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ワクチンの接種を一度断られた女性は「理由が分からず、私が間違っているのかと疑いました」と話した=2021年7月7日午後1時46分、大野友嘉子撮影
ワクチンの接種を一度断られた女性は「理由が分からず、私が間違っているのかと疑いました」と話した=2021年7月7日午後1時46分、大野友嘉子撮影

 「授乳中や妊娠している女性は駄目です。僕が決めることだから」。6月下旬、新型コロナウイルスのワクチンを打とうとした妊娠中の女性に対し、問診した医師はそう告げて追い返したという。厚生労働省が「妊婦もワクチンを打てる」と呼びかけているのに、である。副反応を巡る情報は真偽が交錯し、接種の影響を不安視する声は多い。医療関係者ですら安全性を巡る誤解や不信が根強いのなら、接種率はなかなか上向かないのではないだろうか。【大野友嘉子/デジタル報道センター】

「女性を守るためだった」

 「通勤や妊婦健診のため外出を避けられないし、オリンピックの開催が迫っていて感染の不安がある」。9月上旬に出産を予定している関東地方の会社員の女性(35)はそう考え、新型コロナのワクチンを打つ機会を探していた。しかし自治体が公表したスケジュールを調べると、予約の開始は8月3日。混み合えば後にずれるし、出産前に接種を受けられる保証がなかった。

 そんな中で、夫が勤める大学で職域接種の実施が決まった。学生のほか、教職員とその家族も対象になった。接種する日に合わせて、女性は自身の勤務先で有給休暇を取得。妊婦健診を受けている医師、厚労省や世界保健機関(WHO)のホームページ、日本産科婦人科学会の提言、海外の研究論文を読み、妊婦もワクチンが打てることを確認した。

 しかし当日、その大学で問診を担当した医療系学部教授の言葉に耳を疑った。「妊娠しているの? じゃあ、今日は駄目だね」。厚労省の見解に沿うと、妊娠中、授乳中、そして妊娠計画中の女性は、いずれもワクチンを接種できることになっているはず。女性がそう食い下がっても、教授は聞き入れなかった。結局、ワクチンを打てないまま帰宅した。

 「なぜ打てないのかという根拠を、教授は説明しませんでした。妊婦を含め、ワクチンを接種を受けるかどうかは当事者が決めることなのです。なぜかたくなに『妊婦は駄目』と拒否するのか、理解できませんでした。何を言っても聞いてもらえない、という無力感がありました」。女性はそう振り返る。

 いきさつを聞いた女性の夫は、大学に抗議した。…