現代では、物をスマート化する取り組みがさまざまな業界で行われていますが、障がい者の生活をサポートするテクノロジーも例外ではありません。最近では視覚障がい者が靴に取り付けるインテリジェントなデバイスがヨーロッパで注目を集めています。このテクノロジーは、ユーザーの歩行先にある障害物を検知し、それを音や振動などを通してユーザーに伝達できるのだとか。どんなものなのでしょうか?
視覚障がい者が1人で外を歩くとき、人や物などさまざまな障害物に衝突する恐れがあります。それを防ぐために、白い杖を使って歩くほか、街中には点字ブロックや音声式の信号が設けられたり、電車のホームには転落防止用のホームドアの設置が進められたりしています。しかし、それでも視覚障がい者が事故に巻き込まれてしまうケースが報じられるなど、危険から守るための新たな対策が求められています。
そんな中、オーストリアのInnoMake社が、歩く人の数メートル先の障害物を検知するAI搭載ツールを開発しました。靴のつま先部分に装着して使う超音波センサー「InnoMakeセンサー」です。これを使うと、最大4m先までの範囲にある障害物——段差や縁石、人など——を検知することができて、なんらかの障害物を検出すると、装着している人にそれを伝えます。アプリを使えば、障害物を検知する範囲を0.5m~4mの範囲で、0.5m刻みで自由に設定することが可能。
このツールを設計するために、同社の研究チームは、実際に視覚障がい者の歩行を20台のカメラを使って、さまざまな角度から撮影して解析しました。その平均的な歩幅を測定するなどして、このツールに求められる機能や、最も適切な靴の装着位置などを検討したそう。
障害物を知らせる方法は、振動・LEDライト・音の3種類があり、あらかじめ選択しておくことができます。振動を設定すれば靴に装着したデバイスが振動し、LEDライトを選べば夜間などの暗闇でも点灯します。スマートフォンの専用アプリを使えば、音を鳴らして障害物の存在を知らせてくれるのですが、ユーザーの周囲が雑音や騒音でうるさくても、聞き取りやすいように骨伝導ヘッドフォンを使用することもできます(この機能はアプリを起動しなくても使うことが可能)。
InnoMakeセンサーにはクルマとの相似点があります。このデバイスにはインテリジェントモードが搭載されており、この機能を使えば、ユーザーが椅子に腰かけているときに、InnoMakeセンサーが自動的に一時停止します。まるでクルマのアイドリングストップのようですが、それだけでなく、このセンサーは足の動き(例えば、ユーザーが歩き始める)だけで、周囲の環境を「スキャン」して、情報を取得することもできるのです。これはクルマの安全運転支援システムを想起させますよね。
InnoMakeセンサーは、防水性と防塵性を兼ね備えているため、雨の日も晴れの日も使うことが可能。バッテリーは付属のUSBケーブルで充電して繰り返し使えます。InnoMakeセンサーを市販の靴で使用するためには、専用アタッチメントを取り付ける必要があるそう。
InnoMakeの創業者のマーカス・ラファー氏は、自身も視覚障がいを持っており、視覚障がい者がより安全に日常生活を送ることができるようにするためのツールを開発してきました。ラファー氏はInnoMakeセンサーを実際に使っており、「個人的にとても助かっている」と話しているそう。同社はAIを搭載したデバイスの開発も行っていると報じられています。InnoMakeセンサーは小さなデバイスですが、このようなアイテムが世界に登場したことは、人類にとって大きな一歩かもしれません。