もっと詳しく

消費者側と比べると、企業側の取材はなんだか退屈だという間違った印象を持たれがちだが、これまで数十年にわたってこの分野を追いかけてきた筆者からすると、これほど真実から遠く離れたものはないと断言できる。

理由の1つは、金額が大きいということだ。例えば、Oracle(オラクル)はCerner(サーナー)を280億ドル(約3兆2200億円)で買収すると米国時間12月20日に発表してヘルスケア業界を揺るがした。UiPath(ユーアイパス)は無名のスタートアップから、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の絶対的な存在にまで成長した。上場後に少し下落したが、2021年初めには350億ドル(約4兆円)のバリュエーションがついた。

策謀もある。例えば、アクティビスト投資家が、企業が通常なら好まないような動きを強いる試みや、2021年にBox(ボックス)で見られたような取締役会の主導権争いなどだ。

ドラマもある。100億ドル(約1兆1500億円)規模の国防総省のJEDIクラウド契約をめぐる、世界最大の企業向けクラウドインフラ企業同士の3年にわたる戦いがその例だ。この調達プロセスでは、訴訟、度重なる審査、大統領の干渉などあらゆることが起こった。

つまり、企業の話題は多い。が、つまらないだろうか。決してそんなことはないと思う。2021年も例外ではなかった。そこで、2021年の締めくくりに、企業を揺るがした5つのストーリーを紹介する。12カ月にわたるニュースを5大ストーリーに絞り込むのは難しいが、筆者が選んだのは以下の5つだ。

アマゾンのベゾス、ジャシー、セリプスキーのイス取りゲーム

2021年最大のニュースは、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏がCEOから退き、会長職に就くと決意したことだろう。Amazon(アマゾン)はeコマース企業で、必ずしも筆者の担当範囲ではなく、このこと自体は企業に大きな影響を与えるものではなかったが、その後に起こったことがある。

ベゾス氏が発表した2月のその日に、後任にAmazon Web Services(アマゾンウェブサービス)のCEO、Andy Jassy(アンディ・ジャシー)氏を選んだことも明らかになった。ジャシー氏は、Amazonのクラウドインフラ事業を巨大なビジネスに育て上げ、直近の四半期で年換算売上高640億ドル(約7兆3600億円)を突破させた人物だ。

ジャシー氏の後任探しは簡単ではなかったが、旧知の人間に目をつけ、Tableau(タブロー)のCEO、Adam Selipsky(アダム・セリプスキー)氏を後任として雇った。同氏はAWSの創業時から2016年まで在籍していたが、Tableau移籍時に退職した。今は列車を走らせ続けることが仕事だ。同氏には勢いがあるが、競争はますます激しくなっている。セリプスキー氏のリーダーシップの下、2022年どうなるかは注目されるところだ。

Salesforceブレット・テイラー氏、絶好調の1週間

もう1つの話題は、Salesforce(セールスフォース)幹部のBret Taylor(ブレット・テイラー)氏が、11月末の同じ週に2つの大きなポジションを手に入れ同氏にとってかなり甘い1週間となったことだ。まず、Twitter(ツイッター)の取締役会長に就任した。それだけでは物足りなかったようで、Salesforceの共同CEOにも就任した。2016年に自身の会社であるQuip(クイップ)が7億5000万ドル(約860億円)でSalesforceに買収されて以来、同社で急速に出世した。

Twitterでは長年CEOを務めたJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が退任し、Parag Agrawal(パラグ・アグラワル)氏が就任するという騒ぎがあった。その一方で、テイラー氏がCRM大手の共同CEOに就任したことは、企業という視点からは明らかにより大きなニュースだった。The Informationは、テイラー氏が引き続きSalesforceの共同創業者で会長兼共同CEOのMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏に報告すると報じた。テイラー氏はこの昇進により、もし2021年初めのベゾス氏と同様にベニオフ氏が会長職に退くと決めれば、ベニオフ氏の後継者になる可能性が出てきた。2022年に考慮すべきもう1つのストーリーは、Salesforceが2016年に検討し、その後立ち消えになったTwitter買収を再検討するかどうかだ。

