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落語を語る上で外せない存在である「酒」。長屋住まいの庶民からお殿様まで、古典落語には酒にまつわる人情噺・滑稽噺がたくさんあります。

登場人物描写を丁寧に描くことで落語ファンからも一目を置かれている三代目・橘家文蔵師匠に落語と酒にまつわる歴史から、普段のお酒の飲み方まで幅広くお伺いしました。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

●橘家文蔵  1962年、東京都江戸川区小岩の生まれ。86年、二代目橘家文蔵に入門。88年「かな文」の名をもらい前座となる。90年、二つ目に昇進して「文吾」と改名。2001年「橘家文左衛門」として真打昇進。2003年からBS笑点大喜利、笑点Jr.のレギュラーメンバーを務める。2004年、彩の国落語大賞殊勲賞受賞。 2016年9月21日三代目「橘家文蔵」を襲名

 

切っても切れない「落語」と「酒」

江戸時代に生まれ、師匠から弟子へと受け継がれてきた落語。『芝浜』『寿限無(じゅげむ)』『まんじゅうこわい』など一度は耳にしたことのある演目もあるでしょう。

古典落語では、間抜けな登場人物たちが珍道中を繰り広げる滑稽噺から、うるっと泣かせる人情噺まで、個性あふれる数百もの演目が現代に語り継がれています。

撮影:武田洋輔

 

そんな落語にはたびたび「酒」が登場します。酒好きな父と息子が禁酒の約束を交わすもついつい一口と飲み始めてしまう『親子酒』、家臣の飲酒が禁じられている藩で、どうしてもお酒を藩士に届けたい酒屋とそれを阻止する(没収して自分で飲んでしまう)役人の攻防がおもしろおかしく描かれる『禁酒番屋』など、今も昔も変わらぬお酒の楽しさを感じさせてくれます。

 

しかし、江戸時代の酒は高価で贅沢な品物でした。そのため、庶民は濁り酒や日本酒を水で薄めて飲んでいたと言われています。現代の私たちがイメージする日本酒を飲めるのは、お祝いの席やお通夜など特別な時だったのだとか。落語の中ではどんなお酒が飲まれているのでしょうか? 文蔵師匠に伺いました。

 

「古典落語の中で“酒”というと、ほとんどが日本酒でしょうね。今のような日本酒が全てというわけではなく、水で薄めた安酒だったり、濁ったどぶろくのような酒、焼酎なんかが出てくる噺もあります。『長屋の花見』という貧乏長屋連中が花見にきたら酒じゃなく番茶を飲まされてガッカリするなんて噺もあるくらいなので、本当の酒好きが多かった時代なんでしょう。

落語にも酒を飲む仕草がたくさんでてきます。盃で酒を飲む殿様に対して、庶民は湯呑みで飲んでいたり、久々の酒だからとチビチビ飲む人もいれば、水のようにゴクゴクと飲み干したり。一言に“酒”といっても落語家たちも演目に合わせて様々な表現をしているので、登場人物たちが、季節や舞台によってどんな酒の飲み方をしているのか注目するのも面白いですよ」

↑お話をしながらお酒を飲む所作をする文蔵師匠。無いはずの湯飲みが見えてきます!

 

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橘家文蔵師匠が選ぶ、お酒を飲むのが楽しくなる落語4選

撮影:武田洋輔

 

落語と酒の関係を伺ったところで、さっそく文蔵師匠にお酒を飲むのが楽しくなる落語を4つ選んでいただきました。

 

「試し酒」

5升飲んでも酔わない酒豪がいると聞かされ、本当に飲めるのか実際に飲み合って確かめようと賭け合いをするお話。飲み交わしていくうちにどんどん酔っ払っていく様子が面白い。

「単調な噺なんですけど、それだけにリズム・押し引き等が難しい噺です。他の登場人物のリアクションを交ぜながら、酒豪の飲みっぷりを演じる噺です。いや~難しい(笑)」(文蔵)

 

「寄合酒」

若い衆が集まって酒を飲もう! 料理を作ろう! と盛り上がるも、失敗続きでなかなか酒に辿り着けないお話。個性豊かな登場人物と酒のつまみが次々と出てきて、どんちゃん騒ぎの賑やかな演目だ。

「この噺は、一文無しの若い連中が色んな工夫で酒の肴を調達して来る、2018年にヒットした映画『万引き家族』みたいな噺です(笑)。伸縮出来る便利な落語なので、よく寄席でも演じています」(文蔵)

 

「青菜」

お屋敷に訪れた植木屋。休憩中にその屋敷の旦那と雑談しているうちに“隠し言葉”を教えてもらう。この言葉に憧れて家でもやってみようとするが……というお話。みりんと焼酎を半々に割った『柳蔭(やなぎかげ)』(上方での呼称、江戸では本直し)というお酒が出てくるのにも注目したい。

