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 PCゲームにとってMOD(MODification)は大きなポイントとなる要素だ。普段は基本的にMODを使わないという人であっても,「非公式の日本語化パッチ」(一般にLanguage MODと呼ばれる)を導入したことがあるということは,珍しくないのではなかろうか。あまりMOD文化が盛んではないと言われがちな日本でも,「The Elder Scroll」「Fallout」シリーズなどでは,MODを導入したり作ったりしている人はけして少なくない。

 またオンラインゲームを遊ぶ人であれば,各種MOBAやバトルロイヤル系FPSなど,MODが母体となって発達したゲームをプレイしている人も多いだろう。これらの作品もまた,MOD文化の延長線上にあると言える。

 このようにゲーム産業にとって無視できない影響を与えてきたMOD文化だが,現代におけるMOD文化について語るのであれば,「DayZ」や「PUBG」を産んだ「Arma」シリーズは避けて通れない。GDC 2021では「Arma」シリーズの開発会社であるBohemia InteractiveのLead Designer,Karel Moricky氏が,「The Pandora’s Box of Modding in ‘Arma’ Games」と題し,MODとゲームの関係について詳述した。Moricky氏は2001年(当時13歳)の頃からMOD制作者として活動し,2006年に開発者になったという筋金入りの人物だ。

Arma(Operation Flashpoint)から始まった巨大な潮流
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MOD可能なゲームに至る4つの問題点

 さて,まずは「Arma 3」というゲームについて説明したい。本作は発売されてからすでに8年が経過しているにも関わらず(そしてPC以外のプラットフォームではリリースされていない),未だに月あたりのアクティブユーザーが50万人を超えるという,大変に息の長いゲームだ。そしてこの息の長さはMODにあるとMoricky氏は語る。

 ただしMODと言っても,ものすごく大規模なMODだけがArma 3の寿命を支えているわけではない。MODには「DayZ」に代表されるような,事実上新しいゲームを成立させてしまうようなもの(トータル・コンバージョン)から,グラフィックスやサウンドの一部を少しだけ差し替える小さなものまで,大小無数に存在する。これらすべてが,Arma 3を今なお現役のゲームとし続けているのだ。

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 一方で,MODでゲームを支えていくのは,けして簡単なことではないし,むしろ「本当に大変で,挑戦的なこと」だとMoricky氏は語る。実際,少なからぬ開発会社がMODで自分たちのゲームを盛り上げることを考えるが,実際に上手くやろうとすると多くの困難に直面することになる。氏はここで,開発会社が対処すべき問題点として,以下の4点を挙げた。

・プロジェクトの構造が大変に複雑
・開発者には普通とは異なるマインドセットが必要
・ゲームの現状を制御できる限界がある
・MOD開発者がサポートを必要とする

 それぞれ内容を見てみよう。

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プロジェクトの構造

 一般的なゲーム(MOD不能であることを前提に作られたゲーム)は,独立したパーツやアセットを組み合わせて制作され,コンテンツの内容や構造は開発者が完全に制御しているため,それらを改ざんされることはない。従ってここには混乱もない。
 だがそんなゲームであっても,MODを作ろうとする人々は現れる。こういう人々は開発側のサポートがないことなど意に介さないし,「生命は必ず道を見つける」と言わんばかりに「なんとかする」ことが多い(このあたりの見解は,さすが元MOD制作者である)。だが,当然ながらそのようなMODは無秩序かつ不安定なことがしばしばだ。

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 MOD可能なゲームは最初からMOD制作者のためのAPIを用意しており,ごく自然に既存のゲームへと組み込める。そしてBohemia Interactiveではこのようなゲームのことを,プラットフォームであると認識しているという。
 またストーリーで引っ張るゲームよりも,システムが主体となったゲームであるほうが,MODを前提としたゲームには向いている。「The Elder Scroll」「Fallout」といった作品にはメインストーリーも存在するが,シナリオMOD制作者が自分のシナリオを作れるだけのしっかりした世界設定と隙間があることには,注意が必要だ。