BoxとStarboard Valueの委任状争奪戦

Boxは、アクティビストファンドであるStarboard Value(スターボードバリュー)による取締役会乗っ取りの試みを退けた。この動きは、共同創業者でCEOのAaron Levie(アーロン・レビー)氏の解任、会社の売却、またはその両方をもたらす可能性が高いものだった。数カ月にわたるドラマは最高潮に達し、2021年の主要な企業ニュースとなった。

アクティビストファンドであるStarboard Valueは、2019年にクラウドコンテンツ管理会社であるBoxの株式を7.5%取得し、その後8.8%にまで増やし、同社に対しかなりの影響力をもつことになった。しばらくは静観していたが、2020年、意を決し、取締役会を引き継ぎたいとBoxに通告し、委任状争奪戦が繰り広げられた。

この間、BoxはKKRから5億ドル(約575億円)の出資を受け、Starboardをさらに怒らせた。また、Starboardの役員候補に対抗する文書をSECに提出し、議決権保有者が最新の業績を見ることができるよう決算報告を早めに発表した。幸運にも、同社はStarboardが動いた後、2四半期連続で好成績を収め、委任状争奪戦にあっさり勝利し、今のところ現状を維持している。2022年に何が起こるか。筆者が書いたように、おそらくBoxが大胆な行動を起こす時が来た。KKRの資金の一部を使って隣接する機能を買収するのではないか。

国防総省がJEDIを廃止し、新たなクラウド構想を発表

100億ドル(約1兆1500億円)の10年にわたるJEDIクラウド契約は、2018年に発表されたその日から、ドラマに満ちていた。その間、筆者は関連する記事を30本以上書いていたので、2021年ついに国防総省がそれを潰すと決めたときは、大きなニュースだった。

当初から、これまでの常識では、Amazonが勝つための契約だと言われてきた。RFP(事業者公募書類)がAmazonを意識して書かれているという不満もあったが、最終的に契約を獲得したのはMicrosoft(マイクロソフト)だった。だがAmazonは、前大統領がWashington Post(ワシントンポスト)紙のオーナーでもあるAmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏を個人的に嫌っていたため、調達プロセスに直接介入してきたとして、裁判に訴えた。また、Amazonは、実力では自社が勝つとも主張した。

Amazonは2020年2月、このプロジェクトを保留にするよう判事を説得することに成功した。プロジェクトが再開されることはなく、国防総省は7月に新しいプロジェクトに移行することを決めた。また、2018年から技術が変わったとし(これは事実)、新しい構想ではJEDIで追求した勝者総取り方式ではなく、マルチベンダー方式で進めることを賢明にも決定した。

DellがVMwareをスピンアウト

2015年にDell(デル)がEMCを670億ドル(約7兆7000億円、後に580億ドル[約6兆6700億円]に修正)で買収したとき、それはテック史上最大の取引であり、長年にわたって追いかけて書くべき、もう1つの凄い話だった。VMware(ヴィエムウェア)はこの取引で最も価値ある資産であったため、筆者のような企業記者たちは、Dellがそれをどうするつもりなのか、目を光らせていた。しかし、2021年の初め、Dellが90億ドル(約1兆350億円)規模のスピンアウトを発表し、大きな話題となった。

EMC買収による多額の影響がまだ帳簿に残っていることを考えると、少し小さい金額のような気もした。来年はどうなるのだろうか。Dellから解放されたVMwareをどこかが買収する可能性はあるのだろうか。Dellは依然として大株主であり、EMC買収にともなう負債残高もまだ多額にのぼるため、2022年には間違いなく注目される存在になるはずだ。

5つだけ選ぶのは難しい。どうしても価値あるストーリーを外してしまう。あなたなら何を選ぶだろうか。コメントで教えて欲しい。

画像クレジット:EschCollection / Getty Images

原文へ

(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi