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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大をきっかけに、オーストラリアの各地方自治体は処方箋の完全電子化を優先事項として進め、電子処方箋制度は2020年5月に開始した。その後オーストラリアでは、政府の標準規格に基づく電子処方箋交換サービス「eRx Script Exchange」(以下、eRx)が広く普及している。

 前編「『電子処方箋』が直面、“完全電子化”を阻害した要因とは?」は、COVID-19の拡大によってeRxの普及が急速に進むまでの経緯を紹介した。中編は、eRxのベンダーであるeRx Script Exchangeが電子処方箋制度の開始に当たって、開発パートナー企業をどのように選び、サービスを改修したかについて紹介する。

 電子処方箋の交換手法として採用されたのは「薬を処方する医師がQRコードの電子トークンを発行し、ショートメッセージサービス(SMS)やメール経由で患者に送る」というものだった。調剤薬局は読み取り用のソフトウェアを使って患者の携帯電話やスマートフォンからQRコードを読み取って、処方箋の詳細を取得する。

 このアプローチの強みは、紙の処方箋が必要ないことだ。郵送やファクシミリ(FAX)を使う際の遅延が生じず、患者は処方箋を即時に入手できるようになる。「遠隔医療を実施する場合、これは素晴らしい方法だ」とeRx Script Exchangeの親会社に当たる医療ITベンダーFred IT GroupのCEO、ポール・ネイスミス氏は言う。

 SMS送信技術を取り扱うパートナー企業としてeRx Script ExchangeがTwilioを選んだのは、スケーラビリティとSMS配信品質を重視してのことだった。Twilioのアプリケーションプログラミングインタフェース(API)は電話やSMSだけでなく、「WhatsApp」「Facebook Messenger」などのグローバルなメッセージングサービスや各種モバイルアプリケーションと連携してメッセージの送受信を可能にする。例えば同社のAPIは、タクシー配車サービス「Uber」で顧客と運転手がコミュニケーションを取る場面で用いられている。

 主な特徴は、どのような通信チャネルを使うにしても、TwilioのAPIを使うだけで連携できる点だ。Twilio社のオーストラリア・ニュージーランド地域担当副社長クリステン・ピンピニ氏は「Twilioはチャネルにとらわれない。素晴らしいユーザーエクスペリエンス(UX)の提供を目指してどのようなサービスとも連携する」と話す。

 ピンピニ氏の説明によると、Twilio社は eRx Script Exchangeが採用していたバックエンド技術に精通していたことから、メッセージング技術の実装を支援したという。このプロジェクトの初期段階でCOVID-19のパンデミック(世界的大流行)が起きたため、両社のスタッフは対面ではなくWeb会議ツールを介してミーティングを実施することになった。

 QRコードトークンを用いた電子処方箋の交換はオーストラリアのビクトリア州から始まり、他の州にも広がった。ネイスミス氏によると、この展開は順調に進み、電子処方箋の大半がSMSで送付された。

 オーストラリア政府がCOVID-19によるロックダウン(都市封鎖)を実施した結果、人々は薬局に行くのをためらったため、電子処方箋を調剤薬局へ転送して患者に薬を配達する仕組みが必要となった。そのためeRx Script Exchangeは国内のラストマイル配送サービス企業と連携し、eRxのワークフローを改修した。


 QRコードトークンとSMSの運用には課題もあった。後編は、サービス運用上の課題と解決策を解説する。

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