人間は指先を巧みに動かして、触った対象の形や大きさ、柔らかさなどを知ることができます。
こうした能力は指を器用に使えない動物たちでも、どこかに隠されているのでしょうか?
最近、イギリスのマンチェスター・メトロポリタン大学(Manchester Metropolitan University)理工学部に所属するロビン・グラント氏ら研究チームは、アシカが自分のヒゲを人間の指先のように動かせると発表。
アシカは必要な作業に応じてヒゲの使い方を変えることができるのです。
研究の詳細は、11月5日付の科学誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されました。
目次
- 哺乳類のヒゲには触覚の役割がある
- アシカは作業に応じてヒゲの動かし方を変更する
哺乳類のヒゲには触覚の役割がある
人間の指先は、触覚として優れた機能をもっています。
単に物が触れたかどうか判断するだけでなく、入手したい情報に応じて動きを変えることができます。
例えば、大きさや形を判断したいときには、指全体を使って対象物のアウトラインをなぞるように動かすでしょう。
また弾力や硬さを調べたいときには、1本の指で強く推してみたり、手のひら全体で握ってみたりします。
では人間と同じ哺乳類であれば、同様の優れた機能をもっているのでしょうか?
これまでの研究では、哺乳類のヒゲが触覚としての役割を果たすと分かっています。
マウスなどの哺乳類は人間ほど巧みに指先を動かしたり情報を感じ取ったりできませんが、顔のヒゲが近い働きをしてくれるのです。
そしてヒゲを使う方法も、いくらかバリエーションがあります。
例えばマウスは、ヒゲを束ねて接触部位を増やしたり、対象に軽く接触させることでより明確な信号を感知したりするのです。
では触覚としてのヒゲは、どれほど応用力があるのでしょうか?
人間の指先レベルで、「ヒゲの使い方」を変化させられるのでしょうか?
これらの疑問に答えるため、グラント氏はアシカのヒゲで研究を行うことにしました。
アシカは作業に応じてヒゲの動かし方を変更する
研究対象にアシカが選ばれたのは、彼らのヒゲがマウスなどの小型哺乳類に比べて太くて長く、計測しやすいというメリットがあったからです。
さらにアシカやアザラシ、セイウチなどの鰭脚類(ききゃくるい)は、哺乳類の中でも最も敏感なヒゲをもっています。
そして今回の研究では、目隠しをした1頭のアシカに「3つのサンプルから指定した魚のおもちゃを見つける」という課題を与えました。
例えばアシカは、大中小のサイズからヒゲを使って中サイズを選ぶよう求められました。
また別のケースでは、おもちゃの鱗サイズが大中小で分けられたもの(つまり表面の質感が異なっているもの)が提供され、そこから中サイズの鱗のおもちゃを選ぶよう求められています。
そしてこれらの課題を何千回と繰り返し、ヒゲと頭の動きをビデオで追跡しました。
その結果、それぞれの課題に特化したヒゲの動きが観察されました。
大きさを判断する課題では、おもちゃのアウトラインをなぞるようにヒゲを動かしており、表面の質感を判断する課題では、ヒゲで表面を掃くような動きを見せたのです。
このように、与えられた課題ごとにヒゲの動かし方を変えることで、効率的な情報収集が可能になります。
その結果、アシカはほぼすべてのテストで正しい魚のおもちゃを発見でき、その判断も0.5秒以内だったとのこと。
今回の研究結果から、アシカのヒゲは人間の指先と同じレベルで動かせると分かりました。
現在チームは、カワウソなどの他の哺乳類にも同様の能力があるか調査しています。
参考文献
Sea lion whiskers can move like human fingertips: here’s how we found out
https://theconversation.com/sea-lion-whiskers-can-move-like-human-fingertips-heres-how-we-found-out-172471
元論文
California sea lions employ task-specific strategies for active touch sensing
https://journals.biologists.com/jeb/article/224/21/jeb243085/273347/California-sea-lions-employ-task-specific