暗号資産への関心の高まりに乗じて投資家が競い合う中、さまざまなスタートアップ企業が世代をまたいだ多くのユーザーに暗号資産ウォレットを所有してもらうための工夫をしている。
OpenAI(オープンエーアイ)のCEOであるSam Altman(サム・アルトマン)氏、およびAlex Blania(アレックス・ブラニア)氏が設立したWorldcoin(ワールドコイン)は、世界に自社の暗号資産を受け入れてもらうために、最も大胆な試みを行っているスタートアップの1つといえるだろう。同社は、あらゆる人にスマートフォン上の暗号資産ウォレット(および暗号資産の一部)を持ってもらおうとしているが、そのためには、ユーザーがそのユーザー本人であることを判断できる方法を構築しなければならない。Worldcoinは、可能な限り理想的な方法で本人を証明するネットワークを作ることを目指しているが、そのためには、何十億もの眼球を「Orb(オーブ、球体を意味する)」という約2kgの虹彩スキャン装置でスキャンすることが必要だ。
インターネットは、まったく形の定まらないユーザーネットワークを形成して発展してきた。ボットネット(悪質なソフトウェアに感染したコンピュータのネットワーク)には、自分のID(アイデンティティ)を使う実在のユーザーと、実存する別の人物になりすましたユーザーと、偽名を使うユーザーの3種類のユーザーが存在する。これは(現在のソーシャルメディアプラットフォームがそうであるように、)ユーザーに与えられるインセンティブが不平等になる原因となるが、金融に関連する場合は不平等のみならず詐欺の原因にもなる。Worldcoinは、地球上のすべての人が、ネットワーク上の1つのウォレットだけにサインアップするようにして、このような事態を回避しつつ、暗号資産の公平な分配を実現したいと考えている。
WorldcoinのCEOであるアレックス・ブラニア氏はTechCrunchの取材に応じ、同社の暗号資産Worldcoinは、十数年前に始まった暗号資産が実現することのできなかった、インターネット経済によるより統一された公平なグローバル経済を推進するための、さらに大きな取り組みの一環であると話す。
「Worldcoinの構想は、ベーシックインカムが世界にとって非常に重要なものになるのは確実であり、インターネット経済へのアクセスは、現時点で判明しているよりもはるかに重要になるだろう、という議論がきっかけです」とブラニア氏。
Worldcoinは、イーサリアム(ETH)をベースにした「レイヤー2」の暗号資産で、イーサリアムのブロックチェーンのセキュリティを活用しながら、独自の経済を実現する。ブラニア氏によると、Worldcoinをイーサリアムの上に構築することにしたのは、主にイーサリアムの開発者ネットワークが理由で、同氏はネットワークにWorldcoinも採用してもらいたいと考えている。最初はビットコインから暗号資産を始めて欲しいと考える暗号資産推進派も多いが、ブラニア氏は、イーサリアムのレイヤー2と比較してビットコインにはスケーラビリティの問題が多すぎる、と考えている。
ブラニア氏は「ビットコインは、何十億人ものユーザーには対応できません」「ご存じのとおり、トランザクションに時間がかかるので非常に高価です」と話す。
6月にはBloombergがWorldcoinの設立初期の詳細を報じたが、ブラニア氏は「(記事には)かなり悩まされた」とし、Worldcoinが行っていることは複雑なプロセスであり、さまざまな情報が錯綜していることを認めつつも、Worldcoinのローンチに向けて、世界中のユーザーにプロセスを知ってもらうことができると確信していると話した。
そういえば……オーブとは?