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 また「Arma」シリーズでは,複数のMODを受け入れられる構造にもなっている。実際のところArmaの中核となるプログラムから見ると,Arma自身が持っている様々なデータ(マップ・グラフィックス・各種武器の性能など)はすべて,MODとして扱われているという。従って公式DLCもまたMODとしてArmaに組み込まれるという処理が行われている。

 興味深いのは,「MODに対するMOD」もまた存在するということだ。これらはサブMODと呼ばれ,依存関係を形成する。従ってサブMODが依存するMODが何らかの理由で存在しなくなったとき,それをどうプレイヤーに伝えるか(あるいは自動的に親MODを導入するのか)といった点にも留意が必要となる。

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 そのうえで高度な機能を果たしえるMODとして,パッチMODがある。パッチMODは既存のコンテンツ(AIやUI,武器データなど)を上書きするもので,これはトータル・コンバージョンの制作には欠かせない重要なものだ。しかしながら「既存のコンテンツを上書きする」というその性質上,複数のパッチMODを導入する場合,どれをどの順番で導入するかによって結果に差が出ることには注意が必要となる。

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 そしてここまでMOD制作者とMODに寄り添った構造でゲームを作ってもなお,「生命は必ず道を見つける」スタイルのMODが出現することはあるという。このようなMODに対しては,開発側でMOD制作者の意図を分析すると同時に,MOD制作者とプラットフォームの現状のどこに齟齬があるかを示すサインとして扱うことが必要だとMoricky氏は指摘した。

 またMoricky氏は,制作チームの意思統一も重要になると指摘した。
 「MOD制作者にとって魅力的なゲームであるためには,まずゲームプレイヤーにとって魅力的なゲームでなくてはならない」というのは,滅多に覆されない事実だ。従って「良いゲームを作ろう」という意思が,開発者の思考の中心に来ることを否定することはできない。

 だがそのように「ゲームプレイが最も大事」という開発者と,「プラットフォームとして開かれたものにすることが最も大事」という開発者は,敵対関係にあるわけではない。これは思想闘争ではなく,優先順位ないしリソース配分の問題でしかないからだ。
 むしろプラットフォームとして優れていることに力点を置く開発者は少なくて構わず,ただ彼らが残りのメンバーに対して「MOD制作者にとって便利であること」を意識させることが重要なのだと氏は語った。

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マインドセット

 続いては開発側のマインドセットの問題である。「本当にMOD可能なゲームを作るためには,制作側がMOD制作者としても思考しなくてはならない」というのがMoricky氏の主張だ。

 このことは実際のコーディングレベルでも表出する。例えば何らかのパラメータをプログラムに直接書き込んでしまうと,その数値をMOD制作者がコントロールする難度は急激に上昇する。
 またデータベース設計・UI設計においても,「ある要素は0から無限大まであり得る」と考えて設計しないと,結果として非常に使いづらい(あるいは奇妙な制限のある)機能が生まれてしまう。

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シナリオMODのロード画面。SteamWorkshopでシナリオは7万本ほど提供されているため,「読み込める上限数」を適当に設定しているとバグを吐く可能性すらある
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 また,良いゲームであることがMOD制作者にとって重要となるもう一つの理由として,開発側がリリースした「公式なゲーム」のコンテンツは,MOD制作者に対し「このプラットフォームをどう使えばいいのか・どう使い得るのか」を示すお手本にもなるという点があると氏は指摘した……が,開発側があまりにも凝ったお手本を提示してしまうと,MOD制作者はその難解そうに見える機能を無視し,自分たちでシンプルな機能を作ってしまうということもあるそうなので,難しいところだ。

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 MOD制作者のための整備をすることが,開発側にとってプラスに機能する側面もある。MOD制作者向けの各種ツールやドキュメントは,まさにこれだ。またこの手のツール自体もMOD可能にしておくことで,MOD制作者が開発者の作業環境を改善できる可能性もある。
 またゲーム内で使えるMOD用ツール(シナリオエディタなど)は,MOD制作の入り口として機能する(Armaの場合,このツールはメインメニューから直接アクセスできるようになっている)。同様のツールとしてはオンラインマルチプレイゲームをリアルタイムで「ゲームマスタリング」できるツールなどもある。

