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 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

到達距離を3kmまで引き上げる一方、波長の分散範囲を±6.5nmから±5.75nmに縮小

 前回からのOCPの規格の話を続けよう。次の「200G-FR4-OCP」の最新版は、2020年1月にRev 0.3が公開されている。

 そのベースとなるのは、『レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格』でも触れているが、「IEEE 802.3bs」で定義された「200GBASE-FR4」である。「ベースとして」というのは、当然違いというかカスタマイズがなされていて、その相違点が以下となる。

  • 到達距離を3kmまで引き上げ
  • 温度範囲を0~70℃から15~65℃に変更
  • 波長の分散範囲を±6.5nmから±5.75nmに縮小
  • 「CWDM4-100G」との互換性を持たせる

 前回も触れたように、例えばFacebookのデータセンターにおける配線のうち、79%は500m未満である。ただし、残りの21%のうち、2km以下なのが16%、3km以下なら20%をカバーできることになる。

 逆に言えば、到達距離2kmの200GBASE-FR4をそのまま使うと、5%ほど対応できない部分が残ってしまうことになる。ところが、これを3kmまで拡張できれば、対応できないのは1%まで減る。そんなわけで、3kmまで拡張することで対応しよう、という話だ。

 2つ目の温度範囲も前回と同じ話で、これにより利用する送受光素子や内部のチップの動作条件が緩められ、結果としてコストダウンが可能となる。これに関係するのが3番目の項目だ。温度範囲を狭めたことで、波長の分散も減ることになったとしており、その結果、波長の分散範囲がやや縮まった格好だ。

 最後の話も面白い。おそらくだが、前回紹介した「CWDM4-OCP-100G」の到達距離はあくまで500mしかないが、これを超えるケースが全体の2割ほどある。3kmには目をつぶるとしても、2kmの範囲はこちらの記事で紹介したCWDM4-100Gを利用して接続を行っていたようだ。

 これが、こちらで紹介した到達距離10kmの「100G 4WDM-10」はないあたり、さすがにFacebookのデータセンター用としても仕様として過剰だったということだろうか。

 そしておそらく、このCWDM4-100Gのモジュールを200G-FR4-OCPへ入れ替えるかたちで、アップグレードが順次行われていった結果、その移行期間にも100Gbpsでの通信が可能なように、CWDM4-100Gとの互換性が求められたのだろう。

送信側では受信感度の引き上げで到達距離延長に対応

 到達距離を延ばすとなると、発光出力や受光感度は当然上げる方向へ行くし、一方で温度範囲の変更は、いくつかのパラメーターの条件を緩めることになる。その結果として、パラメーターは細かく変わることになった。

「200GBASE-LR4」とまとめて示されているので注意。出典は「IEEE 802.3-2018」のTable 122-9

 左上が200G-FR4-OCP、右上が200GBASE-FR4のTransmit Parameterだ。前者は右にA~DのDeviation(注釈)が付いており、その内容が以下となる。

  • A 波長幅の縮小(±6.5nm→±5.75nm)に伴う変更
  • B minimum Tx output AOP/OMA(最小送信電力)が1dB減ったことに起因する変更
  • C 200GBASE-FR4にはない、追加された要件。
  • D オーバーシュート/アンダーシュートに関する追加要件

 この脚注が付いていない項目は、200GBASE-FR4から変更がない。最大発光電力は、全体で10.7dBm(≒3mW)、レーンごとでは4.7dBm(≒11.7mW)のまま据え置かれており、到達距離の延長は主に受信感度の引き上げで対応する格好だ。

受信側でも波長幅を縮小し、最小受信電力を1dB減、BERに関する規定も追加

 受信側については、以下左が200G-FR4-OCP、以下右が200GBASE-FR4のReceive Parameterとなる。

こちらも200GBASE-LR4と同じ。出典は「IEEE 802.3-2018」のTable 122-11

 200G-FR4-OCP(左)のDeviation(注釈)の意味が以下となる。

  • A 波長幅の縮小(±6.5nm→±5.75nm)に伴う変更
  • B minimum Rx output AOP/OMA(最小受信電力)が1dB減ったことに起因する変更
  • C BERに関する規定を追加

 実際、Average receive powerを比較すると、Each Laneの数値は-8.2~4.7dBm(≒0.15~2.95mW)から-9.2~4.7dBm(≒0.12~2.95mW)となっており、信号が相応に減衰することが想定されている。

 これをこのまま通すと、おそらくBERがかなり悪化してしまう。これを防ぐため、BER floorとして3.4E-6が追加されたかたちかと思われる。FECを追加し、より低いBERに対応できるようにすると、既存の200GBASE-FR4のPCSが流用できなくなる。

 純粋に技術面だけで言えば、PCSそのものは流用できるはずだが、PCSとPMAの間にFECを挟む格好になると思われる。実際にはPCS~PMAあたりまでは完全にワンチップ化されているので、ここに今さらFECを挟むとなると、チップそのものの変更が必要になってしまうため、あくまでもPMD層でこのBERを確保する、という方向にしたようだ。

 ちなみに、もう1つ200G-FR4-OCPで追加された点に消費電力がある。こちらは100G、つまりCWDM4-100Gとして動作する場合には6W、200G(つまり200G-FR4-OCP)で動作する場合には6.5Wに抑えることが求められている。

 また、モジュール形状はQSFP28ないしQSFP56を利用することになっている。もっとも、この2つは、モジュール形状が同じで単に信号が28G NRZか56G PAM4かの違い(つまり電気的な信号速度は異なる)だけである。

 さてこの200G-FR4-OCPも、ぱっと探しただけでも対応するトランシーバーモジュールが既にColorChipInnoLightなどから提供されている。

 到達距離3kmというあたりからして、CWDM4-OCP-100Gよりも利用したいユーザーの数は少なくなりそうだが、それでもFacebookクラスの大規模データセンターで需要が見込めるなら、製品を用意するだけの市場があるということだろう。

 さて、これに続く「400G-FR4-OCP」であるが、2021年5月の時点で『400GbEはFacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張』でも掲載した以下のスライドが出てきていにも関わらず、現時点ではまだSpecificationが公開されておらず、その中身は不明なままである。

 ただ200G-FR4-OCP同様に、ベースは『最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」』で紹介した「400GBASE-FR4」とし、この到達距離は3kmに伸ばした上で動作温度範囲を15~65℃に狭め、200G-FR4-OCPとの互換性を持たせたものになるかと思われる。

 気になるのはモジュールの方で、QSFP56のままでは400Gには対応できない。1つのアイディアは「QSFP56-DD」で、QSFP28/QSFP56への後方互換性を持つため、これを採用している可能性がある。ただ、このあたりはSpecificationが出てこないと何とも言えない。

 今の調子だと2022年以降に公開だろうか? その先の800Gに至っては、まだ仕様に向けての話し合いにどこまで入っているか、というレベルである。何しろ800G Ethernetそのものがまだ仕様策定の真っ最中なわけで、2024年あたりになるまでは、何も出てこないかもしれない。

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