これまで説明した光Ethernetの規格を振り返る
前回までで、光Ethernetの規格は、ほぼ一通り紹介し終えたと思っていたが、何しろ今回で70回目、しかも話が飛び飛びになっている関係で、どこで何をご紹介したのかはっきりしない。
そこで過去69回分から、光Ethernetそのものの規格名と、その説明を行った回へのリンク、各規格を仕様別にまとめたのが以下の表である。
以上、我ながらよく書いたという話はともかく、以下4つの注記のように漏れが見つかった。
*1「40GBASE-FR」(IEEE 802.3bg):以前に10GBASE-Tの記事で触れているだけで、そもそも規格の説明を一切していない
*2「200GBASE-ER4/400GBASE-ER8」(IEEE 802.3cn-2019):そういう規格があることだけに触れている
*3「400GBASE-ZR」(IEEE P802.3cw):Task Forceが分割されたことしか説明していない
*4未策定や策定途中で正式な名称の決まっていない規格
*5「200G-FR4-OCP/400G-FR4-OCP/800G-FR4-OCP」:OCPでそういう規格があることだけを紹介している
また、「IEEE 802.3cd-2018/IEEE 802.3cm-2020/IEEE 802.3cn-2019/IEEE 802.3ct-2021/IEEE 802.3cu-2021」あたりに関しては、原稿執筆時にはまだTask Forceの扱いで、最終的に標準化された作業が反映できなかった。そんなわけでこれから数回に渡って、これらの補足を行っていきたい。
到達距離2km、64B/66B Encodeを利用するPCS向きの「40GBASE-FR」
ということで今回は「40GBASE-FR」について。この規格は2011年に「IEEE 802.3bg-2011」として標準化が行われた。IEEE 802.3にはClause 82/89として収められている。Clause 82は64B/66B Encodeを利用するPCS向きの仕様で、これを利用するのは「40GBASE-R」、「100GBASE-R」となっており、要するに「100GBASE-SR4」などと同じ仕様だ。
異なるのは信号速度で、こちらはClause 89で定義されている。波長は1530~1565nmを利用し、送受信で1レーンずつを利用。信号速度は41.25GBdで、64B/66B Encodeを通すとデータ転送速度はちょうど40Gbpsとなる。
到達距離は、FRということから分かるように、2m~2kmとなっている。当然SMFでの利用が前提だ。ちなみに中心波長は1550nmとなっている。検討初期段階では1310nmの利用も検討したようだが、これは早い段階で放棄されている。
もともと40GBASE-FRの目的は、既に存在する40Gの規格を利用して、手早く低コストに40G Ethernetの規格を策定することだった。存在する40Gの規格とはOTU3/STM-256/OC-768/40G PCS(Packet over SONET)であり、この物理層をそのまま流用してEthernetにする、というものだ。厄介だったのは、そのOTU3/STM-256はITUのG.693及びG.959.1として仕様が定められていたのだが、G.693の中に以下2つの波長が挙げられており、どちらを利用するかで揉めたわけだ。
- VSR2000-3R1 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1310nm
- VSR2000-3R2 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1550nm
ちなみに、この両者長所と短所をまとめると、以下のような話になっていた。
1310nmの長所:
- 10kmの到達も可能で、2kmから10kmへと仕様を拡張してもコストは最小限の増加で済む
- 分散制御が容易で低コストのTOSA(Transmitter Optical Sub-Assembly)を利用できる
- 複数のEML(Electro-absorption Modulator integrated with DFB Laser)メーカーからモジュールが提供され、また非冷却型EMLやDML(Directly Modulated Laser)なども将来利用可能になりそう
- QSFPに収められる、より小型トランシーバーモジュールがロードマップに示されている
- 量産効果による価格低減が期待できる
1310nmの短所:
- 市場の4分の1を占めるVSR2000-3R2トランシーバーと互換性がない
- テスト機器を新規に開発の必要あり
1550nmの長所:
- VSR2000-3R2トランシーバーと互換性がある
- テスト機器は既にあるものを流用可能
- 複数のEMLメーカーからモジュールが提供されている
1550nmの短所:
- 到達距離は2kmに限られる
- 分散制御がやや高コスト
- より小型のフォームファクターに至るロードマップがない
- 40G VSRの市場が小さいため、量産効果が期待できない
こうしたこともあって、Task Force初回のミーティングには、1310nmを利用するというプロポーザルも出てきてきた。
ただ、最終的には消費電力などの兼ね合いから1550nmが選択され、そのまま標準化に突き進んだ格好だ。Task Forceは2010年5月に最初のミーティングを行い、2011年3月に最後のミーティングを終了、2011年中に標準化を完了している。
ほかの規格に比べると恐ろしく迅速に作業が進んだ感もあるが、広く使われたか?というとそうでもなかった。理由としては、規格として中途半端だったことが挙げられよう。
1対の光ファイバーで40Gbps/2kmというのは、確かに当時ほかにないと言われればないのだが、短距離なら「40GBASE-SR4」、長距離なら「100GBASE-LR4」の標準化が既に終わっており、40Gでよければ「40GBASE-SR4/40GBASE-LR4」の製品が市場に出ており、今さらここで40GBASE-FRへ乗り換えるメリットはなかった。
また、モジュールがQSFP+などではなく、CFPだということも、既にデメリットでしかなかった。今から思えば、先に「10GBASE-FR」という規格があり、このアップグレードを狙えればもう少し存在感を発揮できたのかもしれないが、そんなわけで40GBASE-FRはあまり使われないまま消えることになってしまった。