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世界観を表現し、着る者の魅力を際立たせ、コミュニケーションの媒介となるコスチューム。『CGWORLD + digital video』vol. 277では、デジタルにより日々進化するコスチュームのセカイを大特集した。CGWORLD.jpでは全46ページの特集の中から約12ページを抜粋し、全4回に分けて転載する。以降では、アパレルDX事業を展開するGOOD VIBES ONLYの制作事例を紹介しよう。



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TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

先行して自社ブランドを立ち上げ、DX事業の技術を試験導入




  • 左から、CGデザイナー・王瞳氏、CGデザイナー・王艾加氏、ファッションデザイナー・望月 茜氏、DX事業部統括責任者・冨尾礼美氏、最高経営責任者・野田貴司氏(以上、GOOD VIBES ONLY)
  • GOOD VIBES ONLYは、アパレル産業における企画から販売までのサプライチェーンのデジタル化を促進することで、業界が抱える様々な課題の解決を目指している。「物理サンプルの削減、余剰在庫とその廃棄の削減、生産リードタイムの圧倒的な短縮。この3点に注力し、事業を展開しています」と語る野田貴司氏(最高経営責任者)に話を聞いた。

  • GOOD VIBES ONLY


    [事業内容]
    ■DX/RETAILTECH事業
    ・デジタルアパレル制作
    ・SNS受注予測/マーケツール(開発中)
    ・オンライン接客
    ・DX店舗

    ■D2C事業
    ・プライベートブランドの運営
    ・ブランドプロデュース
    ・各種SNS運用代行/サポート

    [設立]
    2018年4月

    goodvibesonly.jp

アパレル業界での野田氏のキャリアは5年程度と意外に短い。それ以前は広告代理店の営業やフリーランスとして、アプリやECサイトの開発に従事していた。「キャリアが短いからこそ、業界の常識に囚われない柔軟な発想ができているように思います。当社のスタッフに関しても、ファッションデザイナーの場合は望月(茜氏)のような経験者も採用しますが、CGデザイナー、マーケティング、営業などは、アパレル未経験者を積極的に採用しています」(野田氏)。例えば、DX(Digital Transformation)事業部の統括責任者で、CLOやBlenderによるCGサンプル作成を指揮する冨尾礼美氏の場合は、CG業界で約5年のキャリアを積んだ後、2020年に同社に転職した。

そんな同社のDX事業部は、具体的にはどんな "Transformation(変化)" を目指しているのだろうか?「従来の物理サンプルをCGサンプルに置き換えるだけでは、産業全体のDXにつながりません。サプライチェーン上にある様々な課題とその要因を把握し、ITやAIの力も併用しながら解決を図り、新しい雇用を生み出すことを目指しています。また、課題解決のためには新しい技術の導入だけでなく、組織体制の見直しやスリム化も必要です」(野田氏)。

同社ではD2C(Direct to Consumer)事業も展開しており、5つのブランドの商品開発からECサイトでの販売までを自社で行なっている。「先行して自社ブランドを起ち上げ、DX事業の技術を試験導入することで改善を図りました」(野田氏)。そのPDCAサイクルが上手く回り、ノウハウが蓄積された結果、最近はアパレル業界各社からのコンサルティング依頼が増えているという。「増加の背景には、コロナ禍によるDX需要の高まりに加え、従来のワークフローに窮屈さを感じていた人が多かったこともあるようです。私たちのやり方に興味をもってくださる人や組織が増えてきたことで、事業の先行きに手応えを感じています」(野田氏)。



▲5つの自社ブランドのひとつである、ELENORE TOKYOのビジュアル


▲同じく、LEANN MOMENTのビジュアル

ELENORE TOKYOのDX導入事例ーパターンの知識の有無により、服のクオリティは大きく変わる

以降では、ELENORE TOKYOにおける、最新の取り組みを紹介する。ELENORE TOKYOとLEANN MOMENTのファッションデザイナーを務める望月氏は、アパレル業界での約7年の経験を経て同社に転職した。「型にはまらない柔軟な発想をしてほしいので、あえてイメージのちがう2ブランドのデザイナーを兼務してもらっています」(野田氏)。両ブランドにはデザインの監修をするディレクターが1人ずついて、望月氏と共同で商品の企画・デザインを行なっている。ちなみに、ブランドにはシーズンごとのコンセプトがある。ELENORE TOKYOの2021-22秋冬シーズンの場合は、ミランダという名の女性を、その容姿・年齢・職業・年収・住居・パートナーの職業なども含めて細かく設定し、そんな「ミランダの着る服」というコンセプトからデザインを展開している。このながれは、ゲームや映像制作におけるキャラクターやコスチュームのデザインに通じるものがある。


▲ELENORE TOKYOの2021-22秋冬シーズンのコンセプト映像

望月氏らが考えたデザインは、デザイン画や絵型として可視化され、パタンナーによってパターン(型紙)がつくられる。そのパターンをCLOにインポートし、CGサンプル、SNSやECサイト用の画像・映像をつくるのが冨尾氏をはじめとするCGデザイナーの役割だ。「エンターテインメント業界の仕事も大好きなんですが、今の仕事は大量生産・大量廃棄による環境への負荷などの課題解決にもつながっているので、やりがいを感じています」(冨尾氏)。