「炎天下、屋敷の縁側に腰掛け庭を眺めながら冷酒(柳蔭)を飲んでいる旦那様の優雅な佇まいを職人(植木屋)が『俺もやってみよう』と、女房を巻き込んでのドタバタ劇。静かな始まり→ドタバタコントが演じ甲斐のある噺です」(文蔵)

 

「猫の災難」

お隣に住む猫が病気になりその見舞いにと貰った「鯛」をめぐるお話。鯛の頭と尻尾しか貰っていなかったので、どう言い訳しようかと苦戦する熊さんとそれを責める兄貴とのやりとりが痛快だ。

「『たまの休日なんだから昼間っから酒を飲みたい。ただ飲みたい』ってだけの願望で兄弟分にあれこれ頼み、見事にベロンベロンになっちゃう無責任な野郎の噺。酒飲みのいい加減な所が私に通ずるので大好きな噺です(笑)」(文蔵)

 

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「落語家」と「酒」の美味しい関係

撮影:武田洋輔

 

ここからは普段からお酒が大好き! という文蔵師匠にお酒のお話を伺っていきます。

文蔵師匠のTwitterを覗いてみると美味しそうな料理とお酒が投稿されています。普段はどんな飲み方をされているのでしょうか?

 

「もう朝起きた時から、『今日は何を飲もうかな? どの肴をあてようか?』ってず〜っと考えているんですよ(笑)。飲むところから逆算して1日のスケジュールを考えていますから。

スーパーに行ってその時安いもの、食べたいものを選んでチャチャチャっと適当に酒の肴を作るのが好きなんです。

お酒は、焼酎が多いかな。普段よく飲んでいるのは、焼酎の蕎麦茶割り。蕎麦屋でよく蕎麦湯割りを頼んでいたんですけど、『蕎麦茶も合うよ、健康にいいし』なんて教えてもらって一気に好きになってしまって。家でも蕎麦の実から自分で蕎麦茶を煎じて飲むほどに。

普段は甲類焼酎だけど、麹まで蕎麦でつくった『十割(とわり)』というそば焼酎があるというので、今度、十割(じゅうわり)蕎麦茶割りも試してみたいなあ」

 

取材時も「今夜は日本酒を冷蔵庫で冷やしているから」とうれしそうに語ってくれました。

毎日の晩酌が楽しみという文蔵師匠に修行時代のお酒との関わり方についても伺いました。

 

「落語家って前座修行中は、お酒が基本NGなんですよ。うちの師匠は下戸だったから酒なんてもってのほか! って人でした。ま、隠れて飲んでいましたけど(笑)。なので、うちの弟子たちには『隠れて飲むくらいなら飲んでもいいよ、でも粗相のないように』と言っています。でもね、あいつらは粗相だらけですね(笑)。旅先なんかで弟子たちと飲み始めると無礼講になっちゃうんですよ。今は時代的にそういうのが難しいですけど、『おいおい! 師匠が弟子の酒つくってるぞ〜』って弟子から指差されて笑われたりね、まあ酒の席って楽しいですよね」

 

お酒の思い出話を笑顔で語ってくれた文蔵師匠。いいお酒を飲むだけでなく、旨い肴と気の合う仲間との空間があってこそ、美味しいお酒になるのだと感じました。そんな文蔵師匠の独断で選ぶ、好きなお酒と美味しい肴のペアリングもお伺いしてみました。

 

「初めて『美味しいな〜』と思ったお酒は日本酒ですね。そこから焼酎とかも飲むようになって、今はコレと決めずに、色々な酒をその日の気分で楽しんでいます。

家に帰ってすぐ飲みたい時には缶ビールを買いますし、暑い時期なんかは、甘くない缶チューハイもいいですよね〜。気がついたら3缶くらい空いてて、そのままゴロンですよ。

甲類焼酎だと昔から「純」とかですかね。 この前はブレンド茶で割って、肴には「カツオの豆板醤和え(写真)」を。ほんとうまかったですね〜。ついつい飲みすぎちゃいました」

↑文蔵師匠お手製の「カツオの豆板醤和え」。サクで買ってきたカツオを食べやすい大きさに切り、だし醤油と豆板醤、好きな薬味で和えたもの。鶯谷の寿司屋の大将から教えてもらったレシピなんだとか

 

 

「あと芋焼酎も結構好きですが、全量芋焼酎の『一刻者』は、水で割るのがもったいない。だからストレートで、チェイサーと一緒にチビチビと。これには豚のブロック肉を買って調理する角煮とかぴったりでしょう」

 

好きなお酒を飲みながら落語に耳を傾ける……。江戸時代へタイムスリップした気分で、現代のうまいお酒を味わえば、心地よく酔えること間違いなしです。早速、涼しい夕暮れ時など、好みのお酒を用意して、落語飲みを試してみませんか?

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎 「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・全量芋焼酎 「一刻者(いっこもん)」
https://www.ikkomon.jp/

・そば焼酎「 十割(とわり)」
https://www.takarashuzo.co.jp/kodawarigura/towari/