この記事(前田節全開の「モダン建築の京都」展が開幕、お宝を値踏みする骨董市のごとき建築展)の終わりでチラリと触れた「京都岡崎アーキテクチャマップ・クリアファイル」。いよいよ10月1日から県をまたぐ旅が解禁されるので、京都旅行のお伴として改めて推薦させていただきたい。
まずは、商品データから。
京都岡崎アーキテクチャマップ・クリアファイル/イラスト 宮沢洋/テキスト 本橋仁/協力 京都市京セラ美術館、京都市動物園、京都府立図書館、泉屋博古館、細見美術館、ロームシアター京都、藤井容子/発行 アールプリュ/発行年 2021年9月/価格 550円(税込み)
私(宮沢)がイラストを描いたクリアファイルである。建築史家で京都国立近代美術館特定研究員の本橋仁さんと、京都国立近代美術館1階のミュージアムショップ「アールプリュ」のOさんから声を掛けられて描いたものだ。私は知らなかったのだが、ミュージアムショップの中には、独自に企画して商品をつくってしまう“攻めのショップ”があるのである。「本橋さんが選んだ8つの建築のイラストを描いてほしい」と頼まれた。私にとって書籍以外の“商品”は初めてなので、ありがたくお引き受けした。8件の写真を以下に。全部、分かりますか?
お薦めポイント1:地図を開かなくていい
この商品のお薦めポイントは大きく2つある。1つはクリアファイルそのものにマップが印刷されていること。これは私のアイデアだ。ご存じのように私のイラストは「手描き文字のルポ」とセットで意味を持つので、イラストだけを見てもさほどびっくりというものではない。どうしたら、私ごときのイラストで「買って良かった」と思ってもらえるか……。
私は建築を見て回るときに、よくクリアファイルを片手に町を歩く。それぞれの施設でもらう資料の出し入れが面倒くさいからだ。それでも、クリアファイルから出すことすら面倒くさいのが地図。大抵はA3サイズ以上で無駄に大きい。いちいち開いて、折りたたまなければならない。そこまで詳しくなくても、A4でおおよそが分かれば行けるのに、といつも思う。
そんな“建築好きあるある”を解決したのが、このマップ付きクリアファイルである。設計者などの基本情報と地図がクリアファイルに載っている。地図は小さいが、まず間違いなく行き着くことができる。自分で言うのも何だが、意匠権申請をしてもいいようなグッドアイデアではないか(とっくに誰かがやってるのかもしれないが…)。
お薦めポイント2:マニアックな解説書
もう1つのお薦めは、本橋仁氏の解説書。
私もアールプリュのOさんも、A4版1枚くらいの設計概要集を想像していたのだが、実際はA4版3枚分の蛇腹! その裏表に文字びっしり。これはおまけというより、こっちの方が主食かもしれない。
例えば、一番知られていなさそうな「京都市動物園類人猿舎」(1969年、設計:沖種郎)。その最後の一節だけ引用すると…。
この建築が竣工するころ、ちょうど大阪では「人類の進歩と調和」をテーマにした大阪万博が開かれる。沖は、万博における「人類」だけを詰め込んだこの万博に対して、その批判も述べている。この類人猿舎の設計には、そうした人類という自然に対して閉鎖的な状況への批判を込めているのだろう。それは、ヒトのためではない建築を扱う特殊な状況のなかから、動物園長と建築家の対話のなかで生まれた文明批判である。(本橋仁)
沖種郎(1925~2005年)は丹下健三研究室の初期メンバー。私はこの仕事の依頼を受けて初めて類人猿舎を見たのだが、実際に見ると、本橋氏の文章が大げさではないことが実感できる。たかが園舎とは言えない、ただならぬオーラの建築だ。
いろいろと発見の多い商品である。税込み550円は決して高くないと思う(私に追加で印税が入るわけではないので、ニュートラルにお薦めしています)。
京都国立近代美術館のアールプリュは入場券を買わなくても入れる。企画者に敬意を表してここで買っていただきたいが、既報のとおり、京都市京セラ美術館開館1周年記念展「モダン建築の京都」の特設ショップでも売っているので、もちろんそちらでお買い求めいただいても。今後、販売店が増える可能性もありそうだ。
こんなふうに地図と資料を持って普通に建築巡りができる日が、ずっと続きますように! (宮沢洋)
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