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TEXT BY まつもとたくお

■2021年9月に日本デビューを果たした、話題のLOONAとは?

韓国発の女性12人組・LOONA(ルーナ/別名:今月の少女)が2021年秋に「HULA HOOP/ StarSeed~カクセイ~」で待望の日本デビューを果たした。

同作は、もちろん日本向けに制作した内容だが、9月15日に配信後、アメリカを含む世界の26の国と地域のiTunesで1位を獲得。10月20日にはCDでもリリースされ、Billboard JAPAN Top Singles Sales Chartでは3位に入るなど好調な売り上げを記録している。

彼女たちは独自の世界観とユニークな登場の仕方で差別化を図り、世界各国に熱狂的なファンを多く生んだ。日本も例外ではなく、それは今回のデビュー作の成績にもはっきりと表れているのだが、どのようなところがライバルたちと違うのだろうか?

■メンバー個人の魅力を広めるソロデビューからのグループ結成へ

まず、注目を集めたのは、グループが始動する以前に“私たちは毎月新しい少女に出会う”をコンセプトにメンバーを次々とソロデビューさせた点だ。彼女たちの歩みを説明すると、定期的に魅力的な女性が現れてソロ曲をリリースし、12人そろった時点でグループを結成…というもの。

“今月の少女”というグループ名は、こうしたプロモーションの手法を指している(ちなみに“LOONA”とは、今月の少女のハングル表記の子音をもとに作られており、“月”や“月の女神”といった意味を持つ)。

とはいえ、風変りな売り方だけでブレイクしたわけではない。

LOONAは各メンバーのキャラクターの違いがはっきりしており、それぞれのイメージに合わせて制作したハイクオリティな楽曲と映像がリスナーを惹きつける大きな要因となった。

■徹底したクオリティファースト。サウンドと映像へのこだわり

個人的にこのグループが気になり始めたのは、4人目のメンバーとして発表されたヨジンの「Kiss Later」(2017年)を知った頃だったと思う。

彼女のキュートなイメージを強調するためにドリーミーかつ軽快なサウンドを採用。自身のイメージキャラクターである“カエル”をテーマにした、コミカルなMVと共に仕上げた世界はあまりにも奇抜で、それまでのK-POPシーンに類例がなく衝撃を受けた。

アイドルの王道を進む10人目のメンバー・チュウが歌う「Heart Attack」(2017年)もインパクトがあった。

親しみやすい歌詞と明快なメロディが最大のセールスポイントにもかかわらず、MVはルネ・マグリットの絵画「盗聴の部屋」をベースにしたシュールな映像で構成。その“ちぐはぐさ”に他のアイドルにはない魅力を感じた人も多かっただろう。

サウンドと映像に徹底的にこだわる姿勢は、グループの活動に移っても一切変わらない。

2019年に発表した「Butterfly」では、蝶をモチーフにした幻想的な歌詞とサウンド、様々な女性の凛とした表情をとらえたMVで、ナチュラルに生きる女性の美しさ・素晴らしさを表現。

「Why Not?」(2020年)ではクールなダンスポップにガーリーな要素を加え、さらにスタイリッシュなMVを組み合わせることにより、新しい形のガールクラッシュ(女性が憧れる女性)を見せた。

■ワールドワイドな活躍を念頭においた“ボーダレス”

こうした一連の創作活動によって作り上げた独自の世界観は“ルーナバース(LOONAVERSE)”と呼ばれ、ファンに親しまれている。従来のアイドルにないものを追い求めながら、神秘や幻想、時に人を翻弄する狂気といった“月”から連想するイメージを散りばめた一連の作品は、何をやってもLOONAらしさに繋がり、特定のカテゴリーに収まりきらない。強いて、LOONAの特徴をワンワードで表すなら…“ボーダレス”がいちばんしっくりくるだろうか。

K-POPの今日の成功を語るうえで欠かせない言葉となった、“ボーダレス”。すっかりネット中心の社会になり、特に音楽の世界では国境や制約が取り払われた感がある現在、「〇〇らしさ」を追い求めるスタイルは廃れてしまった。

〇〇には「男性」「女性」「若者」「大人」「韓国」など、いろいろな言葉があてはまるが、そうした何かを規定する行為を必要としない、個性を尊重したサウンド&ビジュアルが国境を越え多くの人々の心に響いているからだ。

近年のK-POPはこのポイントをより強く意識するようになった印象を受ける。BTSやBLACKPINKが代表的な例だが、彼ら・彼女らが新作を出すたびにボーダレスな表現が増えてきている(その結果、より各アーティストの独自性が高まってもいる)のは、前述のような世界の動きを敏感にキャッチしているからに違いない。

とはいえ、LOONAの場合は流行や世界の動きに合わせたスピード勝負はしない。ソロデビューで各メンバーの個性を発信し、粒ぞろいなメンバーが集結したグループへと精度を高めている。あくまでマイペースにボーダレスな魅力を身に着けていったのが興味深い。この点だけを見てもユニークなのがわかるはずだ。

今後も自分たちのペースを守りながら、さらなる高みを狙ってほしいと思う。それは「地道に頑張り続ける」こともグループの魅力のひとつになっているからだ。ファンも焦らずに彼女たちを見守り、応援すべきだろう。ともに新しい地平を開いてこそ、感動もひとしおだという両者の思いがあればこそ、12人の少女たちはもっと成長するはずである。