11の提供開始後もしばらくはWindows10のアップデートは提供され続ける。
Windows11の新機能は残念ながら利用できないかもしれないが、Windows10はこれまで通り利用できるし、セキュリティアップデートもサポート終了の2025年10月のサポート終了までは受けることができるだろう。つまり、あと4年強は時間的に猶予があることになる。必要な場合は、それまでにアップグレード可能なハードに乗り換える必要が出てくるだろう。
Windows11と聞いても、正直なところ革新的なアップデートは期待してなかっただけに、今回のIvy Bridge以前の切り捨ては、個人的にかなり衝撃を受けることになった。
2021年はSandy Bridgeが登場してから10年である。あの衝撃からもう10年も経つのが信じられない。確かに、性能的にはまだまだ現役で使えるといったところなのだが、今回のTPM2.0といい、確実に技術は進歩していることを痛感させられることになる一件となった。
2000年代前半であれば、PCなど5年も使えたら奇跡のようなものであった。それが最長14年も利用できたのだから、御の字ではないか?という考え方もできる。
世の「Sandyおじさん」たちも、これを機にSandy Bridgeを「卒業」して、新たな相棒を探すために久々に電気街に繰り出してみるのも悪くないのではないだろうか。