 ちなみにこのようなツールで作られるMODについて,Moricky氏は「理論上は機械学習などを駆使することで自動生成することもできるコンテンツかもしれない」と指摘しつつも,そのような自動生成とMOD制作は根底から異なるものだとも語った。というのもMOD制作それ自体はゲームを遊ぶことのひとつの形であり,「自動生成はそのゲーム体験をサポートすることはできても,置き換えることはできない」からだ。

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 ゲームそのものの提供の仕方についても,MOD可能なゲームは普通のゲームとはマインドセットを変えねばならない。
 Armaにおいて「すべてのデータは展開でき,解析できるようになっている」とMoricky氏は語る。そしてMOD制作者は開発者が完全に明かした手の内を探りつつ,自分の作りたいMODを作ったり,ときにはゲームに残るバグを修正するMODを作ったりもする。

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 ただし,プレイヤーにデータを公開する場合,いくつか気をつけるべきことがあるという。
 まず「ゲーム内で使っていないアセットをゲーム内部に残しておかない」ということ。これは将来において公開する予定があるデータ(だが現状では未公開のもの)も同様だ。さもなくば,そのようなデータを目にしたプレイヤーたちは,「何か隠し要素があるのではないか」と勘ぐり始めてしまうのである。

 他社のライセンスが絡むデータを提供してしまうのも危険だ。MOD可能ということは,そのデータを抽出して,Arma以外で使うこともできるということでもある。普通のゲームのように,権利者に許可をとってゲーム内で再現……というわけにはいかない。このためArmaでは各種ロゴなどは取り払った状態のデータにしているという。
 また,何でもかんでもすべて公開しているわけでもない。発売直後のDLCは一定期間,展開・解析が不能な状態に置かれる。Bohemia Interactiveも趣味でゲームを作っているわけではないのだから,最新のDLCをいきなり事実上の無料公開してしまうわけにはいかない。

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 最後に,各種アップデートのリリースにも注意する必要がある。
 仮に,現状ではVer1.40が最新のArma 3だとする。しかるにVer1.42がBohemia Interactiveでは開発中だ。普通のゲームなら新しいバージョンが完成したら,それをリリースするだけで話は終わりである。
 だがArmaの場合,「本体のバージョンアップに伴い,これまでのMODが使えなくなる可能性がある」というMODにつきものの問題が,ゲーム体験そのものに大きく影響し得る。もちろん,熱心なMOD制作者は新しいバージョンに自分のMODを対応させるだろうが,その修正が終わるまでの間,開発側からは予測不能なブランクが発生することは避けられない。

MODが動かなくなる時間が発生する
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 そこでBohemia InteractiveではDevelopment Branchを熱心なMOD開発者に公開し,実際のアップデートが行われる前の段階で,MODが正常に動くかどうかをチェックし,また修正できる環境を用意している。これにより新バージョンがリリースされた直後から,プレイヤーは主要なMODを問題なく使い続けることが可能となっている
 もちろんMODはあくまでMODなので,開発者が維持を放棄すればそこで死ぬことまでは変わらない。だが少なからぬMODは,大型のアップデートが適用されるまでは,問題なく利用し続けられる。いわゆる後方互換性が担保された領域があるのだ。
 となると,どのタイミングで後方互換性を振り払うような大型アップデートをかけるのか,というのも重要な問題となる。Arma 3の場合,「リリース前」「リリース後」「大型拡張セットの発売時」のタイミングでのみ,そのような大型アップデートをかけているという。

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ゲームの現状を制御する

 MOD制作者はゲームを豊かにしてくれる一方,「Bohemia Interactiveから制御できない開発者」という側面も有する。
 そして多くのMODはプレイヤーに「不完全なゲームを完璧なものにしてくれるもの」と理解されているが,実際のところMODにはMODの弱点と限界がある。
 まず多くのMODは非常にニッチな需要に対して作られる。加えて有料の商品であれば許されないくらいには,動作が不安定なことも珍しくない(MODならば許される)。また機能が複雑で,実際のプレイでどう使えばいいのか学習するのに時間がかかるMODもある。

