コロナ禍でアーティストの活動が制限されているなか、渋谷区公認のバーチャル空間『バーチャル渋谷』に、VRを活用したバーチャルライブハウス『SHIBUYA UNDER SCRAMBLE powered by au 5G』がオープンした。このバーチャルライブハウスとはどんな内容で、どんな特長であるのか。ライブの映像とともに、取り組みの背景などを紹介する。
『バーチャル渋谷』とは
まずは、バーチャルライブハウスを紹介する前に、そのライブハウスのある『バーチャル渋谷』について説明しよう。
『バーチャル渋谷』は、バーチャル空間に生まれたもうひとつの“渋谷”だ。最先端テクノロジーを活用して新たな文化創出の起点になるよう、バーチャルな渋谷の街とリアルな渋谷の街とが連携する。
運営は、KDDI、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会を中心とした、およそ70社が参画する『渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト』。新型コロナウイルス感染症の影響のなかでも渋谷における経済や文化の流れを止めず、エンターテイメントで新しい体験価値を創出する渋谷という街をサポートしたいという想いから誕生した。
バーチャル渋谷への入口は、スマホやPCでバーチャルイベントプラットフォームアプリ『cluster(クラスター)』からアクセス。過去にもバーチャルハロウィーンやバーチャルクリスマスなど、イベントシーズンごとに盛り上がりを見せた。
このバーチャル渋谷内に新たにオープンしたのが、バーチャルライブハウス『SHIBUYA UNDER SCRAMBLE powered by au 5G』だ。
バーチャルライブハウスとは
このバーチャルライブハウス『SHIBUYA UNDER SCRAMBLE powered by au 5G』は、コロナ禍における渋谷のエンタメ業界などを支援する『YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング』の取り組みの一環として、アーティストやライブハウスなど渋谷でエンタメに関わる人たちの表現活動を支援する場として立ち上がった。
オープニングデーである2021年3月31日から週末を中心に合計20日間、渋谷にゆかりのあるアーティスト100組がライブパフォーマンスを配信する。
実際にライブを体験してみたので、clusterアプリから参加する様子を一部紹介しよう。
まずは、clusterアプリをダウンロード。アプリ内にある『バーチャル渋谷』から【遊びに行く】をタップ。自分の分身となるアバターを選択すると、バーチャル渋谷に入ることができる。
入ると、現実のJR渋谷駅ハチ公口から出た風景と同じく、バーチャル空間の渋谷のスクランブル交差点が目前に広がる。
ここから足元の光る矢印に沿って進むだけ。ライブ開催期間中で、ライブハウスまでの道案内が表示される仕組みだ。
この案内に沿って進むと、現実世界における地下鉄の入口=地下空間のライブハウスの入口にたどり着く。
地下に入ると景色が一転、まるで別空間に入ったような、サイバーな空間が広がる。リアルなライブに行くときのような、現地に着くまでに漂う雰囲気を味わいながらだんだん気持ちが盛り上がっていく高揚感を体感できる。
バーカウンターや操作案内、当日のライブ出演者の告知スペースなどを抜けると、一番奥に光のトンネルが見えてくる。ここがステージへの入口だ。
実際のライブハウスと同じく、この光のトンネルに近づくと音楽が聞こえ始め、映像だけでなく音でもステージが近いことがわかる。さぁ入ってみよう。
ステージ前にはすでにたくさんの人が集まっていて、ステージ上では操作案内としてライブ中の盛り上がり方などを説明している。このステージエリアでは、中央にある顔アイコンを押すと、拍手やハート、サイリウムなどいろんな盛り上がりアクションができる。
開催時間まで待っていると、次第に人も増えてきた。clusterアプリでは、左上の吹き出しマークから会話を楽しむこともできる。会場の音声アナウンスにそって、みんなで拍手をしたり盛り上がってきたところで、ちょうどカウントダウンが始まり、ライブ開始だ。
実際のライブさながら、サイリウムを振り、ジャンプする。参加者みんなで楽曲に乗って動くのは、やはり楽しい。まわりにたくさん人がいて、一緒に騒ぎ、歌に合わせて盛り上がれるのは、動画配信とはまた違った体験だ。
バーチャルライブハウスの企画者に話を聞くと、この体験価値をどのような内容にするか、どうライブを体験してもらうかの実現に苦慮したという。このライブハウスが誕生するまでの舞台裏について、企画を担当したKDDIのチームメンバーに話を聞いた。
継続的なエンタメの発信地「渋谷」であるために
―――なぜ、バーチャルライブハウスを始めようと思ったのでしょうか。
佐野:『渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト』のなかで、コロナ禍で活動を制限されているアーティストをなんとか支援できないかという想いのもと、関係各社と意見を出し合った結果、最新技術と通信のチカラでKDDIが応援できることとして、バーチャル渋谷内にライブハウスを作ってはどうか、という話になりました。
