ある研究によれば、偽造医薬品による事故が原因で年間100万人が死亡し、そのうち10分の1はアフリカで発生している。偽造医薬品は、発見、検査、定量化、排除が難しい。これは世界的な問題で、基準に満たない医薬品による不当な利益は年間1000億ドル(約11兆300億円)を超えている。
この問題を解決するためのいくつかの技術が開発されている。製品の容器に無線ICチップが埋め込まれたシリアルナンバーを付けて、そのデータを読み取る無線識別技術はその1つだ。最近では、RxAll(アールエックスオール)の技術のような、より現代的なアプローチも採用されている。RxAllは、深層技術を活用して医薬品の品質を確保する技術を展開するスタートアップ企業で、米国とナイジェリアを拠点としている。現地時間7月21日、同社は、既存の市場での規模拡大と技術の向上を図るべく、315万ドル(約3億5000万円)の資金調達ラウンドを発表した。
RxAllはAdebayo Alonge(アデバヨ・アロング)氏、Amy Kao(エイミー・カオ)氏、Wei Lui(ウェイ・ルイ)氏によって2016年に設立された。当時イェール大学の学生だった3人がRxAllを創設したのは、自分自身、または身近な人が直面した問題を協力して解決するためだった。
アロング氏は2006年、致死量のジアゼパムが含まれた偽造医薬品を飲んで生死の淵をさまよい、3週間の昏睡状態に陥った。
アロング氏はTechCrunchの電話による取材に次のように応える。「私は15年前、ナイジェリアで3週間昏睡状態に陥りました。共同設立者のエイミーは、タイで偽造医薬品を飲んで入院しました。ウェイは、汚染された偽造医薬品のせいで家族を失いました」。
アロング、カオ、ルイの3人は、イェール大学化学学部での研究開発プロジェクトをベースに、機械学習と分子分光法を医薬品や原材料の品質、品質保証に応用する方法を検討し始めた。3人には、安全で評判の良い医薬品の販売者を認証するマーケットプレイスを構築し、まず高品質な医薬品の入手が難しいアフリカの問題を解決し、次に全世界に広げていく、という大きなアイデアがあった。
アロング氏は続ける。「調べていくうちに、私たちが経験したことが一過性のものではないことがわかりました。これは現在進行形の問題です。毎年、10万人のアフリカ人が、偽造医薬品が原因で亡くなっています。世界中では100万人です」。
RxAllの独自技術であるRxScannerは、ユーザーが医薬品を検査するための携帯型検査装置である。同社によると、RxScannerは20秒で処方薬の品質を識別し、モバイルアプリですぐに結果を表示することができるという。
RxAllは、質の良い販売者を自社のマーケットプレイスに集め、RxScannerを提供する。対象の医薬品を分光分析して、機械学習モデルで基準となる医薬品(リファレンス)と比較した場合の同一性や品質を示す検査を行い、結果を送信する。バッチテストが終わると、販売者は製品をマーケットプレイスに出して、オンデマンドの注文や受け取りだけでなく、配送サービスも利用できるようになる。販売者はフィルターを使って探すことができる。
RxAllはマーケットプレイスでの取引による手数料で収益を上げ、RxScannerには、個人や企業を対象としたサブスクリプションモデルを採用している。
同社の革新性にもかかわらず、アフリカを重要視した多くのディープテック(最先端のテクノロジー)プラットフォームと同様に、RxAllは資金調達をほとんど行っていなかった。このようなスタートアップ企業は研究から商業化までのサイクルが長く、ベンチャーキャピタルはサイクルの後半に関与するから、というのが、その主な理由だ。RxAllはこれまで、助成金やコンテストでの賞金の他、アフリカに特化したアクセラレーター、Founders Factory Africa(ファウンダーズファクトリー・アフリカ)などから新株発行で資金調達してきた。
アロング氏は、RxAllはディープテックとヘルステックを組み合わせた世界の先駆者であり、少なくとも当面は、RxScannerのシステムと直接競合する他社は出てこないと考える。
「医薬品のeコマースとは別物です。薬物検査の分野で言えば、他のソリューションには実験室用の高価な機器しかなく、RxAllの市場、応用分野、価格帯、深層学習とスマートフォンを使ったソリューションとは比較になりません」とアロング氏。
しかし、技術的な優位性だけでは製品は売れず、ビジネスも成り立たない。アロング氏によれば、RxAllの技術を拡大するための鍵は、コストがかかっても市場に受け入れられる製品を作ることだという。同社は現在、投資家にわかりやすい技術の開発に加え、この課題にも取り組んでいる。
RxAllは、自らをグローバル市場で活躍する企業と表現する。しかし、先に述べたように、同社の顧客と収益の大部分はアフリカ、特にナイジェリアにある。現在、RxAllは10都市にサービスを展開中で、西アフリカ諸国の2000以上の病院や薬局にサービスを提供し、100万人の患者に対する医薬品の真贋を検証している。2021年中にサービス提供範囲をさらに14都市拡大し、2022年にはアフリカ全土での展開を予定している。
今回の資金調達ラウンドは、最近クローズした200万ドル(約2億2000万円)のシードラウンド(申し込みが上回り、225万ドル[約2億5000万円]のオーバーサブスクライブとなった)と、2020年末に調達した90万ドル(約1億円)のプレシードを合計したものだ。Launch Africa Ventures(ローンチアフリカベンチャーズ)が主導し、SOSV(エスオースブイ)のアクセラレータープログラム「HAX(ハックス)」と本田圭佑氏のKSKファンドが参加した。
今回のラウンドについて、Launch Africa Venturesのマネージングパートナー、Zachariah George(ザカリア・ジョージ)氏は次のように話す。「Launch Africa Venturesは、RxAllの優秀かつ経験豊富なチームに対して、この資金調達ラウンドを主導できることをうれしく思います。RxAllは、医薬品販売プラットフォームのパイオニアとして、薬局や患者が検証済みの医薬品をオンラインで購入することを可能にし、アフリカで質の高いヘルスケアを受けられるかどうかという大きなギャップを埋めていると確信しています。偽造医薬品を排除するための独自のモバイル分光計技術と、医薬品販売のサプライチェーン全体と独自の決済手段を所有することで、顧客1人あたりで高い経済性を実現し、複数の収益源を獲得しています。アフリカ全土、さらに全世界での大きな成長と規模拡大の機会が見込まれます」。
SOSVのジェネラルパートナーであり、HAXのマネージングディレクターであるDuncan Turner(ダンカン・ターナー)氏も「私たちは、RxAllの拡張性と顧客の需要に対応する能力に非常に感銘を受けています。この1年間で、RxAllのチームは、世界レベルのハードテクノロジーと卓越したオペレーション能力を結集し、100万人以上のナイジェリアの人々の、緊急の課題を解決してきました」と続ける。
では、RxAllの次の展開は?アロング氏は、RxAllが次に力を入れるのはパートナーシップだという。同氏によると、RxAllがナイジェリア、アフリカ、その他の地域でマーケットプレイスやRxScannerの提供範囲を拡大するには、パートナーシップが不可欠だ。
「RxAllは、病院や薬局、患者さんだけでなく、政府や各国のFDA(食品医薬品局)にもRxScannerを販売しています。そのため、ナイジェリアだけでなく、アフリカ、東南アジア、北米、南米など、世界各地でしっかりとしたパートナーシップを確立したいと考えています。私たちが目指すのは、これらの主要市場への規模拡大です」。
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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)