安全な運転の促進や効率的な保険の提供など、モビリティの安全性と利便性を向上させるコネクテッドカー。しかし、その活用方法やビジネスモデルの未来は未知数だ。そこで、フロスト&サリバンのモビリティ担当プリンシパルコンサルタントであるPaulo Mutuc(パウロ・ムトゥック)氏がモデレーターとなり、HERE Technologiesグローバル・セールス・ディレクター白石美成氏、Gojekモビリティ関連製品担当役員Vikrama Dhiman(ヴィクラマ・ディマン)氏、日産自動車コネクティド技術開発&サービスオペレーション部部長の村松寿郎氏、富士通中央および東ヨーロッパ地区コネクテッド・サービス、製造、モビリティ部門担当役員Tobias Geber-Jauch(トビアス・ガバー・ヤウ)氏がコネクテッドカー活用の未来を語り合った。
本記事はフロスト&サリバン主催『インテリジェントモビリティサミット2021 ゼロへのイノベーション』中のセッションの一部講演を編集、再構成したものとなる
日本、米国、中国で求めるものが違う
コネクテッドカーは世界的にどういった動きを見せているのだろうか。モバイルサービスにデータを提供するHERE Technologiesの白石氏によると、インドでは80%、中国では76%が「コネクテッドカーは有用」と捉えているという。
白石氏は「コネクテッドカーの活用促進には政府の政策も大きな役割を果たします。インド政府はMtoMを支援しているため、コネクテッドカーの体験も良くなっていくでしょう」と話す。
日産自動車の村松氏は、日本、米国、中国におけるコネクテッドカーの需要の違いに着目する。
村松氏は「コネクテッドカーへの取り組みは日米ではほぼ同時期にスタートしています。米国では、安心・安全のため、テレマティクスのためのコネクテッドカーという側面が強い。しかし、日本ではあまりそういう需要はありませんでした。しかし、最近ではユーザーもコネクテッドカーの有用性を理解し始めています。中国のコネクテッドカーはガジェット的な意味合いが強いですね」と話す。
Gojekのディマン氏はインドと中国の市場の性質の違いを指摘する。インドのコネクテッドカー市場は市場の期待で動き、中国の市場は政府からの支援で動くという。
コネクテッドカーは誰のためのもの?
富士通のガバー・ヤウ氏はコネクテッドカーの普及率が低いことに注目する。「コネクテッドカーはプレミアムカーの特権のようなものです。しかしながら、ユーザー全員のクルマがプレミアムカーというわけではありません。シンガポールではほとんどのクルマがプレミアムカーなので、逆にコネクテッドカーの普及率が高くなります」と解説する。
では、コネクテッドカーを普及させるには何が必要なのか。ガバー・ヤウ氏は適切なビジネスモデルとユーザー向けの価値創出が必要だと語る。
「自動車メーカーは『データを使って儲けたい』と考えます。シンガポールでは、新しい交通・物流が必要でした。だからこそコネクテッドカー活用が進んでいます。規制によっては、自動運転のトラックが街を走ることになるかもしれません。しかし、1人ひとりのドライバーには、物流の変革なんてどうでもいいことです。自動車メーカーにとって『データを使って儲ける』ことには価値がありますが、ユーザーには価値がないのです。『データを使って儲ける』にはデータが必要ですが、個人個人のユーザーに対する利益が発生しないなら、彼らがデータを渡したくなる理由も発生しません。ユーザーも利益を得るビジネスモデルが必要です」とガバー・ヤウ氏。
白石氏は「Here Technoligiesは位置データを提供する企業ですが、もし自動車メーカーのデータを利用できれば、当社のサービスに生かすことができます。これは、自動車メーカーからすれば、データのマネタイズの側面もあります。しかし、自動車メーカーのデータがユーザーから収集されるものだとしたら、そのデータの所有者は誰なのでしょうか?これも考える必要があります」と問題を提起する。
スーパーアプリはゲームチェンジャーになるか
ここでモデレーターのムトゥック氏は「スーパーアプリとコネクテッドカーの今後はどうなっていくと考えますか?」と質問した。