石川:私自身もプロのバンドで音楽活動をしているのですが、音楽業界もこのコロナの影響で大きな打撃を受けています。2020年の秋頃からその対応策として、音楽配信にシフトしているアーティストも多いのですが、課題として、アーティストが個々に配信ライブを行うには準備にお金と手間がかかることからも、継続して実施するのは難しいという声が挙がっていました。とはいえ今の状況で自分の音楽をファンに届けようとすると、配信に頼るしかない。そのジレンマに加え、何より配信型のライブ体験自体が実際のライブよりチープに捉えられることがあるのではないか。そんな声を聞き、なるべく良い形で音楽をお届けするプラットフォームを提供したいと思ったわけです。
―――実際にどんな体験を目指したのでしょうか。
島田:私は元々大の音楽好きで、社内副業として、バーチャルライブハウスの企画が立ち上がった際に手を挙げてこのチームに参加しました。ライブハウスってライブを楽しむだけじゃなく、そこに着くまでの間だったり、会場に入る瞬間だったり、始まる前から終わってからもすべて楽しいじゃないですか。この体験をバーチャル上でも提供できないか。この実現に力を貸してくれたのが、Clusterさんでした。
アイナッシュ:Clusterさんはバーチャルイベントプラットフォームの提供者として、ユーザーに単なる映像を見せるだけではなく、バーチャル空間ならではの演出はもちろん、リアルのライブハウスならではの演出にもこだわってくれました。例えば、渋谷駅から地下に入った先に非現実的なロビー空間が待っていますが、この空間はライブハウスに入る前のロビーを想定したものです。 そこでclusterアプリの操作案内の看板が設置してあったり、当日出演予定のアーティストのPVが流れたり、スタッフがいたりして、 実際のライブハウスのロビーでの体験も再現しています。このようにユーザーにはバーチャル空間の中でリアルに近い体験価値を提供しています。
石川:もちろん、ライブ演出にも力を入れました。ライブとライブのインターバルにおける空間演出や、来場者のエクスペリエンス、そしてどの角度で見れば一番ライブが映えるのかにもこだわりました。今回の参加者であるファンはみんなアバターの姿です。そのアバターの視線から一番よく見える視点を大事にし、空間を構築しました。
アイナッシュ:実は演奏中のライト演出も一律同じ動きではなく、すべて一つひとつの楽曲の演出に合わせその場で操作しています。できる限りライブ感にこだわった結果、空間はバーチャルですが、現実と同じく裏方はリアルな人が運営しているんですよ。
島田:会場の大きさにもこだわりましたね。ドームみたいに巨大な空間ではなく、アーティストと近くて、ファンとファンとの距離も近くて、会場一体になって盛り上がれる場所を目指しました。
石川:もうひとつの課題であった、ローコスト運営も実現できました。バーチャル空間上のライブをいかにリアルに立体的に仕上げるか。それをパッケージング化して継続的に提供できるか。それらの課題に対しては、映像関係を制作いただいたstuさんの企画・制作力に助けられました。今後アーティストによるローコスト運営の仕組みを見据えていることと、今までとは違うバーチャルライブという取り組みに、アーティストやレーベル、ライブハウス関係者の皆さんからも新しいファンへの音楽提供の可能性を感じていただいています。
―――いろんな関係者の力を結集し、実現できたものなんですね。
石川:はい、今回の取り組みはKDDIだけでなく、プロジェクト主管の渋谷未来デザインさん、動画企画・制作のstuさん、ご出演いただくアーティストのブッキングなどを調整いただいたオン・ザ・ラインさんや、HIP LAND MUSICさん、また渋谷の音楽カルチャーを支えるO-Groupなどライブハウスの皆さん、プラットフォームの構築をご担当いただいたClusterさん、ほかにもこのプロジェクトにご協力いただいた関係者全員で実現したものです。
私たちがプロジェクトに参画する以前から、渋谷未来デザインさんや音楽業界関係の方々がこの困難な局面とどう向き合うべきか、議論を繰り返していたと伺っています。そういったプロセスも含め、KDDIとして何ができるのか、どのような価値を発揮できるのか、チームメンバー一丸となって検討を重ねました。コロナ禍における渋谷エンタメカルチャーをつなぎとめるという目的に向かって、業界の枠組みを超えて心を合わせることができたことも、このバーチャル渋谷というプロジェクトの価値だと思います。
―――ありがとうございます。 最後に、このPJの今後の展開を教えていただけないでしょうか。
佐野:今後このVRや映像配信をよりリッチにしようとすると、大容量のデータを支える通信が必要になります。通信会社としてその基盤を支えるとともに、今後どんな状況でもエンタメを楽しめるこのバーチャル空間での可能性を広げていきたいと思っています。そしてそれはイベントとしての一過性の取り組みではなく、事業としての継続的な取り組みとして、新たな体験価値を提供したい。そんな想いに共感いただけるパートナーさまと一緒に取り組みたいと思います。今後の展開にもぜひご期待ください。
■YOU MAKE SHIBUYA VIRTUAL MUSIC LIVE powered by au 5G
・開催日時:2021年3月31日と、2021年4月16日以降で合計20日間の開催を予定
・参加方法:clusterアプリからバーチャル渋谷内の会場にて参加
・料金:無料
※バーチャル渋谷には、VRデバイス、スマートフォン、PCからご参加いただけます。
※参加にはclusterの無料アカウント作成と、ご利用されるデバイス用のclusterアプリのインストールが必要です。
・cluster アカウント作成
・cluster アプリダウンロード
※ライブハウスの入室制限数に到達した場合、ご入室いただけない場合があります。
※参加アーティストや開催スケジュールなど詳細は、公式HPにてご確認ください。