2021年7月25日,「Minecraftカップ2021 全国大会」のオープニングイベントがオンラインで開催された。
Minecraftカップ2021 全国大会 オープニングイベント
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Minecraftカップとは,2019年に初めて開催され,今年が3回目となる催し。教育の現場などで活用されている「Minecraft: Education Edition」を使い,テーマに沿った開発・建設を行い,その発想やクオリティを競い合う大会だ。一昨年の第1回は133チーム,昨年の第2回は483チームが作品を応募している。
なお,今回の審査は小学生低学年部門,小学生高学年部門,中学生部門,高校生部門の4部門にて行われる。
今大会のテーマは「SDGs時代のみんなの家、未来のまち」。ご存じのとおり,SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」である。このテーマは大会実行委員と,イベントのゴールドパートナーである積水ハウスとの協議により定められたものだ。
Minecraftカップ実行委員長の鈴木 寛氏は挨拶のなかで,今回のテーマについて以下のように語った。
「人間がこの地球で長く暮らし続けていくために,二酸化炭素を出すのを控えたり,リサイクルを進めたり,自動車の使い方を見直すなど,世界中の人々が協力し,地球を守っていく時代が来ています。
そんな時代に住んでみたい家,地球にやさしい家,自然にやさしい庭ってどんなものだろう。それらが集まった未来の街はどうなるのだろうか。そんなことを友達やお家の人,地域の人たちと話し合いながら考えて作り,応募してみてください」
また,鈴木氏はMinecraft: Education Editionを「ゲームではありません。楽しめる学習です」と評し,「親御さんたちは(作品作りを)手伝ってはいけませんが,この大会への参加を通じ,ぜひお子さんと一緒に思い出に残る夏休みをお過ごしください」と述べた。
今大会の応募作品は,SDGsの目標である「3:すべての人に健康と福祉を」「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「15:陸の豊かさも守ろう」のなかから,1つ以上を取り入れる必要がある。その際,大きなヒントになるのが「Minecraftカップ2021 全国大会×積水ハウス」特設サイトや,最寄りの積水ハウスの住宅展示場とのこと。
住宅展示場ではSDGs学習プログラム(要予約)を受けられるだけでなく,今大会の「オリジナル攻略冊子」を配布している。テーマが難しいと感じている人は,参考にしてみるといいだろう。
イベントの後半には,「教育におけるMinecraftの効果について」と題した対談が行われた。登壇者はオフィシャルマインクラフトパートナーのタツナミシュウイチ氏と,世界の優秀な教員10人に選ばれた正頭英和氏だ。
正頭氏は,2016年頃からMinecraft: Education Editionを使い,金閣寺や平等院鳳凰堂などの共同制作を授業の課題として取り入れている。しかし,Minecraftにはまったく詳しくなかったそうで,教材として使い勝手がよければ,それこそ「紙粘土でもなんでもよかった」とのこと。しかし,子どもたちが話し合いながら何かを一緒に作り,英語でコミュニケーションをとり,世界に向けて英語で発信する状況を作ろうとしたとき,Minecraftがとても便利だったそうだ。
「生徒たちには『作る』プロセスの中で学んでほしかった。学校が京都にあるので,生徒たちと気軽に世界遺産を見にいける環境だったことも恵まれていました」と正頭氏は語る。
一方,タツナミ氏は日本初のプロマインクラフターとなる前から,Minecraftに魅せられ,その普及にも努めてきた人物だ。そんな氏にとっても,正頭氏の取り組みは勇気づけられるものだったそうで,「僕がワークショップなどでよくする『作る前に実物を見に行こう』という話は,正頭さんの取り組みがヒントになっています」と明かした。
また,正頭氏は「何かを作る前に本物を見に行くことは,その対象について深く知ること以外にも意味がある」と述べる。
