ボストンカレッジ(BC)とフロリダ州立大学、テキサス大学ダラス校の共同研究チームが、金属系超電導体NbGe2において、電子とフォノン(格子振動量子)の強い相互作用により、電子運動が格子振動によって散乱されず、電子とフォノンの合計運動量が保存される流体力学的な運動に変わることを発見した。配管中の水の流れに似た、このような電子とフォノンの結合による流体的挙動は以前から予想されていたが、それを先端的な計測手法を用いて実証したものだ。極めて基礎的な発見であるが、将来世代の電子デバイスに発展する可能性が期待されている。研究成果が、2021年9月6日に『Nature Communications』誌に論文発表されている。
配管中の水の流れと、電線中の電子の流れは、一見類似しているように思えるが、実際の挙動は全く異なるものだ。水の流れは個別的な水分子として流れるのではなく、連続体として流体力学の法則に従って流れる。一方で、電子はあくまでも個別的な粒子として流れ、格子振動に基づくフォノンによって散乱されながら金属中を拡散する。
その一方で、電子とフォノンが強い相互作用によって運動量を頻繁に交換する際、その合計運動量が一定に保存される可能性があり、その場合には電子運動がフォノンによって散乱されず、「電子-フォノン結合液体(coupled electron-phonon liquid)」として、流体力学の法則に従う連続体として流れることが予想されていた。
金属系超電導体では、2つの電子がフォノンを媒介として引き合うクーパー対によって、超伝導が発現されていることが知られている。研究チームは金属系超電導体NbGe2を研究する過程で、電子とフォノンの強い相互作用によって、電子輸送が典型的な粒子のような拡散的な運動から、流体力学的な運動へと変わることを発見した。これは「電子-フォノン結合による液体」の最初の発見だ、とBCのFazel Tafti助教授は語る。
チームは幾つかの最新実験手法を用いて、この特異な電子運動に関する発見を実証した。量子振動測定と呼ばれる先端的手法により、材料における電子の「見かけの質量」を把握し、予想よりも3倍大きいことを明らかにした。「このようなシンプルな金属において、“重い電子”を予想してなかったので、本当に驚くべきこと。電子-フォノンの強い相互作用が、その原因だ」と、研究チームは説明する。また、ラマン散乱によって、フォノンの線幅の変化を調べ、電子-フォノンの相互作用をベースとしたモデルで説明できることも示した。
研究チームの次の目標は、電子の流体力学的な流れを実現する方法を明確にし、材料設計原理を確立して、NbGe2以外の他の金属においても同様な特性を創出することだ。これにより、電子が流体のように動く電子デバイスという将来技術に展開できることを期待している。
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