 少なからぬMODは個々のプレイヤーの,細分化された好みを,完璧に満たしてくれるからこそ愛されているのであって,そのゲームを愛するすべてのプレイヤーの便益や体験に資するものとは限らないのだ(もちろん例外もあるが,そういった例外的MODは極めて高確率で「公式」になるのがMODの世界である)。

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 さて,しかしながらここで「制御不能」な別の側面が現れる。MODはゲーム体験を豊かにしてくれる反面,「やけに重い」「画面がカクつく」といった問題を引き起こす可能性もあるのだ。
 だがArmaのように「MODを入れずにプレイする」ことがほとんど考えられなくなっているゲームにおいては,プレイヤーはそのようなMODが引き起こす問題を,Bohemia Interactiveが放置している問題と見なし,開発会社を非難し始めることがある(これはかつて日本でも起こったことだ)。この非難は的外れなものだが,かといって発生することを防ぐのも難しい。

 この点についてMoricky氏は,「基本的にはプレイヤーを教育するしかない」という姿勢を示した。そのうえで「MODの使用は自己責任で」といった言葉を強調するよりも力を入れるべきこととして,MOD制作者の名前(ハンドルネーム)をMODとしっかりと結びつけることが重要だと語った。「誰がこれを作ったのかを明確にする」というのは,MOD制作者に対するリスペクトとしても重要だし,一方で責任の所在をはっきりさせるという点でも重要なのだ。

「MODを入れたらゲームがおかしくなりました。このゲームはバグだらけのクソゲーです」的な謎クレームはどうしても発生する
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MOD制作者を明示する
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 だがこの問題は,ここで終わらない。ArmaくらいまでMODの影響が大きいゲームだと,MODがゲーム本体の開発にまで影響を及ぼすことがあるのだ。

 Arma 3はリアルな銃撃戦を再現するFPSだが,一方で人気MODのなかにはそのテーマとはまったく違ったゲームを提供するものも多い。一般人をプレイするゲーム(消防士などをプレイする)やバトルロイヤルをはじめ,Arma 3のテイストをほとんど留めていない大型MODは珍しくない。
 そして面白いことに,「ぶっちゃけるとバニラのArma(MODを入れずにプレイするArma)は,Arma全体から見るとマイノリティだ」という。ゾンビサバイバルFPSのマイルストーンである「DayZ」が販売されたときには,冗談交じりに「DayZには無料でミリタリーFPSがついてくる!」と言われたこともあるそうだ。

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 とはいえ,ここまで大型MODのプレイヤーが増えると,Bohemia InteractiveとしてもそのMODの存在を無視できなくなる。なので「DayZ」クラスのMODになると,Bohemia InteractiveがMOD制作者と協力して,様々なバグの調査や修正を行うこともあるという。
 だが,これまた「DayZ」クラスになると,今度は「大型MODの保全をするためにマンパワーが割かれてしまい,Arma本体の整備に手が回らなくなる」ことまで起こる。本末転倒といえばそのとおりだが,「DayZ」クラスともなればさもありなんである。

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 この問題についてMoricky氏は,「開発側は,自分たちが何を作ろうとしているのかを,常に意識する必要がある」と指摘する。前述のようにBohemia InteractiveはArmaシリーズをプラットフォームとして考えているが,「このプラットフォームが何を提供するのか」が宙に浮くと,良くない結果を産むというわけだ。
 そのうえで,「自分たちが作ろうとしているものをしっかり意識しておけば,作ったものはMOD制作者を支援するようになる」とも氏は語った。例えばArma 3では赤十字国際委員会とコラボしたDLC「Laws of War」を制作したが,国際人道法への理解を深めることを目的としたこのDLCは,必然的に各種救援物資のリアルなモデルや,救急車・消防車といった車両をMOD制作者たちに提供することにもなった。

