※リアルの生物の写真が出てきます。苦手な方はご注意ください!
Nintendo Switchの人気ソフト『あつまれ どうぶつの森(※以下『あつ森』)』には虫や魚をはじめ、様々な実在の生きものたちが登場してプレイヤーを楽しませてくれます。
もちろんカブトムシやコイにフナなど私たちにとって身近な魚も多いのですが、中には深海生物や外国産のものなど、ちょっとなじみの薄い生きものも。
今回紹介する「ガー」などもそのひとつと言えるでしょう。
ガーはアメリカ大陸に生息する魚類の一群で、「ガーパイク」とも呼ばれます。
ガーの仲間は現在7種が北米および中米に分布しており、いずれも硬い鱗で覆われた細長い体、尖った口先に鋭い歯という似通った姿をしています。しかし、体の大きさはさまざまで、全長60センチほどにしか成長しない「スポッテッドガー」もいれば、3メートル(!)にも達する「アリゲーターガー」もいます。
◆『あつ森』のガーは「スポッテッドガー」!
なお『あつ森』で釣れるガーは体型や体の側面に並ぶドット状の斑紋から、小型種の「スポッテッドガー」だろうと推測できます。
実はこのスポッテッドガーをはじめとするガー類はほんの数年前までは熱帯魚屋さんやホームセンターのペットコーナーでふつうに販売されている観賞魚の定番でした。ゲーム内でフータさんが言及しているように、ガーは猛々しい見た目と裏腹に泳ぎや捕食があまり上手ではないなど愛嬌にあふれる一面もある魚なのです。
特にスポッテッドガーはガーの中では比較的小型で、家庭でもなんとか飼育できる(それでも少なくとも幅1メートルを超えるような大型水槽が必要ですが…)ことから人気が高かったのです。
ところが、現在ではいずれのガーもお店で見かけることはありません。
外来生物法という法律によって、飼育や輸入が規制される「環境省の指定する『特定外来生物』に指定されてしまったためです。
これはブラックバスやカミツキガメと同じ区分にあたり、放流された場合に日本国内の自然環境に適応して繁殖、もともとの生態系に影響を与える可能性が危惧されたものと考えられます。
◆ホントは危なくない
それもそのはず。近年、日本国内における野外でのガーの目撃、捕獲の例が後を絶たないのです。その中には大型で人目を引くアリゲーターガーも多く含まれており、テレビをはじめ各種メディアでセンセーショナルに取り沙汰されてきました。
中には「人を襲う凶悪外来魚!」といった恐怖を煽るようなものまでありました。まあ、たしかに迫力のある外見ではありますが、これは不当な扱いでしょう。
ガーは肉食性ではありますが、彼らは歯やアゴの構造上、丸飲みにできるサイズの獲物しか食べられないため基本的に小魚やザリガニなどの甲殻類を捕食するか、死肉を漁るなど意外とつつましやかな(?)生活を送っています。
ちなみに余談ですが、僕は彼らが本当に危険なのか検証するため、アリゲーターが群れている川で丸一日泳ぎ続けたことがあります。なお、たまに魚体が触れることはあっても一度も噛みつかれることはありませんでした。
こういう経緯を知るとなんとも不遇な魚、というようにも思えます。けれど、彼ら当人からすれば原産地で捕らえられた挙句に、日本の狭い水槽で飼われる機会が減ってよかったのやもしれませんね。
ちなみに、ガー類は太古の昔から現在までその姿をほとんど変えておらず、その事実から俗に「生きた化石」とも呼ばれています。ロマン!
こんな具合に何から何まで魅力的な魚であるガーたち。みなさんもぜひその片鱗を『あつ森』の精緻なグラフィックを通じて味わってみてください。
◆お知らせ
さて『あつ森』に登場する生きものを紹介してきたこの連載も今回が最終回となります。
一年以上にわたり、『あつ森』という作品を通じて生きものたちのお話ができてとても楽しかったです。
『あつ森』は生きものの描写という観点から見ても思わず唸らされる作品でした。今後もこういった自然とそこに暮らす動植物への敬意を感じられる作品がゲーム市場に登場することを楽しみにしています。そんな作品が世に出たなら、ぜひまたここでお話をさせください。
それでは長らくのご愛読ありがとうございました!
■著者紹介:平坂寛
Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。