クモの糸が高い強度を持つ優秀な材料であるという話は、最近良く耳にしている人も多いと思います。
しかし、実は最近の研究では、ミノムシが作る糸の方が、クモよりも優れていることが示されているのです。
この発見に基づいて、筑波大学の研究チームは、ミノムシの作るシルク繊維と導電性高分子ポリアニリンを組み合わせた複合繊維を開発。
この繊維は電気伝導性を持つと同時に、柔軟性や光ファイバーとしての性質も示しているそうです。
研究の詳細は、10月19日付で科学雑誌『Journal of Applied Polymer Science』に掲載されています。
目次
- 実は強かったミノムシの糸
- 光ファイバーになる繊維
実は強かったミノムシの糸
これまで天然由来のシルク繊維の中では、クモが産生する糸が最強といわれてきました。
しかし近年、ミノムシのミノを構成する糸や、枝からぶら下がるために使っている糸の方が、実は弾性率・破断強度・機械敵強度の全てにおいて、クモの糸を上回っていることがわかったのです。
ミノムシとは、ガの幼虫のことで、枯れ葉や枯れ枝を粘着性の糸に絡めて袋状の巣を作り枝からぶら下がって生活します。
この巣が、日本ではわらを使った雨具の「蓑(みの)」に似ているため、ミノムシと呼ばれています。
クモの糸も天然材料として研究の対象とされてきましたが、それより強いのであれば、これを利用して新しい繊維材料を生み出せる可能性があります。
そこで、今回の研究チームはミノムシの糸を利用した新しい複合繊維を合成しようと考えたのです。
チームがその合成材料として着目したのは、ポリアニリンと呼ばれる導電性高分子です。
ポリアニリンは、原料が安価で簡便に合成できる特徴があり、主に電池用電極や導電性インクなどに用いられています。
チームはこのポリアニリンとミノムシの糸を、水に浸して合成しました。
これは非常にシンプルな方法で、アニリンという物質が酸化剤によってポリアニリンに変化するのですが、その過程を利用してミノムシの糸の表面に水素結合で吸着させたのです。
これは顕微鏡で観察すると、きれいにミノムシの糸の表面にポリアニリンがコーティングされている状態となっていました。
また繊維の絡まった場所でも、繊維の一本一本をはっきりと見ることができました。
こうして誕生した新しい天然シルクを利用した新しい繊維ですが、これにはさまざまな驚きの特性が確認されるのです。
光ファイバーになる繊維
新たに誕生した複合繊維について、チームは分析を行いました。
するとミノムシの糸が持つ強度を保ちながら、通常のポリアニリンと同程度の電気伝導性や磁性を併せ持つことがわかりました。
しかし、この繊維の特性はそれだけではなかったのです。
ミノムシの糸には光学活性という性質があり、ポリアニリンにはそれがありませんでした。
これに繊維の断面中央から緑色のレーザーを照射したところ、繊維に沿ってレーザー光が進むという、まるで光ファイバーのような光導波路としての性質を持っていたのです。
さらにこの繊維には、電圧を加えると、その上昇に伴って電極間の電流を大きくするという、電圧で電流制御が可能な繊維型トランジスタとしの機能も明らかになったのです。
強度や性質において非常に魅力あふれる新しい複合繊維が誕生しました。
チームは今後、この繊維を使って、布やケーブルの作成を予定しているとのこと。
将来的には、この複合繊維を活用して、神経をモデルにした信号伝達の可能性も考えられるそうです。
これからはミノムシの時代かもしれません。
参考文献
ミノムシが産生する高強度繊維と導電性高分子を組み合わせた新規複合繊維材料を開発
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20211022140000.html
Stronger than spider silk: Bagworm silk enables strong conducting fibers
https://www.eurekalert.org/news-releases/932418
元論文
Preparation of bagworm silk/polyaniline composite
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/app.51791