津波の多くは地震による海底の地殻変動で発生します。
そのため地震大国である日本に住む私たちは、津波警報に従うことの重要性をよく認識しているでしょう。
津波予測がより正確で素早ければ、それだけで多くの人の命が助かるとも言えます。
そして最近、京都大学理学研究科に所属する藤 浩明(トウ ヒロアキ)氏ら研究チームは、津波が作った磁場を観測して、波の高さ(波高)を高精度で予測できると発表しました。
研究の詳細は11月9日付の国際学術誌『Journal of Geophysical Research: Solid Earth』に掲載されました。
目次
- より正確な津波予測は可能か?
- 津波によって発生した磁場から波の高さを素早く予測する
より正確な津波予測は可能か?
地震発生時は、素早く津波予報が報道されますが、あれは「どうやって予報出しているのだろう?」と疑問に思ったことはないでしょうか?
日本の気象庁によると、現在の津波予測には津波予報データベースが利用されています。
あらかじめシミュレーションした結果をデータベースに保存・蓄積しておき、地震が発生したのちに、地震の位置や規模をもとにデータベースから予測結果を検索するのです。
その際、津波の高さも計算され、私たちに津波警報として伝えられます。
つまり実際に発生した津波を、検出・測定しているというわけではないのです。
もちろん、実際に発生した津波波高を直接観測するなら、より正確な警報を伝えられるでしょう。
しかしそれでは避難する時間がありません。
では津波波高を直接観測する以外の方法で、従来のシミュレーション予測よりも正確に津波の高さを知ることはできないのでしょうか?
これまでの研究によって、その可能性が見出されてきました。
2004年に発生したインド洋大津波をきっかけに「津波は自然電磁場を伴うのではないか」という理論的予測が提出されたのです。
そして2011年、藤氏ら研究チームは、世界で初めて「津波が観測可能な磁場を伴う」ことを海底観測により実証しました。
津波によって発生する磁場を観測するなら、津波の高さなどの情報を取得できるかもしれません。
しかし当時は磁場と津波波高の同時データが得られず、実際に磁場を津波予測に役立てられるか不明だったようです。
今回の新しい研究では、観測された磁場と津波波高を直接比較することに成功しました。
津波によって発生した磁場から波の高さを素早く予測する
新しい研究では、南太平洋のタヒチ周辺で観測された海底磁場と津波波高の同時データに着目し、その関係性を解析しました。
その結果、津波に伴う磁場変化は津波そのものよりも早く現れると判明。
そしてこの磁場から高精度で津波の高さを予測できると分かりました。
そこで実際に津波で発生した海底磁場による予測結果と、津波波高を実測したデータを比較したところ、非常に良く一致したのです。
さらに津波の発生源から数千km離れた場所でも、磁場の検出が可能であると分かりました。
つまり海底で観測される磁場をモニターしていれば、津波の到来をいち早く検出でき、津波の高さも磁場の観測値から直接推定できるのです。
今後は海底磁場の観測所を増やすことで、より正確で素早い津波予測が可能になるかもしれません。
従来の津波警報との違いはわずか1分程度かもしれませんが、それで多くの命が助かるなら、この研究に力を注ぐ価値は十分にあるでしょう。
磁場による津波予測の実装に期待したいものです。
参考文献
津波が作った磁場から波高がわかる -海底で観測された磁場と津波波高の直接比較-
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-12-23-0
Tsunamis’ Magnetic Fields Can Be Detected Before Sea Levels Change
https://www.sciencealert.com/tsunamis-magnetic-fields-could-give-us-crucial-early-warnings-before-sea-level-rises
元論文
Direct Comparison of the Tsunami-Generated Magnetic Field With Sea Level Change for the 2009 Samoa and 2010 Chile Tsunamis
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021JB022760