新型コロナのパンデミックの影で、女性や子どもへの暴力が増えているという。12月19日付のフィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、社説でこの問題を採り上げた。
「影のパンデミック」
新型コロナの感染拡大が始まってからの2年間、「感染予防のために行われたロックダウンによって、女性や少女への暴力という危険な状態が生み出された」と、社説は振り返る。
国連総長はこれを「影のパンデミック」と呼んでいる。
「国連女性機関(UN Women)が2021年11月に発表した報告書によれば、この影響は、新型コロナより広範だという。この犠牲者は、目に見えないウイルスではなく、自宅で一緒に暮らし、よく知っている人々によって自由を奪われている。政府が支援のための予算をカットしたため、彼女たちの多くはほとんど助けを得ることができない」
社説によると、国連のこの調査が実施された世界13カ国の回答者のうち、ほぼ半数が、新型コロナのパンデミック以降に暴力を受けた、または暴力を受けた人を知っていると答えたという。フィリピンはこの対象国ではないが、フィリピンの調査会社ソーシャルウェザーステーションの集計によれば、2020年第4四半期、4人に1人、つまり25%のフィリピン人の成人が女性への暴力を目撃したという。目撃した「暴力」の内訳は、身体的な暴力が11%、性的暴行が7%、そして精神的な暴力が7%だ。
他方、新型コロナのパンデミック以前の2019年にも、フィリピン女性の4人に1人が夫からの暴力を経験しており、専門家の助けを得ることができた被害者は3.5%にとどまったという。
「パンデミックは人々を孤立させ、<見えない暴力>を可能にした」と、社説は指摘する。実際、フィリピン国家警察の統計によれば、パンデミックが始まった時期と、暴力事件が増え始めた時期は一致するという。2020年3月から6月の3カ月間に国家警察が扱った女性と子どもへの暴力事件は4260件に上る。ケソン市に設置された女性と子どものための相談窓口には、以前の倍以上、週に12件以上の暴力事件が報告されるようになったという。
届かない被害者の声
その上で社説は、オックスファム・フィリピンの調べを引用しつつ、「フィリピン政府がこうした暴力の被害者を救うために割いている予算は、新型コロナの感染防止のための予算の0.0002%に過ぎない」と、指摘する。
「国民をウイルスから守ることばかり考えていた私たちは、社会においてもっともリスクの高い人々の存在を忘れてしまったのではないか。彼女たちは、ジェンダーに基づく搾取や虐待によって、新型コロナよりも高いリスクに直面しているかもしれないというのに」
助けを求める声は、しかしインターネットを見ると確実に増えていた。社説が引用した国連女性機関の調べによれば、2019年10月から2020年9月までの間、フィリピン国内では「暴力」「虐待のサイン」といった言葉が、以前より63%も多く検索されていたという。さらに、2020年4月から9月には、「家庭内暴力を止める方法」といった質問や、相談窓口を探すためのキーワードも多く使用されたという。
にも関わらず、この国には今、沈黙の文化が広がっていると社説は指摘する。例えば、ジェンダーに基づく暴力は、その被害者の多くが自身の経験を恥ずかしいことだと考えがちであるがゆえに、表面化しにくいのだという。
その上で社説は、「助けを求めたり、新しいスタートを切ったり、休んだり、そして何かを手放したりしてもいいし、大丈夫ではない時があってもいいのだ、という人権委員会のメッセージを忘れないでほしい」と、呼びかける。
コロナ禍によって、それまでも社会にあった様々な問題が浮き彫りになった。ここで挙げられている女性や子どもたちへの家庭内暴力も、その一つだ。そして、それが決して途上国に限らず、世界共通の課題であることを、国連の調査は示している。
(原文https://opinion.inquirer.net/147685/the-shadow-pandemic)
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