2.5GbEや10GbEの高速LAN環境が、いよいよ普及期に入りつつある。
対応デバイスやネットワーク機器はかなり安価になってきているし、在宅勤務の広がりで有線LANの安定性や高速性が再認識されたことも追い風だ。
そして、それに呼応して、高速LANを生かせるフルSSDの高速NASの注目度もあがってきた。
そんなところへ登場したのが、テックウインドのフルSSD・高速NAS「AXELBOX」の第2世代モデル。第1世代のモデルのCPUをRyzen V1500Bに変更、パフォーマンスの向上や消費電力の低下を図った製品だ。
そこで今回、この第2世代AXELBOXを例に、10GbE対応フルSSD NASの実力を検証、そして、「そのパフォーマンスで何ができるのか」を紹介してみたい。
安価になってきた2.5GbE環境や、Wi-Fi 6と組み合わせてどうなるのか、高速化によって使い勝手がどのように変わるのか、そうした実際の利用イメージも念頭に置いて、検討してもらえれば幸いだ。
10GbEに加え2.5GbEにも標準対応。Ryzen CPUで高速・低消費電力化
第2世代のAXELBOX「AXEL-x73A」シリーズは、QNAPのNAS「TS-x73A」シリーズに、高耐久なNAS用SSD「WD Red SA500 NAS SATA SSD」と、10GbE対応のPCIeカードをあらかじめ装着したコンプリートキット。4ベイから8ベイに1~4TBのSSDを搭載した計9モデルがラインアップされる。
いずれも出荷時点で、RAID 6による冗長構成でフォーマットされており、しかも、動作確認も実施済みなので、電源を入れて簡単な初期登録をすれば、すぐに使い始められるのが特徴だ。
追加アプリでカスタマイズできるような高機能NASは本来、導入時に別途用意したHDDやSSDを装着し、フォーマットとRAIDの初期の同期処理を長時間かけて行わなければならない。
このため、実際にNAS本来のパフォーマンスで運用を始めるまでに1~2日を要するものだった。AXELBOXであれば、この時間を一気にすっ飛ばせるので、できるだけ早く業務プロセスへ組み込みたい人には非常に都合がいい製品だ(もちろんNASユーザーのアカウント設定などは必要に応じて自分で行うことになる)。
今回試用したのは、4ベイの「TS-473A」をベースに、2TBのWD Red SA500 NAS SATA SSDを4基搭載し、10GbEの拡張カードを搭載したもの。本領を発揮させるなら、ぜひ10GbEのLAN環境で使いたい。ただ、TS-473Aはもともと2.5GbE×2を標準装備し、2.5GbE環境でも高いパフォーマンスが狙える。
CPUはAMD Ryzen V1500B(クアッドコア、2.2GHz)、メモリは8GB(最大64GB)を搭載。第1世代AXELBOXが採用していた組み込みシステム向けのRX-421ND(クアッドコア、2.1GHz)と比べ、ベースクロックをアップさせながらCPU自体の消費電力が抑えられており、低消費電力なSSDによりマッチしたパッケージングとなっている。
テレワーク普及が背景、人気の理由はSSD採用
販売元のテックウインドによると、オールフラッシュの高性能な業務向けNASを、しかも少ない手間で導入できるとあって、初代のAXELBOXはかなりの人気を集めたという。これについては新型コロナウイルスの影響によるテレワークの普及や、SSD採用のメリットが認知されてきたことなども理由だとのことだ。
実際には、ファイルサーバー用途での導入先が多いとのことだが、画像・映像の管理を目的として高速NASが欲しいという問い合わせも多くあったとのことだ。
このほか、10GbEとSSDによる高速さに注目してか、データセンター間でデータを持ち運ぶ用途のためにAXELBOXの活用を検討する用途もあったとのことだ。
理論値の差に限りなく近い圧倒的速度複数ユーザー同時アクセスも余裕のパフォーマンス
さて、10GbEや2.5GbEのインターフェースを装備し、ストレージにSSDを採用した第2世代AXELBOXが、どれくらい高速にデータ転送できるのかを、まずはチェックしてみたい。
もちろん、ネットワークを全て10GbEにすれば、SSD NASのポテンシャルをフルに引き出せるのは間違いないだろう。だが、コストや設備の都合から2.5GbEやWi-Fiでしか接続できない、といったケースもあり得る。
そうした場合も想定し、PCとAXELBOX間の接続を10GbE、2.5GbE、1GbE、Wi-Fi 6(2402Mbps)のそれぞれで接続したとき、ファイルの転送速度にどのような違いが出てくるのか確かめてみることにした。
なお、PCとAXELBOXは、QNAPのWi-Fi 6ルーター「QHora-301W」を介して接続している。QHora-301Wは、柔軟な機器管理と回線制御を可能にするSD-WAN対応ルーターとなる。
