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家電を含む生活用品全般を取り扱うメーカー、アイリスオーヤマ。プラスチック製品の下請け加工会社・大山ブロー工業所を前身とし、1971年に大山ブロー工業として株式会社化し、今年で50年目を迎えました。

 

その長い歴史の中で数多くのヒット商品が誕生。【前編】では、同社のターニングポイントとなった商品を紹介しましたが、今回は家電開発部 調理家電課マネージャー・河阪雅之さんと、ともに、「なるほど!」と膝を打つようなアイデア商品を紹介していきます。

↑アイリスオーヤマ家電開発部 調理家電課マネージャー・河阪雅之さん

 

ユーザーインの発想から生まれた、「分離」して新しい価値を生む家電

--アイリスオーヤマの成長の裏側には、いつもユーザー目線の画期的な商品があります。どういった観点から家電商品の開発を行っているのでしょうか?

 

河阪雅之さん(以下、河阪):一般的に、既存メーカーが独自の優れた技術から商品を生み出していく考え方を“プロダクトアウト“と呼びます。一方、アイリスオーヤマで大事にしているのは、“ユーザーイン発想“という考え方。ユーザー第一主義で、つまりユーザーの目線から商品を作っていくということです。

 

市場調査を全くしないわけではないですが、家電であれば、「トレンドに捉われない」開発を行っています。例えば「あってもほとんど使わないだろう」と思えるような付加機能をたくさん搭載している家電があります。そのせいで商品の価格が上がってしまうのであれば、アイリスオーヤマならそれをあえて外し、ユーザーにとって本当に必要な機能だけにして、手に取りやすい価格にするという作り方ですね。

 

――一つの機能で複数の効果を生み出すような、「発想の転換」によって、機能をシンプルにした商品もありますよね。

 

河阪:はい。「両面ホットプレート」が一例です。これは1枚のホットプレートを2枚に分けることで、例えば片方でお肉を焼き、もう片方では魚介類を焼けます。とても単純な発想ですが、全く別の価値が生まれ、また折り畳みにすることで収納性もアップ。おかげさまで、ヒット商品になりました。

↑両面ホットプレート(2021年)

 

――「複数の機能を持たせる」という意味では、「分離式量り炊きIHジャー炊飯器3合」も同様でしょうか?

 

河阪:そうですね。この商品の特徴は2つあります。1つはお米の重さを自動で量り、炊飯に最適な水の量をお知らせしてくれる機能。もう1つは、IHクッキングヒーターとしても使える機能です。ご飯を炊いたあと、おひつ部分を取り外せば、クッキングヒーターとしておかずを作ることもできます。この“分離機能“はビジュアル的にもインパクトがあり大ヒットしました。

↑分離式量り炊きIHジャー炊 飯器3合(2016年)

 

逆に「合体」によって別の価値を生む家電も

――ここからは、ちょっと変わった機能や形をもつ個性的な家電を挙げていただきましょう。「サーキュレーター衣類乾燥除湿器」は、さきほどの“分離”の逆で、送風と除湿の機能を“合体”させていますね。

 

河阪:扇風機は人が当たって涼むために風を出すものですが、一方の、サーキュレーターは直進性の高い風を当てるという特徴があります。その特徴を活かして、衣類などを乾燥させるための「送風」と「除湿」に特化したのがサーキュレーター衣類乾燥除湿器です。

 

例えば、夜に衣類を洗濯したとしても、朝までに乾いていなかったら着られませんよね。そういった場合に、この商品を使えば効率良く乾燥、除湿ができます。

↑サーキュレーター衣類乾燥除湿機8L(2020年)

 

――変わった形状のサーキュレーターでは、「サーキュレーターアイ DCsilent」も挙げられますね。

 

河阪:はい。これは、お部屋などで空気の循環、換気の効果をもたらすものです。素早く換気したいとき、冷房や暖房をつけてすぐに効果を得たいときなどに使うと効果を発揮します。扇風機と違って風の直進性の高さがサーキュレーターの特徴ですが、この商品は形状をボール型にし、風を中心に集める構造にすることで、直進性を高めています。また、一般的なサーキュレーターに比べ静穏性に優れているため、寝室でも使用することができます。

↑サーキュレーターアイ DCsilent(2021年)

 

――続いて、クリーナー系商品をチェックしてみましょう。まず、「充電式サイクロンスティッククリーナーマルチツールセット」は、どのような特徴があるのでしょうか?

