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 北朝鮮の工作員が2012~13年にかけ、韓国軍の装備情報など国家機密を提供させていた韓国の実業家との通話で、日本の携帯電話番号を使用していたことが、日韓の捜査関係者への取材で分かった。この工作員は、昨年秋に警視庁が入管難民法違反容疑などで逮捕した韓国籍の別の男女に対しては、外貨獲得活動を指示。北朝鮮が日韓両国に張り巡らせる工作活動網の一端が浮かび上がった。(編集委員・城内康伸、藤川大樹)

 工作員が日本の携帯電話番号を利用したのは、韓国のスパイ監視網をくぐり抜ける狙いがあったとみられる。

北朝鮮の大物工作員「リ・ホナム」が工作活動の拠点とする中国遼寧省丹東。北朝鮮との国境にある貿易都市だ=2018年8月、城内康伸撮影

 工作員の男は「リ・ホナム」の仮名を使って、中国を拠点に活動。北朝鮮の工作機関「偵察総局」の所属とされる。韓国で18年に公開された、韓国人元工作員の手記を基にした映画「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」に登場する北朝鮮高官のモデルになった。

 国家機密流出事件については、韓国の最高裁が15年4月、国家保安法違反で実業家に対し懲役3年6月の判決を確定させた。判決によると、実業家は12年から13年にかけ、韓国軍が採用する映像送受信装置の関連資料などをリ工作員に提供していた。

◆番号は都内の元貿易会社社長が提供

 捜査関係者によると、実業家は、リ工作員が連絡の際に「日本の携帯電話を使っている」と供述。携帯電話番号は、東京都内の元貿易会社社長が提供したとみられることが分かった。

 同社長は1994年、北朝鮮がロシアから老朽化した潜水艦12隻を輸入した際、北朝鮮側の契約代理人を務めていた。法人登記によると、同社は2019年2月に解散している。

 また、リ工作員の外貨稼ぎに協力していたのは、都内の健康食品販売会社の役員を務める60代の男と70代の女。警視庁は昨年10月と11月、在留資格外の会社経営に加え、不正取得した書類で入国したなどとして2人を逮捕した。ともに起訴猶予になっている。

 リ工作員は複数の関係者を介して男女に指示していたとされ、日本の警察当局は北朝鮮の工作機関が主導した外貨目的の工作と判断。男女が事業で得た資金の一部はリ工作員に還流していたとみている。

 60代の男と元貿易会社社長は貿易事業などで協力関係にあったもようだ。2人は06年2月、リ工作員の招請で訪朝したという。

 元社長は本紙の電話取材に対して「話すことはない。今はもう仕事もやっていない。(リ工作員とは)何の関係もない。もう二度と連絡しないでほしい」と話した。

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