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今回はサンフランシスコからお届けしよう。ルーカスフィルムの一部門であるLucasfilm Animation Ltd.は、主にディズニーのストリーミングサービス、Disney+(ディズニープラス)向けのシリーズアニメーションを制作している。同社で3Dストーリーボードアーティスト(プリビズアーティスト)として活躍中の香月須美子氏に話を聞いてみた。

TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE

Artist’s Profile

香月須美子 / Sumiko Katsuki(Lucasfilm Animation Ltd. / 3D Storyboard Artist / Previs Artist)

大阪府出身。大阪芸術大学芸術学部美術学科を卒業後、日本テレビアートに新卒で入社。CGデザイナーとしてキャリアをスタート。スクウェア・エニックス(ヴィジュアルワークス)を経て、レイアウト/プリビズアーティストとしてポリゴン・ピクチュアズ、SOLA DIGITAL ARTSなど各社プロジェクトを渡り歩く。その後、カナダ・バンクーバーにあるImage Engine Design Inc.での採用が足がかりになり北米へ。Animal Logic、Telltale Gamesなどを経て、現在はサンフランシスコにあるLucasfilm Animation Ltd.に在籍。

<1>「海外で働きたい」と憧れつつも行動に移せず……


――日本での学生時代のお話をお聞かせください。

大学時代は美術学科で、油彩で抽象画や針金を使った造形物などのアナログ作品を作っていました。同時にデジタルで絵を描くことにも興味をもち、コンピュータアート(当時、出身校ではそう呼ばれていました)も専攻可能な「何でも自分のやりたいことをやって良い」という気風のゼミを選び、気の向くままアナログ&デジタルの両方を制作していました。この時点ではアニメーションや3Dではなく2Dの静止画作品を作っていました。


――日本でお仕事をされていた頃のお話をお聞かせください。

大学卒業と共に新卒入社した日本テレビのアート全般を担う日本テレビアートから、日本テレビ局内のCG室勤務に配属されたのですが一度も3Dソフトを使ったことがなく、先輩や同僚に仕事の合間に教えていただきながら3Dツールを習得しました。1年目はテレビ局らしいお仕事(タイトルバック、バーチャルセット、図解CG、天気グラフィック出しなど)を担当していましたが、2年目以降からCGアニメーションコンテンツを制作するチームに配属。これをきっかけにCGアニメーションの面白さを知ることに。「どうしたらPIXAR作品のような素晴らしいCGアニメーションを生み出すことができるんだろう」と考えるようになり、海外就労に憧れを抱き始めました。

また、当時外注していたテレビシリーズの監修のため台湾のCGCG Inc.に数ヶ月ほど出張した経験が、「海外生活は面白い」と思うきっかけの1つになりました。「海外で就労するためには、まずは留学だろう!」と考えたのですが、狭き門をくぐっての正社員。安定した生活を捨てる勇気も自信もなく、行動に移すことはできませんでした。

そんなある日、配属されていたチーム(アニメ班)が解散。レギュラーなテレビのお仕事に戻ったのですが、やはりCGアニメーションの仕事がしたいという気持ちが残り、自分の気持ちを確かめるため休暇を取ってサンフランシスコに留学先の下見に行き、PIXARに見学に行ったんです。憧れの世界を目の当たりにして現状維持に終止符を打つ決心をし、帰国後に即辞表を出しました。そして、初めて海外のいくつかの企業にレジュメとリールを送ってみたのですが何の反応もなく、「やはり留学!」と思ったのですが勇気が出ず……。結局、国内の会社、スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークス部(現・スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部)で働き始めることになったのです。

ヴィジュアルワークスでは細かく分業化されていたので、そこで「レイアウト」という名のポジションに出会いました(当時、プリビズという言葉は聞いたことがありませんでした)。そして同社を退社後、レイアウトアーティストとして国内のCGプロダクションをプロジェクト単位で参加して回るように。いろんな会社の仕事をすることで徐々にレジュメもリールも充実していき、中でもポリゴン・ピクチュアズSOLA DIGITAL ARTSで参加させていただいた作品は、海外の会社にアプライした際、興味をもってもらえることが多かったです。


――海外の映像業界での就活はいかがでしたか?

留学などで海外に行く勇気が出ず、自分の中の「海外に行きたいブーム」が盛り上がったときに、時々日本から応募していました。数をこなすうちに徐々に反応をもらえるようになりオンライン面談まで行くのですが、英語が下手すぎたことあってなのか惨敗していました。

そんな合間、LinkedIn経由でドイツに本社を置く某スタジオの北京スタジオから連絡をいただき、LAにいるスーパーバイザーとオンライン面談をしました。私がまともに質問に答えられなかったのにも関わらず、「経歴もあるし仕事はできるでしょう」と言われその場で採用が決定。しかし、いきなり決まった北京行きです。思い描いていたものとは異なる「想定外のキャリアパス」に躊躇してしまい、「それなら、自分が行きたいところに応募してみるべきでしょう」と思い立ち、オンラインで募集を見つけた数社にアプライ。

