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<英国で行われた調査で森林のそばに住む子どもの方が、草原や川のそばに住んでいる子どもと比べ、認知力が発達することがわかった> 3500人以上を対象にした大規模調査 森林のそばに住む子どもの方が、草原や川のそばに住んでいる子どもと比べ、認知力が発達し、メンタルヘルスや全体的な心身の健やかさが良い状態にあることが、英国で行われた調査で明らかになった。調査結果は、英国の科学誌ネイチャー・サステナビリティ(電子版)に掲載されている。 この類では最大級とみられる今回の調査を行ったのは、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)などの研究者ら。ロンドン全域にある31校に通う9~15歳の生徒3568人を対象に調べた。ICLによるとこの年齢は、思考や推論、さらには世の中を理解する能力の発達に重要な時期となる。 調査では、SCAMP(認知・青年期・携帯電話に関する研究)と呼ばれる、ICLが行う大規模コホート研究の2014~2018年のデータセットを分析した。SCAMPは、携帯電話などのテクノロジーの使用が、子どもの認知や行動の発達にどのような影響を及ぼすかを調べる目的で、ロンドンの中等学校(日本の中学・高校に相当)に通う生徒を3年間にわたり追跡調査している。 研究者らは、環境をグリーン(草原)、グリーン(森林)、ブルー(川、湖、海)の3つに分類。さらに、サテライト・データを使って、生徒たちの自宅と学校の周囲に広がる環境を調べた。そこから、生徒たちが日常的に、これらの環境にどれだけ触れているかを算出した。 生徒のメンタルヘルスと全体的な心身の健やかさについては、自己報告形式のアンケートを使用した。 生徒の年齢、民族、性別、両親の職業、通っている学校のタイプ(私立・公立)などの説明変数(因果関係の原因となる変数)を調整。その結果、日常的に森林に触れる頻度が高いグリーン(森林)の生徒の方が、そうでない生徒と比べ、認知力の発達を示すスコアが高かった。一方で、グリーン(森林)の生徒が2年後に情緒面や行動面で問題を起こすリスクは、16%低かった。 認知力の発達に関しては、グリーン(草原)に分類された地域の生徒もある程度高いスコアを獲得したが、ブルーに分類された地域の生徒たちにはこうした傾向は見られなかった。 都市計画の際に考慮すべき 今回の調査の共同上席著者であるICLのミレーレ・トレダノ教授は、自然環境のメンタルヘルスへの影響力の大きさは、家族歴(親族や家族の既往歴)や親の年齢と同程度であり、さらには周囲の都市化の度合いよりも大きいことが、過去の研究でも示されてきたと指摘。自然環境がなぜここまで人間のメンタルヘルスに重要であるかを解明していくことが、非常に重要だと述べている。 ===== ただし、木に囲まれることで得られる恩恵が、こうした環境の中で身体を動かすことから来るものなのか、こうした環境下で多くなされる、人とのやり取りから来るものなのか、森林の中で豊富な動植物に触れることから来るものなのか、あるいはこうしたすべての組み合わせなのかは、今のところ不明だとしている。 もう1人の共同上席著者であるUCLのケイト・ジョーンズ教授は、1つの可能性として、森林の中で豊富な動植物に囲まれ、視聴覚的に自然に触れられることで、心理的な恩恵が得られる可能性を挙げた。とはいえ同教授は、自然環境と人間の健康の関係を理解するには、さらなる調査が必要だとしている。 主執筆者であるミカエル・マーズ氏は、今回の調査結果について、どの自然環境でも同じように健康への恩恵があるわけではないことを示唆していると述べた。そのため研究チームは、都市計画の際には、認知力の発達やメンタルヘルスに最大限の恩恵を与えられるよう、どういったタイプの自然環境を取り入れるかを慎重に考慮すべきだとしている。 なお、今回のデータは、生徒の学校や自宅とその環境について、地図上のデータを使用したため、実際に森林や草原、川や湖などが子どもたちにどれだけアクセスしやすいかなどは考慮されていないという。