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MOD制作者をサポートする

 最後に,MOD制作者に対するサポートの難しさという点が語られた。

 まず最初に直面する困難は,前述の「制御不能な開発者」としての側面がもたらす,各種法的な問題だ。以下,箇条書きで簡単に見ていこう。

・他のゲームの素材を盗んで作られることがある
逆に自分のゲームの素材が盗まれることもあり,Arma 3の3Dモデルが勝手にほかのアセットストアなどで売られるようなことすらある

・ほかのMODを盗んで作られることがある
より厄介な問題として,先行するMODから素材などを盗んでMODが作られることもある。MODのデータをロックしてしまえば一定の解決にはなるが,MODコミュニティはあまりこの方向性を好まない

・MOD制作者の許可を得ずに,MODが別人によってアップロードされる
露骨な窃盗のこともあるが,より一般的には「MODパッケージ」がアップロードされる場合に発生する。「自分のサーバにログインするときは,このパッケージを導入してほしい」という指定がある場合,そのパッケージの中に制作者の許可を得ないMODが含まれていることがあり,これは非常に厄介な問題となる(そのようにしてパッケージ化されたMODは元のMODのアップデートが適用されないといった問題も引き起こす。またあえてアップデート前のMODを使わせたいという意図が絡むこともある)

・IPの無断利用
「DOOM」や「QUAKE」でMOD文化が花開いたころから連綿と続く問題である。ちなみにゲーム内素材のMOD利用を公式に許可しているゲームもあり,そのようなゲームの場合,素材が利用されたMODがヒットすると開発側がニュースにしたりもする

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 ちなみにこれらの問題について,Bohemia InteractiveではAPL(Arma Public Licence)というものを制定し,MODがどのような権利状態にあるかもアイコンで示せるようになっている。APLは法務文章らしく「人間向けではない文章」(Moricky氏)だが,Bohemia Interactiveは要旨を短くまとめたものも公開している。

実はArmaといえど,APL発行前は,厳密に言えばMODは「法的に見てブラック」なものだった
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 そのうえで,MOD制作者を経済的にもサポートするという試みもまた,行われている。MODコンテストがそれで,2014年に行われた「MAKE ARMA NOT WAR」と題するコンテストは,4カテゴリにわたって総額50万ユーロの賞金が用意された。
 製作期間として1年が示されたこのコンテストでは,最終的に12チームと個人が賞金を獲得するに至っているが,このうち2名は後にBohemia Interactiveの社員となり,1名はフリーランスとして契約,1名は「PUBG」の生みの親となった。

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 また2019年からは「MADE BY MODDERS, PUBLISHED BY US」をコンセプトとして,MOD制作者にMODの新しいアイデアをピッチしてもらい,認められたアイデアについてはBohemia Interactiveがパブリッシャとして開発・販売を支援するというプログラムが始まった。
 2021年現在,このプログラムからは2つのDLCが誕生しているが,現在も開発中のDLCはまだまだあるという。

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このプログラムによって発売されたDLCたち
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 講演の最後に,Moricky氏は「MODはゲームにチャンスをもたらすものだ」と改めて強調した。そのうえで最初に示した4つの問題点について,それぞれ以下のように言い換えている。

・プロジェクトの構造が大変に堅牢になる
・開発者には開かれたマインドセットが必要になる
・ゲームの現状を皆で制御するようになる
・MOD開発者にサポートしてもらう

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 すべてのゲームがArmaのようなMOD開発環境を得るべきだとは言えないが,MODがゲームをより長く楽しめるものにしてくれるのは間違いのない事実だ。また歴史的に見ても(そしてうえの講演での最後の例とMoricky氏自身が示すように),MOD制作はしばしばゲーム制作への入り口になってきた。PCゲームがなかなか市場規模を得られない日本では難しい側面もあるが,日本でももっとMOD文化が定着し,発展していくことを期待したい。

Bohemia Interactiveは新しいゲームエンジンを開発中
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Armaに提供されているMODの数々。完全に原型を留めていないものも多い
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