転職直後はアパレルの知識がほとんどなかったため、パターンの専門書を5冊ほど購入し、わからないことは望月氏に聞いて必要な知識を吸収していったという。「パターン作成はCGデザイナーの仕事ではありませんが、パターンの知識の有無によって、出来上がる服のクオリティは大きく変わります。ほかにも、服の仕様の読み方、布地のこと、縫製のことなど、ひとつずつ理解していきました」(冨尾氏)。

企画から販売までのながれ



▲GOOD VIBES ONLYの5ブランドにおける、企画から販売までの基本的なながれを図示している

CGサンプルのない従来の生産方式の場合、パターンを作成し、それを基に物理サンプルの作成を縫製工場に発注し、その結果をふまえてパターンを修正し、再び物理サンプルを発注するというサイクルが2~3回ほどくり返される。サイズちがい、色ちがいのバリエーションが多い商品は、物理サンプルの数も多くなる。なお、作成には最短でも1~2週間を要し、材料費と加工費がかかる。物理サンプルの加工費は量産品のそれよりも高く、2~4倍ほどとなる。

同社では、CGサンプルを最大限に活用することで、物理サンプルの9割削減を目指している。また、CGサンプルからInstagramなどのSNSに投稿するための画像・映像を作成し、SNSでの複数の反応(「いいね!」の数や保存数など)から受注予測を行い、発注数を決定している。現在はこの蓄積したデータを基にAIが学習を行なっており、より精度の高い受注予測システムを開発中だ。アパレル業界では前年の実績を基に発注数を決めるのが定石とされてきたが、同社では「今の需要(=SNSの反応)」を基に発注数を決めている。

デザイン画・絵型の作成

ここでは、ELENORE TOKYOが2021年春に発売したShirt Pleats BELT OPの作成事例を使い、企画から販売までのながれを具体的に紹介していく。



▲服のイメージを伝えるデザイン画。使用予定の布地の画像も貼り付けられている。最終的には、コットン見えしつつシワになりにくいポリエステル98%、ポリウレタン2%の布地が使われた




▲先のデザインの絵型。服の構造やサイズが明確に図示されている。プリーツが印象的なノースリーブのシャツワンピースで、ベルトに付いたスカート状の布地が個性的なシルエットをつくっている。なお、この絵型では着丈128cmとなっているが、最終的には129cmに変更された。そのほかのサイズも、生産工程の中で若干変更されている

CLOによるCGサンプルの作成

先の絵型を基につくったパターンをCLOにインポートし、CGサンプルを作成する。




▲CLOの作業画面。右側にパターン、左側にそのパターンからつくったCGサンプルが表示されている。なお、CLOは現実世界の服、Marvelous DesignerはゲームやCG映像の世界の服の作成に特化したツールで、いずれもCLO Virtual Fashionが提供している。コアとなる技術は同じだが、CLOにはアパレル業界向けに特化した機能が搭載されている。これはファーストCGサンプルで、シャツワンピースのプリーツと、ベルトに付いた布地のタックの折り目が当初のイメージよりも固くなってしまった。そこで布地の種類とパターンを変更し、セカンドCGサンプルを作成した




▲セカンドCGサンプル。先の作業画面のスカート部分を比較すると、こちらの方がよりやわらかい落ち感になっている

こういった変更を加えるときには、ある程度のパターンの知識がCGデザイナーにも求められる。一方で、CGデザイナーによって作成されたCLOのデータをファッションデザイナーが受け取り、柄の大きさやプリント位置を変えてみたり、丈を長くしてみたりといった検証を自ら行うケースもあるそうだ。「CGサンプルを着用するアバターの体形も柔軟に変更できるので、体形のちがいによるサイズ感の変化をCLO上で確認したりもします。真上から見ることもできるので、ウエスト部分の布地の余り具合を確認しながら、サイズ調整をすることもありますね」(望月氏)。

CGサンプルと物理サンプルの比較




▲【上】セカンドCGサンプルから作成した画像/【下】物理サンプルを着用したモデルの写真




▲同じく、【上】セカンドCGサンプルから作成した画像/【下】物理サンプルを着用したモデルの写真

両者を比較すると、布地の重さ、織組織の密度などに由来する落ち感が高い精度で再現されていることがわかる。CLO Virtual Fashionは物性測定器(現実世界の布地の物性を測定するための専用キット)も提供しており、これで測定した布地のデータを入力すれば、その布地をCLO上で再現できる。

「まずはCGサンプルを見ながら布地の種類やパターンを検討し、イメージの実現を目指します。その上で物理サンプルを発注すれば、物理サンプルの作成回数を最小限に抑えられ、生産にかかる時間も短縮できます。Shirt Pleats BELT OPの場合は、企画から販売までに要した期間は約1ヶ月です。最近は繊維商社による布地の測定データ提供などの取り組みも始まっており、DXを推進するための環境が日々整いつつありますね」(冨尾氏)。


©GOOD VIBES ONLY inc.

info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.277(2021年9月号)


    特集:デジタルで彩るコスチュームのセカイ
    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:112

    発売日:2021年8月10日

    cgworld.jp/magazine/cgw277.html