脳による意思決定についての神経科学的理論を用い、人間がいつ道路を横断するかを予測する際に役立つ可能性がある研究が発表された。これにより、自動運転車を歩行者にとってより安全なものにできる可能性がある。英リーズ大学を中心とした研究チームによる研究で、その詳細は2021年10月5日付で『Computational Brain & Behavior』に掲載された。
今回の研究では、「ドリフト拡散(Drift-Diffusion)モデル」という意思決定プロセスを説明する数理モデルが、近づいてくる車を見た歩行者がいつ道路を横断するかを予測できるかどうか、また、明確な合図の有無にかかわらず、車が歩行者に道を譲るシナリオにも利用できるかどうかを調べた。
車が道を譲っているとき、歩行者は車が本当に速度を落としているのかどうか確信を持てず、車がほぼ完全に停止するまで待ってから道を渡り始めることがよくある。このような不確実な状態で、歩行者は道を横断するかどうかを判断する際に、車両との距離や速度だけでなく、車両からの何らかの合図を元にさまざまな「証拠」を積み重ねていると考えられる。ドリフト拡散モデルでは、人間はあるしきい値に達するまで感覚的な証拠が蓄積されると意思決定をすると仮定している。
今回、研究チームのモデルを検証するために仮想現実(VR)を用いた。リーズ大学の「Highly Immersive Kinematic Experimental Research(HIKER:高没入型運動学的実験研究)」歩行者シミュレーターの中で、実験参加者にさまざまな道路横断シナリオを体験してもらった。HIKER歩行者ラボは、米イリノイ大学が開発した「CAVE」という没入型ディスプレイシステムをベースとした歩行者シミュレーション環境で、この種の物としては世界最大だ。
実験参加者は、自動車が近づいてくる道路を再現した立体的な3Dバーチャルシーンの中を自由に歩き、研究チームはその動きを詳細に追跡した。参加者に与えられた課題は、安全だと思ったらすぐに道路を横断することだった。実験では、近づいてくる自動車が同じ速度を維持する、歩行者を横断させるために減速する、時にはヘッドライトの点滅(英国で車が道を譲る際に一般的に使っている合図)も行うなど、さまざまなシナリオを試した。
その結果、モデルが予測したとおり、参加者は車との距離、速度、加速度、車から伝達される合図から得られる感覚データを、時間の経過とともに積み重ねていき、いつ横断するかを決めているかのように振る舞っていた。つまり、このドリフト拡散モデルで、歩行者が道路を横断し始めるかどうか、また、歩行者がいつ道路を横断しそうかを予測できる可能性があることを示している。
今回の研究結果は、交通における人間の行動をより深く理解するために役立つ。これは交通安全を向上させるためにも、道路を利用する人間と共存できる自動運転車を開発するためにも必要なことだ。例えば、自動運転車が、いつどのように減速し、歩行者に安全に横断できることを伝える合図をすべきかを最適化できるようになり、そのような予測機能が実現すれば交通の流れを最大化し、不確実な状態を減らすことができると考えられる。
関連リンク
Making self-driving cars human-friendly
Variable-Drift Diffusion Models of Pedestrian Road-Crossing Decisions
Highly Immersive Kinematic Experimental Research (HIKER) pedestrian lab
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