10GbEポートを2つ、1GbEポートを4つ搭載し、Wi-Fi 6は160MHzチャネル幅での通信にも対応するので、最大2402MbpsでPCとリンクできる。さらに、WANポートとLANポートの入れ替えなど、環境に応じてフレキシブルにカスタマイズし、高速なネットワークを構築可能な製品だ。
というわけで、ファイル転送のテストは、大きく分けて2パターン用意した。まずは10GB超の動画ファイル1つをアップロード(書き込み)と、ダウンロード(読み込み)するテスト。主にシーケンシャルアクセス性能を確認できる。
10GBのダウンロードについては、10GbEでは1GbEとの比較で約9倍もの高速化を達成した。2.5GbEでも、約2.5倍というほぼ理論値そのままの倍率で高速化を果たしている。2402Mbpsというリンク速度のおかげもあり、Wi-Fi 6も1GbEよりはるかに短時間で処理を終えることができた。
もう1つは、約1万の小さなファイル(総容量270MBあまり)をアップロードと、ダウンロードするテストだ。こちらは主にランダムアクセス性能が確認できる。
1万ファイルのファイル転送では、ダウンロード速度の差は小さいものの、アップロードはネットワーク速度に応じて高速化されるようだ。Wi-Fi 6は無線通信におけるボトルネックがあるためか、理論上の速度は高速でも、有線の1GbEには及ばなかった。ファイルのサイズや数にかかわらず安定して高速にデータを転送したいなら、無線より有線の1GbE環境の方が、まだまだ優位性があるとも言える。
ところで、SSDではなく、HDDを搭載するNASにおける転送速度は、ディスクの読み書き速度が追い付かないため、ネットワークの速度にかかわらず最大でも110~120MB/sといったところ。上記のグラフで言えば、1GbE接続の速度と同程度となる。
つまり、HDD構成のNASであれば1GbE接続で性能が頭打ちになり、2.5GbEや10GbEにしたところでパフォーマンス向上がほとんど望めないわけだ。一方で、AXELBOXのようなSSD NASであれば、2.5GbEや10GbEは明らかに有効だ。
むしろAXELBOXの性能を引き出すためには、できれば10GbE、それが不可能なときは2.5GbE以上のネットワークを構築すれば、高速なNASの恩恵を実感できる、ということがよく分かる。
そして、Wi-Fi 6も特定条件下では十分に高速だ。とはいえ、周辺環境からの影響も受けやすい無線通信では、安定した高速通信が難しいことも、頭の片隅に置いておきたい。
高速NAS環境で、複数人のチームメンバーが同時多発的にアクセスしてくる業務であればなおのこと、できる限り広帯域な有線LAN(インターネット回線)で運用することで、より大きなメリットが享受できる。これにより、リアルタイム性の高い効率的な共同作業を実現したいところだ。
長く使える耐久性と経済性を兼ね備えた新世代NAS
最初に触れた速度面に加え、共有やリモートアクセスなどの機能面以外にも、AXELBOXの利点は多い。その1つが耐久性の高さ。例えば、SSDはHDDと比べてモーターなどの稼働部品が含まれないため、物理的な故障が発生しにくい。
第2世代AXELBOXが搭載するWD Red SA500 NAS SATA SSDについて言えば、その寿命の指標となるMTBFはNAS用HDDを上回っている。書き込み総容量の目安となるTBWについても、こちらの記事で触れている通り、極端に神経質にならず、正しく理解することが大切だ。
また、第2世代AXELBOX(QNAP TS-x73Aシリーズ)は、「SSDエキストラオーバープロビジョニング」という機能を備えている。フラッシュメモリであるSSDでは、その性能や寿命の維持を目的に、ユーザーが利用できるストレージ容量とは別にシステム的にあらかじめ確保している容量がある。「オーバープロビジョニング」とは、その「余白」部分の容量確保のことだ。
SSDメーカーが、こうした余白の容量をいかに設定するかで、SSDを長期間使い続けたときの性能低下の度合いが変わってくる。
本来、オーバープロビジョニングはユーザー側(NAS側)でカスタマイズできるものではないが、AXELBOXではソフトウェア的に追加のオーバープロビジョニングを行なえるようにすることで、将来的なパフォーマンスの低下を極力抑えることが可能になっているわけだ。
要するにAXELBOXは、SSDを高いパフォーマンスのまま長く使い続けられる耐久性を持つと言える。
もう1つ重要な点は、消費電力量が低いことだ。アイドル時で比べると、SSDはHDDの数十分の1というごくわずかな電力しか消費しない。24時間365日稼働させるのが基本のNASとしては、この電力消費量の低さからくるトータルの節電効果は、無視できないものとなるだろう。
このように第2世代AXELBOXは、ただ単にSSDで高速化しているだけでなく、テレワーク下でもチームの共同作業に最適な機能を備え、長く使い続けられる耐久性と高い経済性を兼ね備えている。大容量データの効率的な管理に頭を悩ませている個人ユーザーやIT管理者にとって、明快なソリューションになり得る存在なのだ。