「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態 から続く
「お金を稼げない」「家賃が払えない」「もう死ぬしかない」……。ソーシャルワーカーの藤田孝典氏のもとには、生活困窮に陥っている人たちからのSOSが次々と届くという。新型コロナウイルスの感染拡大収束の見通しが立たないなか、福祉の現場ではいったい何が起きているのか。
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ここでは同氏の著書『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』(毎日新聞出版)の一部を抜粋。私たちも決して無縁とは言い切れない相談者たちの事例、そしてこれまでの生活が立ち行かなくなった際の対処法について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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〈事例〉自殺未遂で救急搬送された24歳セックスワーカー
阪神・淡路大震災や東日本大震災などの災害時に、避難所・避難先で困っている女性や子どもを狙った性被害、性暴力、DVなどが増加した。
コロナ禍では感染リスクを減らすために「ステイホーム」をしたことで、家庭内で虐待や性暴力を受ける女性たちが増え、逃げ場を失う事態に追い込まれている。福祉事務所やシェルターを持つ民間の支援団体等に救いの手を求められなかったある女性は、ボーイフレンドの家に泊めてもらううち性行為を求められ、不本意な妊娠をしてしまった。パートナーと過ごす家が、安全な場所ではなくなっていることを意味している。
無店舗型性風俗店(デリバリーヘルス=デリヘル)で月30万〜 50 万円の収入を得ていた野望さん(仮名・24歳)は、2021年1月、自殺未遂を起こした。
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家族に頼れずひとり暮らしをしながらキャバクラで働いていたが、コロナ禍で店が休業してしまった。収入は、抗うつ剤などの医療費や、不安からくる大量買いなどで使い果たしており、貯金はない。接待型ではなく接触型のハードな性風俗店に移行せざるを得なくなった。デリヘルを始めたものの、そこでも仕事がなくなり、路上やSNSで男性に声をかける個人売春に移っていく。そうなると、服用する薬もより強力になっていく。精神科の主治医からは仕事を辞めて生活保護を受けるように助言もされたが、自分のような人間が福祉でお世話になるのは申し訳ない、と思ったそうだ。
朝起きられなくなり体調も悪いので、病院に行くと性病であることが判明した。そうして個人売春もできなくなった。
主治医の言葉を思い出して、困り果てた挙げ句に向かった福祉事務所では、まったく相手にされなかった。
「24歳? あなたみたいな若い人は生活保護って受けられないんだよ」
「頼れる男性や好きな男性はいないの? 一時的でも頼ってみたら?」
「まだ働けるでしょう。アルバイトならあちこちで募集しているよ」
「どうしてこんなになるまで資格を取っておかなかったの。それじゃ生活保護を受けたって同じことの繰り返しだよ」
人生に絶望し、帰宅途中にある友人宅で大量服薬をして自殺を図った。
医療費がかからないだけでも大きな安心
気がついた時には、友人に起こされて助けられていた。幸いにも命は助かったが、大量服薬のせいで、体はまったく動かせない。救急車で病院に運ばれ、そのまま入院する。退院後は家で治療することになった。駆けつけた友人がたまたまSNS上で私のTwitterを見つけ、連絡してくれた。
退院後、一緒に生活保護の申請窓口に向かうと、要保護性ありということで即日受理された。本人も「過去の福祉事務所の発言は何だったのか。もう少し早く支援団体に相談したかった、本当に安心しました」と涙ぐみながら話してくれた。
生活保護が開始されると、国民健康保険の被保険者から外れる。ほとんどの生活保護受給者は、医療費の全額が医療扶助で支払われる。けがの治療や心身の休養が必要な困窮者には、医療費がかからないだけでも大きな安心だ。後遺症が残るかもしれないが、彼女は今、リハビリに励んでいる。
女性ひとりで相談窓口に行くと、体よく追い返される
生活保護を受けようと福祉事務所の相談窓口に赴くと、ろくに話も聞かれずに貸付を紹介されたり、劣悪な遠方の施設への入居を勧められたりといった事例が今も散見される。
厚生労働省も窓口で追い返すような「水際対策」を厳しく戒めている。生活保護は受けて当然の権利であることをどう世の中に浸透させていくかが、今後の行政のポイントとなるだろう。
幾多の病気を抱えて働けなくなっていた佐野さんは当然、保護案件に該当するケースだった。しかし、最初にひとりで相談窓口に出かけた時は保護申請させてもらえなかった。
「女性は男性に頼るもの」という偏見
自治体の職員などに多いのだが、特に「何の問題もなく育った」人々のなかには、家庭は温かくて頼りになる受け入れ先であり、何かあれば逃げ帰れるシェルターのようなイメージを抱いているケースが多い。そして、「働けるのに働いていない人に、働くよう勧めるために保護申請の窓口はある」と思っている職員もいる。相談窓口を「拒否するためのもの」と取り違えているのだが、その誤解を支えているのが「女性は男性に頼るもの」という偏見だ。
「何の問題もなく育った」自治体職員のなかには、母親がこまめに家事と育児をし、父親ひとりが稼ぎ手だった、昭和の時代の「平和な」家庭をイメージしている者がいる。若い女性が相談に訪れると、「若いんだから働きなさい」「夜の仕事でも何でもあるでしょう」「付き合っている男性はいないの?」「家族がいるでしょう。まずは家族に頼りなさい」などと言って追い返す。
生活保護は自分たちが生きていくための権利
切羽詰まって民間の相談機関に駆け込んだ後、男性の社会福祉士が付き添って再度申請する。すると、すんなり受理される。そのいっぽうで、女性の社会福祉士が付き添うと、1回での受理が難しいことがあるのも事実だ。窓口が男性職員だったりするとなおさらで、女性蔑視、女性差別の意識は実に根深いといえる。
「男性に頼れないのは、あなたに女性としての魅力がないからだ」といった侮辱や、「若い人は受給できない」といったでたらめな説明をされたら、泣き寝入りせずにSNSで発信したり、新聞に投稿したり、異議申し立てをしてほしい。
「働いたことのないような人間には税金を使えない」といったモラルハラスメントを受けたら、精神的苦痛を受けたとして全国各地の弁護士会へ人権救済の申し立てをすることもできる。理不尽な対応を受けたら、「生活保護は自分たちが生きていくための権利だ」と正々堂々と主張してほしい。
それと同時に私たちソーシャルワーカー、支援団体は今後も女性支援に注力していく。遠慮なく相談してほしいと願っている。
【前編を読む】「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態
(藤田 孝典)