室内空調、食品の貯蔵、医薬品の輸送や保管など、冷却システムは私たちの生活に欠かせないものになっている。世界的な気候変動と生活水準の向上により冷却システムの需要はより高まっているが、未だ電力を全く利用できない地域もある。
サウジアラビアのアブドラ王立科学技術大学(KAUST)の研究チームは、太陽エネルギーを利用した再生可能な冷却システムを開発した。冷却、再生のどちらのステップでも電気は使用せずに、空間や食品を冷やすことが可能だ。冷却ステップでは塩が水に溶けたときの溶解熱を、再生ステップでは水を蒸発させるために太陽光を利用している。研究成果は『Energy and Environmental Science』誌に、2021年9月1日付で公開されている。
塩は、水に溶かすとエネルギーを吸収または放出して、吸熱または発熱する。この一般的な溶解熱の性質を利用して、冷却システムを開発した。吸熱タイプのさまざまな塩を比較した結果、硝酸アンモニウム(NH4NO3)が最も冷却能が高く、次に冷却能が高い塩化アンモニウム(NH4Cl)と比べて4倍以上の冷却能があった。硝酸アンモニウムは他の塩より水に溶解できる量が多いため、熱吸収も大きくなる。一般的な塩が100gの水に対して100g以下しか溶けない一方で、NH4NO3は208gも溶ける。
発泡スチロールの中に入れた金属製容器の中で硝酸アンモニウムを徐々に溶かしていくと、20分後には容器の周囲の温度は室温から3.6℃にまで下がり、15時間以上も15℃以下を保った。
冷却能を失った溶液の温度が室温まで戻ると、カップ型の太陽光発電機を使用して水を蒸発させた。このカップは太陽光をできるだけ多く吸収するように設計された素材でできており、水が蒸発するとカップの外側に硝酸アンモニウムが結晶化する。結晶化した硝酸アンモニウムは重力により自然落下するので自動的に回収でき、再利用が可能だ。
研究チームは、このシステムを室内の冷房や食品の冷蔵に利用できると考えている。硝酸アンモニウムは、安価な物質で肥料などの用途で広く使用されているため実用化にも適している。KAUSTのWenbin Wang研究員は「冷房を必要とする暑い地域は太陽エネルギーが豊富なため、太陽光を利用したシステムは魅力的だ」と述べている。また冷却ステップと再生ステップは物理的にも時間的にも分離できるので、季節を超えたエネルギーの貯蔵と利用も可能だ。
関連リンク
Strong sunlight powers passive cooling device
Conversion and storage of solar energy for cooling
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