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天気が悪くなるたびに、頭痛やだるさに悩まされる……。正式な病名こそないものの、この症状は「気象病」と呼ばれ、年々認知度と深刻さを増してきています。

 

この気象病のメカニズムとは? またどのように対処すればいいのでしょう? せたがや内科・神経内科クリニックで気象病・天気病外来を開設している久手堅 司先生に教えていただきました。

 

つらいのは雨の日だけじゃない!? 最近よく聞く「気象病」とは

「気象病」と聞いて、どのような症状をイメージするでしょうか? きっと多くの人が、雨が降った時に起こる頭痛やめまいを想像するのではないでしょうか。実は不調を引き起こす原因は雨だけではない上、現れる症状ももっと幅広いものなのだそう。

 

「気象病とは、気象の変化によって不調が現れることを言います。気象病で当院を訪れる患者さんの約9割近くは気圧の変化による不調を訴えますが、なかには温度や湿度を原因に不調を訴える人もいます。そのため、一概に気圧変化だけが原因とは言えません。

症状としては、頭痛が約8割の方にあります。その他にも首・肩コリ、全体の倦怠感、めまい、耳鳴り、ぜんそく、関節の痛み、うつ、気分の不調などと多岐にわたります」(せたがや内科・神経内科クリニック 院長・久手堅 司先生、以下同)

 

大多数の人が気象病=ただの頭痛というイメージを持っているため、軽く受け取られがちな気象病。しかし深刻化するとベッドから起き上がれなくなったり、仕事が手につかなくなったりすることもあるのだとか。

 

「例えば、寝ている間に気圧が変化し、血圧が下がったとします。すると全身をだるさが襲い、ベッドから起き上がれず、会社に行くこともままなりません。しかし検査をしても多少血圧が低い程度で目立った異常が見つからないため、会社などには理解してもらえないんです。その結果、社会復帰できなくなる事態にまで発展することもあるんですよ」

 

自律神経の乱れが原因! 気象病のメカニズムとは?

さまざまな症状を引き起こす気象病。その理由として、久手堅先生は「自律神経が関係している」と話します。

 

「患者数がもっとも多い“気圧を原因とする気象病”の場合、気圧を感知する内耳(耳の奥に位置する器官)に過度な負担がかかることで引き起こされます。内耳には耳で受けた情報を脳に伝える役割もあるため、過剰なストレスが加わることで、脳を経由して自律神経が乱れてしまうんです。すると、その人がもともと持っている不調が強まったり、表に出てきてしまったりします」

 

つまり、気象変化によって新たな不調が生まれるのではなく、それぞれの体に潜む不調が浮き彫りになっているということ。ベースとなる体の調子が悪ければ悪いほど、気象病のリスクは高まってしまいます。

 

「もちろん気象変化が起こった時だけ、不調が現れることもありますよ。女性は生理周期があるため、ただでさえ自律神経が乱れやすい体の状態です。その分、気象病になりやすい傾向にあり、当院を訪れる方の約7~8割を女性が占めています。他には、不調の大元である“耳”に持病のある方や両親が気象病持ちの方なども、気象病になりやすいですね」

 

実は現代病だった! スマホの普及が患者急増の一因に

徐々に認知度が高まってきている気象病ですが、いつ頃からその名が広まっていったのでしょうか?

 

「気象病という正式な病名こそなかったものの、症状自体は遠い昔からありました。『雨が降ると古傷が痛む』という言葉がありますが、気象病と同じだと思われます。

そして一般の方々にその名が知られるようになったのは、ここ4~5年くらいの話です。スマートフォンやタブレットの普及によって首・肩コリに悩む人が増加。体のバランスの崩れ=気象病リスクの高まりでもあるため、おのずと気象病患者も増えていきました。するとメディアなどで紹介される機会が増え、広く認知されるようになったというわけです」

 

さらに久手堅先生は、オンラインミーティングが増えたり、外出して体を動かす機会が減ったりしているコロナ禍の状況や、季節外の大雨や甚大な被害をもたらすほどの台風、酷暑といった異常気象も、気象病患者の増加に繋がっているといいます。

 

「気象病・天気病外来を始めて数年が経った2018年頃は、1日に数十名の患者さんが訪れる5~7月頃をピークに、他の月は落ち着いているような状態でした。特に寒暖差や気圧の変化の少ない1~2月の来訪者は、多くても1日数名程度だったと記憶しています。

