[香港 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 2017年、小さな人工衛星を所有する「宇宙国家」アスガルディアは香港で、国民募集のキャンペーンに乗り出した。この国家のレナ・デ・ウィネ首相は当時Breakingviewsに対し、中国からの関心の高さに驚いて香港でイベントを開くことにしたと説明した。会合には大勢の人々が詰めかけ、デ・ウィネ首相は、暗号資産(仮想通貨)から地球外文明に関する自身の政策(彼女は積極関与派だ)に至るまで、聴衆と熱い対話を繰り広げた。現在、アスガルディアの最高判事を務めるのは中国の弁護士だ。
中国の都会の画一的で息苦しい生活に不満を抱いた若者は、SFや、空想世界でのロールプレイイングゲームへと飛び込んでいる。火星への移住希望者の募集には、1万3000人を超える応募があった。
中国は世界最大のビデオゲーム市場で、昨年の総売上高は推計460億ドル(5兆2400億円)に上る。電子商取引大手アリババや中小の同業他社は今、次世代の若者はアバター(分身)姿で地元発のメタバース(巨大仮想現実空間)に身を投じると読み、この分野への進出を計画している。
メタバース関連株のバブルはすさまじい。深セン市場に上場しているZQゲーム(中青宝互動網絡)はメタバース・ゲームを展開すると発表し、年初から株価が300%も上昇した。同様に、インマイショー・デジタル・テクノロジー(天下秀数字科技)は「ホンバース」なるものを開発中と発表して以来、株価が高騰した。仮想現実(VR)用のヘッドセットやクラウドサービス企業の株価も上昇している。
しかし中国政府は国内でのメタバース拡大を厳しく抑制するだろう。証券取引所の幹部らはZQゲームとインマイショーを調査しており、国営メディアも厳しい論調だ。
当局は既に、若者の間で広がる「寝そべり主義」叩きに忙しい。これは、出世競争から降りて頑張らない生き方をしようと諭す哲学だ。若者たちがVRヘッドセットを着けて仮想空間に逃避してしまうといった光景を、当局は最も警戒している。
しかもメタバースでは、中国政府が禁じている暗号資産が使われる。政府はバブルを招きやすい「非代替性トークン(NFT)」などの仮想資産も禁じている。モバイルゲームやオンラインビデオと異なり、こうしたプラットフォームはその性質からして監視と検閲が難しい。
海外で市場が発展すれば、メタバース関連の商品・サービスを輸出する企業はうまくいくかもしれない。しかし規制による制約を考えた場合、投資家は中国の仮想ファンタジーの夢にひたるのではなく、政治の現実を見据えるべきだ。
●背景となるニュース
*15日付の香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、アリババはメタバース専門の企業を登録した。ネット大手の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)とネット検索大手の百度(バイドゥ)も、メタバースを意味する中国の単語を含む商品名を商標登録申請したと、同紙は伝えている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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