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<欧州スーパーリーグを潰すことに成功した金満組織UEFAだが、自身の利益よりファンとクラブのために真剣に議論すべき時が来た> 欧州最強の文化的輸出品は何か。それはワインでもチーズでもない。世界で最も愛されるスポーツであるサッカーだ。 欧州のクラブチーム王者の座を争うチャンピオンズリーグ(CL)の決勝は、世界で約4億人がテレビ観戦する。アメリカンフットボール、NFLの優勝決定戦であるスーパーボウルの実に4倍だ。 ところが、これほどグローバルな成功を収めているのに、欧州サッカーは欧州経済と同様の問題に直面している。融通の利かない規制によって、企業と消費者の利益が損なわれている──サッカーの場合は、クラブとファンの利益だ。 それを象徴する出来事が、今年4月にあった。欧州各国で人気の高い12クラブが「欧州スーパーリーグ」の創設を発表したときのことだ。 CLに実質的に取って代わる大会という位置付けだけに、UEFA(欧州サッカー連盟)はこれを阻止する動きに出た。これに対してスペインの裁判所は4月に続いて7月1日にも、スーパーリーグ創設を邪魔しようとするUEFAの試みを認めないという判断を示している。 わずか48時間で頓挫した構想 しかしスーパーリーグ構想は発表直後に、欧州各国のサポーターや政界からの猛反発で頓挫していた。なかでも問題となったのが、創設に関わった12クラブを含む15クラブは、永続的に入れ替わることなく大会に参加できるという方針だった。 発表から最初のクラブが離脱を表明するまで、わずか48時間。この間にUEFAは、欧州サッカーの「守護者」であることを見せつけた。 確かにスーパーリーグ構想は穴だらけだった。だが各方面から一斉に反対されたからといって、重要な議論の場までつぶすべきではない。欧州サッカーには課題が山積している。特にUEFAについては、全面改革への真剣な議論が必要だ。 UEFAは度を越した金満組織だ。この10 年間、着実に収入を増やしている。とりわけ今シーズンは、コロナ禍のために1年遅れで開催された欧州選手権の売り上げを含めて、59億ドル近い収益が見込まれる。 だが金儲け以外の点で、UEFAが欧州サッカーを統括する手法はあまりにお粗末。その理由は、UEFAが2つの顔を持っていることだ。 UEFAの表向きの使命は、欧州サッカーの利益を守ること。だが一方で、この組織は世界でも指折りのイベントプロモーターだ。世界有数の人気スポーツイベントから収入を得て、自らの判断で分配できる。 ===== アーセナル(イングランド)が欧州スーパーリーグに創設メンバーとして参加を表明すると、サポーターが激怒して抗議運動を展開 LEON NEAL/GETTY IMAGES このUEFAのどちらの顔を前にしても、最も割を食っているのはファンとクラブだ。どちらも、名目上は自分たちのために運営されている組織に対して発言権を持っていない。かといってUEFAを信頼できないと分かったとしても、他の組織を選び取ることはできない。 ファンやクラブより、自らの利益を優先するUEFAの体質がよく表れたのは2015年のスキャンダルだ。UEFAとFIFA(国際サッカー連盟)の幹部が絡む大規模な汚職が明らかになり、それぞれの会長に長期の活動停止処分が下った。 欧州サッカーが抱える別の大きな問題は、多くの国内リーグが「寡占」状態に陥っていること。フランス、イタリア、ドイツの1部リーグでは過去10年間、資金の豊富な特定のチームがほぼ毎年のように優勝している。イタリアではユベントスが10年で9回、ドイツでもバイエルンが9回、フランスではパリ・サンジェルマンが7回の優勝を果たした。 スペインでは、バルセロナとレアル・マドリードの2強状態が長く続いている。欧州規模の大会でも事情は同じ。05年以降、CLの決勝に進出しているのは、欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)のクラブに限られている。 悪化するばかりの過密日程 このように結果が容易に予測できる試合には意味がない。選手もファンも監督も、そういう試合が多過ぎると感じている。 しかしUEFAにとっては、収益を上げる全てのチャンスに価値がある。過密日程の問題は、コロナ禍による試合延期などが増えたことで、さらに悪化している。 過密な日程は選手に深刻な影響を及ぼしかねない。先頃行われた欧州選手権では、デンマーク代表のクリスティアン・エリクセンが試合中に心不全で倒れた。通常のシーズンならエリクセンの出場試合数は約50だが、このフィンランド戦は彼にとって過去1年間で66試合目だった。 欧州選手権の開幕前には、イングランドの強豪マンチェスター・シティーのジョゼップ・グアルディオラ監督が過密日程を批判。「UEFAとFIFAは選手たちを殺そうとしている」と不満をあらわにした。 UEFAは改革の目玉として、クラブに赤字経営を禁じるファイナンシャル・フェアプレー(FFP)規則を導入した。クラブが金の力で強い選手を集めて債務を抱え、財政破綻するのを防ぐことが目的だ。 ===== クラブ格差を固定する改革 だが実際には、FFPはクラブの間の競争を抑制している。イングランドの強豪マンチェスター・ユナイテッドの収益は、リーグ中堅クラブの3倍以上だ。欧州の他の国内リーグでは、さらに格差が大きい。FFPは「フェア」どころか、チーム力の格差を固定する方向に働いている。 スーパーリーグ構想をめぐる失態を受けて、英政府はプロサッカーの運営について調査を開始。独立した監督機関の設置を検討すると約束した。監督機関やクラブには、スーパーリーグ騒動を教訓にして意義ある改革を行うことが期待されている。 ファンや選手が望むのは、もっと意味のある試合だ。それを増やすには、大会の質を高め、拝金主義を改め、過密日程を緩和しなくてはならない。例えばUEFAは、CLのグループリーグ出場枠を現在の32チームから、2024-25シーズンには36チームに拡大すると発表している。 この改革によって、より多くのクラブに上位を狙うチャンスが生まれ、出場機会に恵まれなかった国のリーグにもチャンスが与えられる。試合数が増えて収益も増えるから、UEFAにとってはいいことずくめだ。しかしファンや選手が望んでいるのは、全体の試合数は抑えつつ、人気クラブ同士の試合や、意味のある試合を増やすことだ。 これらの目標を達成できる方法が2つある。1つはCLの決勝トーナメントに進むチームを決めるグループリーグの試合数を減らし、決勝トーナメントの試合数を増やす。UEFAが打ち出した方向性とは真逆だが、これで選手たちに過度な負担をかけることなく、より意味のある試合を増やすことができる。 もう1つは欧州5大リーグからより多くのチームがグループリーグに参加できるようにすること。サッカー小国のチームが競うチャンスをつぶさずに、強豪同士の対決を見たいというファンの願いをかなえることができる。 これらの改革は大会の質を向上させ、選手の健康を守り、クラブに利益をもたらすものになる。欧州サッカーの未来を担う組織にこの課題がこなせないなら、立場が危うくなってもおかしくない。