しかし最近は、コロナ禍で体がなまっていたり、異常気象で落ち着いた天気の月が減ってしまったりといった理由から、ピーク時とほぼ同じ数の患者さんが一年中来訪しています。もちろんメディアによる認知度の高まりなど、他にもさまざまな要因があるとは思いますが、患者数が増えていることは間違いありません。現代病の一つとして、徐々に深刻化しつつあると思います」

 

天気と上手に付き合うには? 気象病の対処法 3

ここまで気象病のメカニズムについてお伝えしていきましたが、「やっぱり自分の不調が気象病にあたるのか分からない」という人も多いのではないでしょうか。久手堅先生によると、

・天候が変わる時、体や心に不調が起こる
・天候の変化を予測できる

このどちらか一つにでも心当たりがある場合、気象病の可能性が高いのだそう。気象病に悩まされている・気象病の疑いがあるという人のために、ここからは自分でできる対策法について紹介していきます。

 

対処法1 ぐるぐるマッサージ

不調のきっかけとなるのは耳。そのため、耳まわりの血流を良くするだけでも症状の緩和が期待できます。耳たぶやこめかみ、頬、まぶたをぐるぐると回して、血流を改善していきましょう。また、このマッサージは耳回りのコリを緩和する効果もあるのだとか。

 

「不調が起こっている時だけではなく、日ごろから習慣化して行うことが大切です。ベースとなる体づくりができれば、気象が変化しても不調が現れにくくなります」

 

対処法2 漢方(五苓散)を飲む

気象病によく見られる症状は、漢方医学でいう「水毒」と呼ばれる状態。自律神経の乱れによって体のあちこちに余分な水分がたまり、不調が表に出てくるのです。だからこそ水分代謝を改善する効果のある「五苓散」が、気象病対策としておすすめだといいます。

 

「五苓散は、はよく処方されている漢方薬です。受診することで、それぞれにあった用法・用量が分かり、より高い効果が期待できます。とはいえ、近くに気象病外来がないという方も少なくないでしょう。その場合には、薬局で購入できる市販の五苓散を取り入れることも可能です」

 

対処法3 アプリや天気予報を参考に予定を調整

残念ながら、私たちの力では天気をコントロールすることはできません。そのため、「症状が出そうな日は仕事を詰め込まない、大事な用事は別の日にする」など、自分の予定を調整していくことが、気象病と上手に付き合うコツといえます。

 

「注意しておきたいのは、“気象病の症状は天気が悪い時に現れるものではない”ということです。気圧や温度、湿度の変化が起こっている最中に現れるため、天気予報を確認し、天気が悪い日の前後の予定を調整するようにしましょう。人によりますが、天気が悪い日の1日~半日前と半日~1日後が、最も症状の出やすい時間帯と覚えてもらえれば良いと思います」

 

昨今は天気予報以外にも、予定調整に役立つ気象情報がたくさん発信されています。中でも久手堅先生イチオシだというのが、気象病対策アプリ「頭痛ーる」。気圧グラフや症状が現れそうなタイミングを事前にお知らせしてくれるプッシュ通知機能、痛み・服薬の記録機能などがあります。

 

「当院に通う患者さんの約9割が利用しています。『通知通りに症状が出る!』といった声もよく聞くので、うまく活用しながら予定を調整してみてはいかがでしょうか?」

スマホアプリ「頭痛ーる」

 

ゆるく向き合うことが何よりも大切

「気象病・天気病外来を訪れる方の中には、メンタル不調を訴える患者さんも多くいます。人間の体はすべてが連動しているので、体に不調が起きるとメンタルにまで影響を及ぼしてしまうんです。だからこそ、私は“深刻に考えすぎないこと”が気象病のケアにおいて一番大切だと考えています。完治せずとも、症状が1/2や1/3にまで減れば十分。そのくらいの余裕を持って向き合うことで、体と心の緊張が解れ、より早い回復に繋がっていくと思います。

徐々に認知度が高まってきたとはいえ、まだまだ一人で悩んでいる人も多くいるはずです。今回ご紹介したマッサージ法や漢方、アプリを使っても解決しないようであれば、気軽に気象病外来を受診してみてくださいね。一緒に対策を考えていきましょう!」

 

【プロフィール】

「せたがや内科・神経内科クリニック」院長 / 久手堅 司

東邦大学医学部医学科卒業後、東邦大学附属医療センター大森病院および済生会横浜市東部病院での臨床経験を経て、2013年「せたがや内科・神経内科クリニック」を開業。気象病・天気病外来のほか、頭痛外来、肩こり・首こり外来など多数の特殊外来を立ち上げ、数多くのメディアからの注目を集めている。