 

河阪:通常のスティッククリーナー同様、お部屋の様々な場所や車の中などを細かく掃除できるのですが、弊社のほとんどのスティッククリーナーに共通する最大の特徴は、「静電モップクリーンシステム」を搭載している点です。

 

本体に静電気をためたモップが付属しており、掃除機をかけながら同時に棚の上などのほこりを掃除できます。また、掃除後のモップはスタンドに立てた掃除機で除電しながら吸い取ることで、手を汚さずに掃除することができるのです。

 

下重心で「置くだけ充電」ができるものは多くあるのですが、下重心のモデルは、肝心の吸い取りの際、不便になることもあります。そのため上重心にするとともに便利な「置くだけ充電」を実現させた機能的な商品だと自負しています。

↑充電式サイクロンスティッククリーナーマルチツールセット(2021年)

 

業務用掃除機を、そのまま家庭用に転じたクリーナー

――ちなみに機能“合体”型の商品ではありませんが、クリーナーに分類される商品のなかには、あまり聞き慣れない「リンサークリーナー」という家電もあります。どういった商品なのでしょうか?

 

河阪:こちらは、もともとは業務用、じゅうたんやフロアカーペットを掃除する際、水をかけて汚れを浮かして、水と一緒に汚れを吸引する構造をもつクリーナーです。

 

これを家庭用にして販売したところ、好評価をいただきました。特に「犬や猫などのペットがじゅうたんの上で粗相をしてしまった」「ソファなどのファブリック系の家具を汚してしまった」といった場合に役立つというお声を多くいただいています。

↑リンサークリーナー(2019年)

 

 

数あるアイリスオーヤマの家電の中でも売れ筋筆頭なのは?

――アイリスオーヤマの商品群の中で、特に力を入れているのはどれですか?

 

河阪:どの商品群も力を入れていますが、顕著にヒットしたのがふとん乾燥機です。特に「カラリエシリーズ」は、累計400万台を突破しています。

 

まず、「ふとん乾燥機カラリエハイパワーツインノズル」からご紹介しましょう。従来のふとん乾燥機は「乾燥用のマットを使って乾燥させる」ものが主流で、収納や扱いに面倒がありました。そこでアイリスオーヤマでは、「マットがいらない、軽量でコンパクト」なものを開発し、カラリエハイパワーツインノズルに辿りつきました。

↑ふとん乾燥機カラリエハイパワーツインノズル(2020年)

 

河阪:カラリエハイパワーツインノズルは名前の通り、2つのノズルを足元・胸元の方などの2か所から温風を出すことで、ふとん2組を同時に乾燥させることができます。もちろん、ダニ対策にも十二分の配慮がされています。

 

もう一つのカラリエインテリアタイプはデザイン性に特化させたふとん乾燥機です。申し分ないパワーが備わっていて、部屋にも馴染みやすい商品になっています。

↑ふとん乾燥機カラリエインテリアタイプ(2021年)

 

音声操作シーリングライトに採用した、ありそうでなかった仕組みとは?

――音声操作シーリングライトは他の家電メーカーさんからも多く発売されていると思います。アイリスオーヤマならではの特徴は、どんな点でしょうか?

 

河阪:大手家電メーカーからは、ネット接続をするスマート家電が多く出ていますが、弊社の商品はネット接続や設定をせずに、電源に繋げてスイッチオンにするだけで、音声操作によって電気のオンオフ、調光調色などができるシーリングライトです。

 

夜遅く家に帰ってきたら、まず電気を点けるためのリモコンを探すのが大変でしょう。また、コロナ禍の今では帰宅後に手を洗ったり消毒する前に、家の中のものを触るのもできるだけ避けたいですよね。これは、「明かりを点けて」と話しかけるだけで、電気が点きます。ハンズフリー、ノータッチで電気が点けられる画期的な商品ではないでしょうか。

↑音声操作シーリングライト(2019年)

 

一般的な家電メーカーとは真逆の発想によって生まれた家電ばかり!

――様々な商品を見てきましたが、アイリスオーヤマには「なるほど!」と思える画期的な商品が多いと感じました。

 

河阪:ありがとうございます。我々は、「最新技術を商品に反映させる」より「ユーザーの目線で商品に反映させる」ことを優先してユーザーインを考えてきました。

 

アイリスオーヤマとして最初に開発したプラスチック製の養殖用ブイもそうでしたが、まずは「ユーザーにとっての使い勝手を良くすること」。これは弊社の商品開発において、ずっと変わらないポリシーです。これから先も、その姿勢はずっと変わることがないと思います。

 

50年以上、ユーザーの生活に寄り添ってきたアイリスオーヤマ。今回の取材で、紹介した「なるほど!」と膝を打つような家電群は、同社だからこそ開発できた商品なのだと改めて感じました。

 

また、今までは家電の大半が中国の大連で作られていましたが、近い将来、岡山県に工場を設立し、家電製品の国内生産を開始する計画もあるそう。これにより、アイリスオーヤマらしいアイデアと、国内の技術力を融合した家電が続々と登場していくことでしょう。アイリスオーヤマの未来に要注目です。

 

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