トム・クルーズ主演の洋画「マイノリティ・レポート」では、AIがまだ起こっていない犯罪を予測し、事前に犯罪者予備軍を見つけ出し、拘束した。同類のコンセプトは、2019年11月から2020年3月まで六本木の森美術館で行われた展示「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命──人は明日どう生きるのか」でも用いられ、街を行き交う人たちの顔認証や距離感、向いている方向、持っている物を画像処理し、犯罪予測を行うという展示も行われた。まさにそれらをSFプロトタイピングしたかのような事業を展開するのが、犯罪を予測する「CRIME NABI」を提供するSingular Perturbationsだ。
スリ被害体験を元に犯罪予測AIを考案
社名の「Singular(特異的な)Perturbations(摂動たち)」は、 理論物理の手法名に由来する。リアルタイムに犯罪に関連するデータを収集し、世界最高精度の予測手法を含む独自のアルゴリズムに基づいて犯罪を予測し、未来の犯罪ヒートマップといった、リスク可視化・安全な経路提案・警備人員計画・犯罪要因分析などの犯罪リスクヘッジソリューションを提供する。
創業者で代表取締役CEOの梶田真実氏は、イタリアに住み始めた際にスリ被害に遭った。心細い中で、現地の警官が拙いながらもGoogle翻訳で日本語で励ましてくれたことでとても安心したという。自身も、犯罪が多発する地域・時間帯を特定し、同じように危険な目に遭う人を減らしたいと考え、2017年8月に同社の創業に至った。本人も東京大学大学院で統計物理学の博士号取得者だが、メンバーの67%もPh.D取得者で、計算犯罪学、空間統計、計算科学、犯罪学に長けたチームとなっている。
クライアントは警察庁に地方公共団体、学校法人と多岐に渡る。情報通信研究機構(NICT)の委託研究プロジェクトでは単独採択となり、2019年の9月から市民団体向けに、2020年8月からは地方公共団体向けに犯罪予測に基づくパトロール経路策定のアプリを配布し、実証実験を開始。足立区では実証実験中に検挙につながる事例もあり、名古屋市では2021年度導入が始まっている。
2021年開催のSmartCityX、2020年のGoogle for Startup AcceleratorではSmartCity / AIの文脈で、2020年にはPlug and PlayではFintechの文脈でアクセラレータに採択されている。現在、警備はドローンやパトカー、監視カメラなどが独立して動いている状態だが、その間をCRIME NABIが繋ぎ、最適配置を行うようにしていきたいという。同社は「安全を守る仕組みをデザインし、世界の犯罪を減らす」をビジョンに掲げており、重犯罪の多い欧米や東南アジアにも同事業を展開していくそうだ。
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