ノースウェスタン大学の研究チームは、細胞の再生を可能にする新型の薬剤を開発し、脊髄損傷したマウスの麻痺を回復させた。薬剤を1回注射するだけで、4週間後にはほぼ損傷前と同じように歩けるようになったという。研究の詳細は、2021年11月11日付で『Science』誌に公開されている。
麻痺の治療法は古くから求められており、幹細胞移植や遺伝子治療、タンパク質の注入などさまざまな観点から研究が進められている。しかし、現在までに脊髄再生を促す治療薬は存在していない。
今回研究チームは、細胞外マトリックスの構造を模倣したナノファイバーを用いた治療法を開発した。ナノファイバーは人間の髪の毛の1万分1という細さで、神経の再生を促す生理活性物質である数十種類のペプチドで構成されている。
マウスの脊髄を切り取って人工的に脊髄損傷を与えてから24時間後に、損傷部位の周辺組織に薬を注射すると、4週間後には損傷を与える前とほぼ同じように歩けるようになった。詳しく調べてみると、損傷を受けた脊髄では、軸索と呼ばれる神経細胞から伸びている突起が再生しており、再生や修復を妨げる瘢痕組織が減少していた。また、電気信号を効率的に伝達するために重要なミエリンの成長促進、損傷部位の細胞に栄養供給する血管の形成促進、より多くの運動神経細胞の存在も認められた。注射した薬剤は12週間以内に生分解され、目立った副作用もなく体内から排出される。
この画期的な治療法のポイントは、ナノファイバーに組み込まれた10万個以上の分子の集合的な動きを制御している点だ。超分子ポリマーと呼ばれる複数の分子が集合した構造体の中で、それぞれの分子を動かしたり、まるでダンスするかのように振動させたり、さらには一時的に飛び出させたりするようにした。その結果、常に振動している神経細胞の受容体と効率的に結合できるようになり、神経再生を促す。振動は速いほど受容体との結合機会が増え、治療効果も高まるという。
受容体と結合した分子は、脊髄の修復に不可欠な2つのシグナルを伝達する。1つは、神経細胞の軸索を再生するシグナルであり、もう1つは損傷後の神経細胞の生存に役立つ血管やその他の重要な細胞の再生を促進するシグナルだ。
研究リーダーであるStupp教授は、このような「超分子運動」が生体活性に重要であるという基本的な発見は、他の治療法やターゲットに普遍的に応用できる可能性があり、多数の分子を組み合わせた「超分子医薬品」という、次世代の医薬品の道を開拓するかもしれないと述べている。今回はマウスを用いた実験だったが、ヒトでの臨床試験も視野に入れている。
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