そのうちの1つ、バンクーバーのImage Engine Inc.から即連絡がきて、次の日にリクルーターとスーパーバイザーとのオンライン面接をすることになりました。彼らはちょうどそのとき、日本のスクウェア・エニックスのプロジェクトでレイアウトアーティストを探していたのです。そのプロジェクトを完成させるクランチ3ヶ月間のお仕事でしたが、私の経歴に「スクウェア・エニックス」、「ファイナルファンタジー」と書いていたので「ちょうど良い」と思ったようで、オンライン面談のその場で採用が決まりました。北京のスタジオの面接からバンクーバーの仕事が決まるまで、わずか1週間足らずです。それが私の海外就労の第1歩となりました。

契約が3ヶ月間だったので終了後はいったん日本に戻るつもりで出発しましたが、その3ヶ月の間にちょうど開かれていたSPARK FXというイベントのキャリアフェアで、次の勤務先となるAnimal Logicのリクルーターにレジュメとリールを見せたところ興味をもっていただけました。そしてその方から「Image Engineに在籍している間に、直属の上司であるレイアウトスーパーバイザーとアニメーションスーパーバイザーに、リファレンス(※1)になってもらうように頼みなさい」とアドバイスしていただき、言われた通りにお願いして推薦してもらいました。


※1:英語圏での就活では、レジュメに「リファレンス」になってもらう人の氏名と連絡先を記入することが多い。これがあると信頼に繋がり、必要に応じてリクルーターがリファレンス・パーソンに連絡を取り、応募者の仕事ぶりや人柄等を念のため確認する。ここにスーパーバイザーの名前があると信頼がグッと上がるのだ

その後、Animal Logicのオフィスでの面接に呼ばれ、後日採用の連絡をいただきました。直属の上司となるスーパーバイザーに興味をもってもらうことも大切ですが、リクルーターにレジュメとリールを気に入ってもらうことも重要なんですね。



▲2019年の年末パーティにて

<2>諦めさえしなければチャンスは来る


――現在の勤務先は、どのような会社ですか。

Lucasfilm Animationは、サンフランシスコにあるILM本社と同じ敷地内にあります。社内に大きな制作チームはなく、主に社内企画の作品のプリプロと監修を社内で行い、プロダクション自体は外部に発注しています。


――最近参加された作品で、印象に残るエピソードはありますか?

少し前に「Disney+ (ディズニープラス)」で配信がスタートしたテレビアニメ『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』(2021)の3Dストーリーボード(プリビズ)を担当しました。もともと『スター・ウォーズ』は日本の文化や侍映画の影響を受けている作品です。時々、参考資料として日本の巨匠たちの映画名が挙がるのですが、日本人としては嬉しいですね!




R2D2、C3POと一緒に
©Disney


――現在のポジションの面白いところはどのようなところですか?

これまで関わったプロジェクトでは、「ストーリーボード」と「プリビズ/レイアウト」で部署が分かれていることが多く、自分はプリビズ/レイアウトアーティストとして雇用されてきました。しかし、Lucasfilm Animationではストーリーボードとプリビズが一緒になっており、レイアウト以降は外注するというシステムになっています。

その関係で、シナリオから直に演出に関わることができるので面白いですね。人それぞれ仕事の進め方がちがい、「サムネイル(ラフな絵コンテ)を描いてから3Dソフトを使ってプリビズを組む」人もいますし「字コンテを作ってからプリビズを組む」人もいます。

私は3Dが最も慣れているので、まずはラフに3Dソフトでサムネイルを作り、さらに文字で補足することでカット割りや演出手法、ストーリーのながれを仮決めするという方法に落ち着きました。そして、その後にプリビズを作るわけですが、プリビズ工程は完成をイメージできるようにしっかりと手付けアニメーションを行い、カメラワーク、仮ライティング、仮エフェクトを付けます。それらの工程でしっかりとした画づくりが求められるので、やりがいがありますね。


――英語のスキル習得はどのようにされましたか?

英語習得は今もなお課題です。若いうちに日本を出て海外のカレッジを卒業しているような人と、大人になってから出てきた人とでは、英語だけでなく現地文化への馴染み方もちがうと感じています。私にはできませんでしたが、語学習得で最も良いのは若いうちに留学し、海外の大学または大学院を卒業するのが一番ではないでしょうか。「最低限の語学力をとりあえず……」という方は、月並みな回答ですがオンライン英会話などで慣らすのが良いかもしれません。


――最後に、将来海外で働きたい人へアドバイスをお願いします。

すでにキャリアがある人は、「英語ができるようになってから」ではなく、とりあえず応募してみることをオススメします。理想とする英語力を身に付けるのは、就職するよりもずっと難しいかもしれません。

アプライした会社から連絡が来ていざオンライン面接となれば、一気に英語の勉強にも気合が入るはず。結果がダメでも良い練習になり次回に活かせます。どこに出しても反応がなければ、それはまだあなたのリールが弱いということかもしれません。もっとリール映えする仕事や個人作品を作りましょう。諦めさえしなければチャンスは来ます。



『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』

© 2021 TM & © Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
ディズニープラスで配信中

【ビザ取得のキーワード】


① 大阪芸術大学芸術学部美術学科を卒業
② 日本国内のスタジオで経験を積む
③ 日本国内で働きながら海外スタジオにアプライ
④ 海外のスタジオで採用され就労ビザを取得

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