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Element(エレメント)は、自社の分散型Matrix(マトリックス)ベースのメッセージングアプリにより多くのユーザーと機能をとりこむために、2020年Gitterを買収した。そのElementが成長に投資するための資金調達を発表した。

ElementがシリーズBラウンドで調達した資金は3000万ドル(約33億円)だ。今回の資金の一部は、現在すでに利用中の大企業のユースケースに対応する技術拡張に使われる。同社によれば、そうした大組織には約550万人の公務員を抱えるフランス政府、ドイツの教育・行政システムに採用されているDataport(データポート)、ドイツ軍に通信システムを提供するBWIなど、約10の政府機関との契約が含まれるという。

ElementのCEOであり、かつオープンソースで非営利のMatrixプロトコルの共同開発者のMatthew Hodgson(マシュー・ホジソン)氏はまた、資金の他の一部は、サーバーをまったく必要としない同社のピア・ツー・ピア・アーキテクチャへの投資を継続するために使用されると述べている。そして3つ目の投資分野は、分散型の音声・ビデオ会議サービスの構築だという。

ホジソン氏はインタビューの中で「これはセキュリティの面で変革をもたらすでしょう」と答えている。

Elementは現在、オンプレミスもしくはクラウドベースのプラットフォームで提供されている。同社によれば、ほとんどの公共部門の顧客は前者を選択し、民間部門の顧客は後者を選択するという。クラウドの収益は過去12カ月間で300%増加していて、実際の金額は公表されていないものの、Elementが成長していることを示している(共同創業者のAmandine Le Pape[アマンディーヌ・ル・パプ]氏が指摘したように、同社が資金を必要とはしていなかったのにもかかわらず、今回の資金調達をしたのはその成長も理由だ)。

今回のラウンドには、Protocol Labs(libp2p、IPFS、Filecoinを開発したオープンソースの研究開発機関)とMetaplanet(Skypeの共同創業者であるJaan Tallinn[ジャン・ターリン]氏が設立したファンド)からの投資が含まれている。また過去に投資を行った、WordPressの親会社のAutomatticや、Notionも投資に参加している。評価額は公開されていない。Elementはこれで合計4800万ドル(約52億7000万円)を調達した。

Elementのベースとなっている非営利プロトコルであるMatrixは、インターネットの仕組みを変えるために開発されたもので、複数のサイロ化したコミュニケーション環境を統合し、まとまった単一のプラットフォームで利用できるようにした上で、それらのコミュニケーションを管理する団体が「所有」できるようにするものだ。すべてをまとめることで、こうした会話を管理することがセキュリティや実用性の観点から簡単になるだろう、というのがここでのアイデアだ。

Matrixは独自の成長を遂げており、過去12カ月間で利用率が190%増加し、現在は最大7万5000の導入数と3500万人以上の「アドレス可能な」ユーザーを抱えている。それらはRaspberry Piのような小さなものから、政府が運営する巨大なサーバーまで、さまざまなものの上に展開されている。とはいえ、はっきりさせておきたいのは「アクティブ」なユーザー数は「アドレス可能な」ユーザー数よりもかなり少ないということだ。Matrixは(もちろんElementも)他者がMatrixをどのくらい使っているかを「知る」ことはできないが(これは政府機関が好むセキュリティ上の利点の1つだ)、ホジソン氏は、自社のサーバーには120万人のアクティブユーザーがいると述べている。

当初はRiot(ライオット)という名だったElementは、Slack(スラック)やDiscord(ディスコード)のライバルとして、Matrixの上にネイティブなメッセージングプラットフォームを構築することを目的としていた。ほんのひと握りのプラットフォームたちが世界のメッセージングデータの大半を支配している時代に、クリーンで安全な代替手段を提供して、すでに他のプロトコルを使用しているユーザーを取り込むことが狙いだ。

「私たちは15年以上にわたってメッセージング技術を構築してきました」とル・パプ氏は語る。「わずか数人のプレイヤーが支配して、みんなのデータを人質にしているのは異常だと感じたのです。これは皆のコミュニケーションを解放するためのものなのです。私たちはデータ主権をあるべき姿に戻そうとしています」。

このメッセージング分野で最も聡明な頭脳を持つ人たちは、データの価値が高まり、通信チャネルがますます不可欠になる中で、標準的な働きを考えた時、代替手段、つまり中央集権的でないアプローチが大きな方程式の一部でなければならないと考えている。その意味で、Element(とMatrix)は、テクノロジーのより大きなトレンドの中心に立っているのだ。

Protocol LabsのCEOであるJuan Benet(ジュアン・ベネット)氏は次のように語る「インターネットの通信プロトコルは、人類にとって基本的なものとなっています。にもかかわらず現在、ほとんどのメッセージングは、恣意的なプロプライエタリの中央集権的なウォールドガーデン(囲い込み)の中で行われていて、それらは短期的なビジネス展望の人質となっているのです。Matrixは希望の光です。健全なインターネットインフラストラクチャの原則に基づいて構築された、安全な分散型通信のためのオープンネットワークだからです。Elementは、その製品と会社の両方によって、世の中の組織がすべての会話をコントロールし、所有し、優れたユーザーエクスペリエンスを提供できるようにするのです」。

市場にはすでに、大規模に使われている暗号化を行うメッセージングプラットフォームとして、Telegram(テレグラム)やSignal(シグナル)、さらにはFacebook(フェイスブック)のWhatsApp(ワッツアップ)などが多数あるが、Element(およびMatrix)のアーリーアダプターは大組織たちだ。しかし、Elementを支えるエンジンであるMatrixは、TwitterのBlue Sky分散型プラットフォームの取り組みなどにも利用され始めているため、Elementはアーリーアダプター以外にもユーザーを増やせる可能性がある。

しかし光あるところには影もある。TelegramやRocket.chat(ロケット・チャット)といった他の分散型通信プラットフォームと同様に、エンド・ツー・エンドの暗号化には善悪の両面がつきまとう。通信のハッキングを防げるという利点だけでなく、悪意のある計画を立てる際に当局の検知を逃れるために使用される可能性もあるのだ。Matrix(基本的にはElement)は、政府がこの問題を解決するために検討している、暗号化システムへのバックドアに代わる方法を模索してきたが、ある方法を義務付ければ、悪意ある行為者は別の場所に移るだけだという議論がある。

とはいえ、今回の投資とElementの利用状況は、そうした危惧や既存の問題にもかかわらず、分散化を維持する方向への支持が証明されたものだ。

Metaplanetのターリン氏は「コミュニケーションが中央集権化されると、プロパガンダ、監視、検閲など、悪用するには非常に魅力的なターゲットとなります」と語る。「消費者は監視資本主義からの救出を必要としていますし、組織は安全で中立的な通信手段を必要としています。Matrixは、その欠けているコミュニケーション・レイヤーを提供する、最も先進的なプラットフォームなのです」。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Element資金調達エンド・ツー・エンド暗号化

画像クレジット:Yuichiro Chino / Getty Images

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(文: Ingrid Lunden、翻訳:sako)