ハダカデバネズミというネズミをご存知ですか?
毛のない見た目だけでなく、生態や能力など、「神様、この生き物に設定盛りすぎじゃね?」と思ってしまう生き物なんです。
今回は、そんなハダカデバネズミにフォーカスします。
目次
- 見た目:キモカワ系のインパクト
- 機能:身体機能のポテンシャルがすごい
- 生活:アリやハチみたいな社会性を営む
見た目:キモカワ系のインパクト
ハダカデバネズミはアフリカのサバンナに生息しています。体長は約10〜13cmほどで、ハツカネズミと同程度。哺乳綱齧歯目デバネズミ科ハダカデバネズミ属に分類されるげっ歯類で、ハダカデバネズミ属は本種のみです。
まず見た目ですが、一度見たら忘れられないようなルックスをしています。
毛がなく小さな目
「ハダカ」という名のとおり、シワシワでピンク色の毛皮のないボディ。そしてモグラのように地下生活をする生き物なので、同様に目が小さいです。
感覚器の役割を持つ大きな歯
毛がないだけなら、スフィンクスという種類のネコなどがいますよね。しかし、ハダカデバネズミを奇妙に見せるのは、「ハダカ」に加えて非常に大きな前歯を持っていること。なんと、1週間に5mmのスピードで伸び続けるのだとか。この歯はとても敏感で、周囲を知覚する感覚器の役割があります。
なので重要な器官とはいえ、毛のないシワシワの体に小さな目、大きな出っ歯と、一般受けするルックスとは言い難いです。
機能:身体機能のポテンシャルがすごい
そんなハダカデバネズミは、驚異の能力を持っています。まるで、「異世界転生」もので見た目のステータスを犠牲に身体機能にポイント全振りしたのか?と言いたくなるほど。
30年も生きる
一般的なネズミではありえない驚異的な長さです。ハツカネズミなど多くのネズミの寿命は約2〜3年なので、普通のネズミの10倍の寿命を持っています。
老化しない
その長寿も納得なことに、老化しない唯一のほ乳類なのだとか。通常、ほ乳類は年齢が上がるにつれて死亡率が上昇しますが、ハダカデバネズミは変わりません。
生存期間のうち8割の期間は、活動量や心血管機能の低下や繁殖能力の低下のような老化の兆候も見られず、28歳を超える超高齢になってようやくその兆候が出るのだそう。
そんなハダカデバネズミは、医療分野からも人間の老化を食い止めるヒントが得られるのでは…?と、熱い視線で見られています。
がんに(ほぼ)ならない
要因は複数あると考えられていますが、がん抑制に特化した遺伝子の存在が明らかになっています。
飼育個体ではがんになった事例があるため、まったくならないわけではないですが、非常に高いがん抵抗性を持っています。
無酸素でも18分生きられる
ハダカデバネズミは空気が薄い場所だと酸素の消費をおさえるために仮死状態になります。なんとまったく酸素がない状態で、18分も生きられるそう! 再び酸素が供給されると、復活して動き出します。
ハダカデバネズミはガス交換に乏しい地下数kmにおよぶトンネルで集団生活をしています。生息密度が高く、低酸素(~8%)高二酸化炭素(>10%)の過酷な環境にしばしばおちいるため、そこに適応したゆえと考えられます。
細胞がエネルギーを作るときに通常利用するのはグルコースで、これには酸素が必要なのですが、酸素が低下するとフルクトースの利用に切り替わる特殊な代謝機能を持っているのだそう。
とても省エネ
呼吸数が少なく、体温が32度と低く、エネルギーの消費量が低い省エネな生き物です。
生活:アリやハチみたいな社会性を営む
見た目と身体機能ですでに設定を盛りすぎなのですが、そのうえハダカデバネズミは非常に珍しい「真社会性を持つほ乳類」なんです。
「真社会性」とは、繁殖能力を持つ女王と繁殖できない個体が社会生活を行う生き物の特性のこと。ハチやアリ、シロアリなどでよく知られていますよね。
階級と役割はアリと同様に「女王」「王様」「兵隊」「ワーカー」の順でピラミッド状になっています。
ワーカーの仕事
働き蜂や働きアリでも、餌を探すアリや育児するアリと役割を分担していますが、ハダカデバネズミも同様です。「餌の地下にある芋を探す係」、「育児係」、「地下通路や巣穴を拡張する係」のほか、「子どものふとんになる係(まさに肉布団!)」なんてのもあります。
兵隊の仕事
最初は全員ワーカーですが、兵隊になるものも。ただ、非常時以外はダラダラ暮らしています。ただ、そうしていられるうちが平和でいいということでしょう(『進撃の巨人』の駐屯兵団みたいに)。ヘビなどの敵がきたら真っ先に犠牲になってしまいます。
王様
アリやハチの場合は、女王とオスが集団で飛行して選ばれた1匹は交尾をすると死んでしまいます。女王はその際の精子を貯めていて使い続けますが、ほ乳類はそんなわけにはいきません。
ハダカデバネズミの場合は、女王に交尾を求められるとそれに応じるという形です。アリやハチよりも気楽なニートだなと思いきや、100匹以上の群れに対して生殖能力のある雄は1匹のため、子作りで体力を奪われてやせほそってしまうんだとか。
そのうえ、女王の座をめぐる争いに巻き込まれて、オスは死ぬことも多いそう。やはり真社会性を営む生物の王様ポジションはふびんなような。
なお、ほかの雄との競争がないため、精子の運動能力が退化しています。採取した精子をテストしたところ、7%しか動くものがなかったうえ、毎秒35マイクロメートルしか移動しませんでした。これは、ほ乳類でもっとも遅いレベル。
独占的な交配権を持っているというといいけれど、やっぱり羨ましくはないかも……。
女王
女王は子どもを生むのが役目ですが、アリやハチの女王よりも過酷かもしれません。たえず女王の座を他のメスに狙われる気の抜けない生活です。動き回って巣穴を見張り、自分の力が上であることを示すのだそう。
ハチの場合は、働きバチにとって女王の生んだ子どもの方が自身が生むよりも自分に遺伝子が近いので従うメリットがあるとされますが、ハダカデバネズミのワーカーすきあらば下剋上、のようです。
なお、ワーカーのハダカデバネズミは女王のフェロモンにより、排卵がとまって一時的に子どもが作れない状態ですが、女王がいなくなると生殖能力が復活します。
そんなハダカデバネズミたちのコロニーは、大きなものでは300匹くらいの大規模なもの。壮大な社会生活が営まれています。
さて、とにかく盛りだくさんでした。可愛さでポピュラーにはなり難いですが、とても魅力のある生き物ではないでしょうか。ここまでくると、もうひとつやふたつ、新たなユニークな能力の発見があっても驚きませんよね。これからもハダカデバネズミに注目です。
参考文献
ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9423.php
JBS
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880071/data/index.html
CNN
https://www.cnn.co.jp/fringe/35100615-2.html
積水化学
https://www.sekisui.co.jp/csr/sustainability_products/contribution/nextgen/bio_mimetics/1239633_27856.html
元論文
eLife
https://elifesciences.org/articles/31157