「今は子どもたちのモチベーションが長続きしない時代です。あるときカブトムシに興味を持ったとしても,他の刺激で満たされてしまうので,1週間後にはそのことを忘れてしまう」そうだが,「みんなで一緒に見に行った」というストーリーを作り,そのことを繰り返し語りかけることで,興味が持続しやすくなるという。つまり,知識や結論自体を覚えることではなく,何かに取り組んだ記憶や経験の中にこそ,学びが生まれるというわけだ。
その後,話題は「子どもとデジタルコンテンツやネットワークの接し方」へと移っていく。
タツナミ氏が「デジタルやネットワークから(子どもを)引き離すことより,よりよい形で触れられる環境を整えたほうがいい」と発言すると,正頭氏もそれにうなずき,「刃物や火と同じように,危ないから使わせてはいけないではない。もう世界的にそれらを避けられない時代なので,使い方を教えなければいけません」と続けた。
ただ,大人が考える教育のテーマは「基本的には子どもには響かない」と,正頭氏は付け加える。
それがいくら正しいことでも,押し付けになってしまうと,子どもたちは当事者意識を持つことができない。ではどうすればいいのか。子どもたち自身の中に問いが生まれることが大切なのだそうだ。
「みんなカブトムシは知っているね。じゃあ金色のカブトムシは知っているかい?」といったように,子どもたちが知っていることをベースにして,その外側の情報を伝えるというアプローチをすると,「銀のカブトムシもいるの? カブトムシを交配すると色が混ざるのかな?」などと新たな問いが生まれてくる。
そうした問いをテーマに結びつけていくことで,初めて子どもたちはテーマを「自分ごと」にできるそうだ。そして,実際にMinecraftで共同作業を行うと,子どもたちはさまざまなことを学ぶだけでなく,新たな問いを持ち,自発的に学んでいくという。
それを受けてタツナミ氏も深くうなずき,「本当に大切なのは,Minecraftで作った作品の,その向こう側の世界です」と語る。リアル(現実世界)で興味を持った対象について,バーチャルの世界で理解を深める。そこからリアルへ回帰して,さらなる学びを得ていく。ここで伴走してあげることが大人の役割であると,1人の親として自身の考えを示した。
こうした話は,Minecraftカップ2021のテーマである「SDGs時代のみんなの家、未来の街」にも関係している。
正頭氏は「実は子どもと家は,精神的な距離が遠いものです。子どもは家に対して,問いを持っていません」と述べ,子どもたちに「理想の家を作ろう」とテーマを与えても,映画やアニメで見たものの再現に終始しがちだという自身の経験談を話した。
そしてSDGsに対しても,その文言から発想を広げようとするのではなく,子どもや家族がコロナ禍の生活で感じた問題を深堀りしていったほうが,むしろテーマにつながっていくだろうと指摘する。
「教育におけるMinecraftの効果」だけでなく,子どもの学びに関する興味深い話が続いた対談は,最後に応募作品への期待が語られた。
「作っている人のワクワク感が伝わるような作品を見たいですね。大会を通じて,Minecraftが得意になるだけでなく,「誰かに貢献することが喜び」ということに気づいてもらえれば素晴らしいと思います」(正頭氏)
「1人のマインクラフターとして,見たことがないようなワールドを見てみたいです。ぜひマイクラおじさんをびっくりさせてください!」(タツナミ氏)
4Gamer読者であれば,ゲームをきっかけにして歴史上の人物の偉業や関係性,競走馬の血統,都市開発に関する思想や経済が抱える問題といった,あまり知る機会のなかった事柄について詳しくなった経験があると思う。その一方で,学校の授業,とくに苦手科目の習った事柄はどれほど頭に残っているだろうか。
「遊びと学び」をセットにするだけでなく,そこからさらに一歩踏み込んで「遊ぶこと自体が学び」になったとき,その学習効果は計りしれないものになるかもしれない。そうした意味でも,Minecraftカップ2021 全国大会は子どもたちにとって貴重な,活きた学びの機会になるだろう。
なお,Minecraftカップ2021 全国大会の参加には事前のエントリーが必要。大会に興味を持った人は,公式サイトをよく確認したうえで検討してみよう。