スーパーアプリとは、1つのアプリの中でさまざまなミニアプリを開くことができるアプリケーションを指す。1つのスーパーアプリの中で数多くのことができるため、プラットフォームとしても機能する。
ディマン氏は「公共交通のデータを使ってどこに何があるのか、どこを通るのかといったことを把握できれば、スーパーアプリの中に車の移動に関するアプリも入ってくるでしょう」と話す。さらに「こうしたデータ収集がユーザーに何をもたらすのかをきちんと見せることができれば、データを持つ企業にとって大きなリードになもなるでしょう」という。
白石氏は「スマホは顧客との最初の接点です。自動車メーカーとスーパーアプリがどう手をつなぐのかが今後重要になります。これには、自動車メーカーが社内のディスプレイを通して、どうユーザーとコミュニケーションをとるのかという問題も含まれます」と指摘する。
さらに白石氏はミニアプリの重要性にも触れた。自動車メーカーがコラボレーションするスパーアプリを選定する際、ミニアプリが手がかりになる可能性があるからだ。さらに、スーパーアプリに搭載されるミニアプリが充実すれば、スーパーアプリがプラットフォームとしてさらに強力になるため、スーパーアプリだけでなく、ミニアプリの内容も考慮することが重要だという。
村松氏は、日産が展開する「Nissan Connect」を例に、日産とアプリの関係について話す。Nissan Connectは通信機能を使い、最新の交通情報を基にした最速ルートをドライバーに提供するなど、多様な機能を備えたサービスだ。
「当社にはNissan Connectというアプリがありますが、これを自動車業界ではないところと統合するイメージはつきにくいのが現状です。外のエコシステムとどう繋がるかは大きなテーマです。例えばエネルギー業界とLeafのデータを共有することができたら、ダイナミックに電力価格を設定することも可能でしょう」と村松氏は語る。
私たちはクルマを所有しなくなる
モデレーターのムトゥック氏は最後に「今後のコネクテッドカーの行方についてどう予測しますか?」と質問した。
ディマン氏はまずコネクテッドかーには5つの側面があり、それをまず考える必要があると話す。その5つとは、「1. vehicle to Infrastracture(クルマ-インフラ)」「2. vehicle to vehicle(クルマ-クルマ)」「3. vehicle to cloud(クルマ-クラウド)」「4. vehicle to pedestrian(クルマ-歩行者)」「5. vehicle to X(everything)(クルマ-すべて)」だ。
「では、こうした側面から、コネクテッドカーをどう活用するのか。例えば夜外食するのにクルマで出てきた時、パーキングが1時間見つからなかったら、ディナーが食べれなくなります。自動車がドライバーなしでパーキングを見つけ、駐車できるなら、ユーザーはゆっくり夕食を楽しめます。コネクテッドカーの話をすると、コネクテッドシティの話になりがちですが、大事なのは今の例のようにユーザー優先の発想です。これが今後重要になるでしょう」とディマン氏。
村松氏は自動車業界ではない業界との連携の重要性を指摘。「GAFAやBATHなど、IT業界との連携が重要ですが、10年後のIT業界がどうなっているかは見えませんね」と回答。
白石氏は「クラウドデータが自動車メーカーを含めたエコシステム全体で重要になります。クラウドソースのデータは常に更新されなければいけません」という。
ガバー・ヤウ氏は「10年、20年、30年後と、ビジネスモデルはどんどん変わっていきます。私たちはクルマを持たず、病院などの『行先』が私たちのところに迎えのクルマを出すようなパッセンジャーエコノミーになっていくでしょう。さらに、何か欲しい商品があったとき、商品の販売者の方からクルマで商品が持って来られるようなこともあり得ます。クルマを所有することをやめ、サービスとしてクルマを使うような社会が訪れるでしょう」と今後の展望を予測した。
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