Worldcoinは非常に厳格なユーザー獲得フローを採用している。Orbカメラのライセンスを世界中のライセンス事業者に供与し、あらゆる大陸、国、都市で、ネットワーク上の新規ユーザーを1人ひとり手作業で確認する、というものだ。
プロセスの基本形は、Orbで人の虹彩を撮影し、その画像をハッシュコードに変換する(Worldcoinによれば、変換プロセスは非可逆とのことだ)。その虹彩に紐づいたハッシュコードがまだアップロードされていないかどうかをデータベースで確認し、ハッシュコードが存在しないユニークのものであれば、ハッシュコードを新たに保存する。すると、ユーザーはアプリで暗号資産ウォレットを所有できるようになり、そこからOrbがQRコードをスキャンする、というものだ。(本名ではなく)仮名のウォレットコードに関連付けられた検証済みユーザーのネットワークと、実際の眼球写真ではなくハッシュコードが大量に保管されたデータベースを構築することで、ブラニア氏は、Worldcoinのユーザーが急増する中でも同社のプライバシーに関する取り組みを明確に伝えていきたいと考えている。
ブラニア氏によると、南米、アジア、アフリカ、ヨーロッパの4大陸における最初のテストでは、ライセンス事業者はOrb 1台あたり、平均して1週間に700人を超えるユーザーを獲得することができた。現在、30台のOrbのプロトタイプが現場で稼働しているが、(すべてが計画通りに進めば)今後数カ月のうちに数百台を追加し、最終的には月に数千台のOrbを出荷する計画だという。米国のユーザーがWorldcoinとOrbを体験できるのは、しばらく先のことになりそうだ。
ブラニア氏は「(WorldcoinやOrbに関連する)米国の規制がもっと明確になるまで、米国での発売を遅らせることになるかもしれません」と指摘する。
すべてが根気のいるプロセスとはいえ、何百万、何千万ものユーザーに初めての暗号資産ウォレットを提供すると同時に、ブロックチェーンを使用して認証されたインターネットユーザーのネットワークを構築する、というのは、暗号化に投資してきた多くの投資家が、有り金をはたいてでも投資したいと思う内容だ。Worldcoinのローンチにともない、このサービスを利用する検証済みのユーザーにはWorldcoinの一部が割り当てられる(定額制かドルペッグ制かは未定だが、後者になるようだ)。全体では、Worldcoinの供給量のおよそ80%がユーザーに割り当てられ、10%はWorldcoinが留保し、残りの10%は投資家が受け取ることになる。
つまり、ユーザーは無料(ただ)でお金を手に入れるのだが、この大きな問題の1つは、ユーザーがお金を使ってしまうことである。ブラニア氏は、今後Worldcoinがネットワークやユーティリティーを拡大していく過程で、ユーザーが無料で受け取った暗号資産はすぐには清算できないような仕組みを作っていく、と話す。
投資家に関しては、WorldcoinはAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が主導し、Coinbase(コインベース)、Reid Hoffman(リードホフマン)、Day One Ventures(デイワンベンチャーズ)、Multicoin(マルチコイン)、FTX(エフティーエックス)のSam Bankman-Fried(サム・バンクマン・フリード)氏、Variant(バリアント)のJesse Walden(ジェシー・ウォルデン)氏などが参加したラウンドで、2500万ドル(約28億5000万円)を資金調達した。ラウンド前の評価額は10億ドル(約1140億円)であったが、ブラニア氏によると、Worldcoinとその知的財産権は最終的には財団に転換され、ユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業)という題目はここではほとんど意味をなさないという。Worldcoinに資金を提供する投資家たちは、Worldcoinの供給量の10%という投資家への割り当てを目的としている。
「会社自体の持ち分は、基本的にはまったく問題にならないはずです」とブラニア氏。
結局のところ、課題は新しい暗号資産に注目を集めることと、数十億、数千億のユーザーを獲得することである。独自のハードウェアが、利用者獲得の現場によって大幅に異なる環境で何十億、何千億もの眼を確実に解読できるようにすることも課題だ。Worldcoinには大きな課題がいくつもあるが、中には実際にOrbが流通するまで明らかにならないものもある。これらの課題のいくつかは絶え間なく流入する投資家の資金が解決するかもしれないが、この(かなり複雑な)プロセスすべてを理解してもらうという課題は残るだろう。
このことはWorldcoinのウェブサイトによく表現されている。「Nothing like this has ever been done before and the outcome is uncertain.(前例のないことで、結果は不確実です)」。
画像クレジット:Worldcoin
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(文:Lucas Matney、翻訳:Dragonfly)