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<仮想通貨を預けて利子収入を得るレンディングへの注目が高まっているが、その適正なリスクの計算と、DeFiとの違いを探る> 仮想通貨を預けることで定期的に利子を受け取れるレンディングサービスが、新たな投資マネーを引きつけています。これまで仮想通貨業界では、トレードやレバレッジ取引、取引所間の価格差を狙った裁定取引などが主流でした。仮想通貨レンディングは、2018年中頃から人気が出始めた新たな投資手段です。 仮想通貨投資には長期保有を意味する「ガチホ」というスタイルも存在します。レンディングとガチホは、受け身の投資スタイルという点で似ていますが、利子を受け取れるかどうかが異なります。例えば、ビットコイン(BTC)をガチホした場合、購入時の価格と売却時の価格の差がリターンになりますが、レンディングは価格差によるリターン以外に定期的な利子収入が加わります。 今回、仮想通貨レンディングの代表例として解説するのは、BlockFiやNexoなどが有名なプラットフォームである「CeFi(中央集権型金融)」です。最近は似たような名前であるDeFi(分散型金融)の注目度が上昇していますが、CeFiはDeFiと異なり、預かり資金をインターネット上に散らばったユーザーが管理するのではなく、中央集権的な組織が管理することに特徴があります。 主要CeFiと年利 (出典:Kraken Intelligence) CeFiが預金者に提供する利子率は、一般的に、日本やその他の先進諸国の銀行預金の利子率より高くなっています。低金利の時代において、仮想通貨レンディングの利子率は投資家にとっては魅力的に映るのでしょう。 ただ、年利5%や6%という額面だけで判断することは危険かもしれません。本稿では、CeFiの利子率が本当にリスクに見合ったリターンなのかどうかを考える上で、代表的な仮想通貨イーサリアム(ETH)を例にとって、必要なリスク要因が何かを解説します。 CeFiのビジネスモデル CeFiは、預金者にとって、事前に決められた頻度での金利支払いに合意して資産を預けるという点では、銀行預金と同じです。銀行預金も、当然、中央集権的な企業・組織を通した活動であることから、大別するとCeFiの一種と考えられるでしょう。ただここでいうCeFiとは仮想通貨に関するレンディング業者に限られています。 中央集権的な企業・組織を通した活動とはどういうことでしょうか?一つの企業・組織が、金融サービスを提供するためのプラットフォームを所有し、顧客データや顧客資産の管理に責任を持つということです。また、規制当局の求めに応じてKYC(Know Your Customer)と呼ばれる顧客確認を行います。言い換えますと、顧客は自分の資産に関するリスク管理を第三者のサービス提供者に任せていることになります。 ===== このほかCeFiのレンディングサービスは、伝統的な金融機関と関係が近いことから、DeFiよりUI・UXがユーザーフレンドリーであるところが特徴です。また、法定通貨での円滑な支払いや安定した金利の支払い、そして顧客サポートの充実などがCeFiの特徴としてあげられます。 以下が、一般的なCeFiのビジネスモデルです。 1. CeFiプラットフォームAが預金者に預金の対価として5%の年利を支払うと宣伝する。 2. ユーザーXがAに1BTCを預ける。 3. CeFiプラットフォームAがトレード企業Bに対して1BTCを8%の年利で貸す。 4. CeFiプラットフォームAがユーザーXに対して5%の金利を支払って3%のスプレッド(金利差)を得る。 CeFiのビジネスモデル (出典:Kraken Intelligence) このほか、トレーディングや財務のマネジメントを根拠に金利の支払いをする企業もあります。 ユーザー、トレード企業、そしてプラットフォームの三者はウィンウィンウィンの関係にあるように見えるかもしれません。しかし、ユーザーである預金者は、受け取る金利を額面通り捉えるのは危険かもしれません。利用するCeFiプラットフォーム特有のリスクや通貨リスクを考慮に入れた上で、利子率の高低を判断する必要がありそうです。 通貨リスク まず、仮想通貨自体に内在するリスク「通貨リスク(Currency Risk)」について考えてみましょう。今回はイーサリアムのケースを取り上げます。 イーサリアムの年間発行額は1800万ETHで、2021年6月時点では約1億1600万ETHが市場に流通しています。市場の流通量は年々増える一方で年間発行額は変わりませんから、イーサリアムの希釈率(dilution rate)は減少します。2021年6月時点では、年間で3.77%流通量の増加があるため希釈率は3.77%ということができます。 クラーケンの研究チーム「クラーケン・インテリジェンス」は、イーサリアムの場合は、この希釈率がハードルレート(投資を行ううえで、最低限確保すべき利回り)に相当すると考えています。 イーサリアムでは、毎年の新規発行によってインフレが生じ、ETHの購買力が低下するため、これを補うためには、上記の希釈率を上回る利回りの確保が必要となります。CeFiが提供する額面通りの利子率が投資を行ううえで合理的な水準かどうか判断するには、この通貨リスクに加えて、次に説明するプラットフォームのリスクも考慮に入れなければなりません。 プラットフォームリスク プラットフォームリスクとして、ここでは「デフォルト・リスク」、「カストディアン・リスク」及び「信用・透明性リスク」の3つに分けて考察します。 デフォルト・リスク デフォルト・リスクは、資金の借り手が返済できなくなるリスクを指します。一般的にCeFi側は借り手が担保に出す資金の5割ほどしか借り入れを認めていません。CeFi側は、担保が一定水準を下回ったり借り手が積み増しに失敗したりするときに、担保を売ります。 問題は、市場が暴落する時です。暴落によって複数の投資家が担保となっていた資産を一斉に引き上げることになり、その時、CeFi側が資金の預け手に対して利子の支払いができなくなる可能性が出てきます。最悪の場合は、デフォルトにつながり、投資家はCeFiに預けていた資金を全て失うことになります。 ===== 米国のローン延滞率 (出典:Kraken Intelligence) クラーケンでは、デフォルト・リスクを見る際に米国のローン延滞率を参考にしています。連邦準備銀行経済データ(FRED)によりますと、米国の2020年の消費者ローンの延滞率は1.88%〜2.52%でした。 カストディアン・リスク 次は、カストディアン・リスクです。投資家がCeFiに資金を預ける時、その資金はCeFiかCeFiが委任する第3者機関によって管理(カストディ)されます。もし悪意を持った者がハッキングをしてカストディアンから資金を盗んでしまえば、その資金は元に戻ってこなくなる可能性があります。一般的にCeFiは、そうした事態に備えて保険に入っていますが、補償にも限度があります。 2020年、仮想通関連のハッキングや窃盗の被害額は合計で約5億1600万ドルでした。そのうち約60.5%にあたる約3億1200万ドルが仮想通貨取引所で発生したものでした。一方、2020年の仮想通貨レンディング市場規模は380億ドルです。 これらの数字をもとに、以下のように計算をします。 5億1600万ドル/380億ドル×60.5%=0.81% 0.81%がCeFiのカストディアンリスクと考えられます。 信用・透明性リスク 最後は、信用・透明性リスクです。CeFiはDeFiより安定性があり顧客サポートが充実していますが、中央集権的な意思決定であるが故に透明性の欠如が問題になることがしばしばあります。例えば、顧客が担保として預けた資金がCeFi側が規定する目的以外に使われる可能性があります。資金を預ける投資家は、自己資金がリスクの高い投資活動に使われているとは夢にも思いません。 実際、詐欺によって資金を失った仮想通貨レンディングプラットフォームが破産申請をしたことが2020年にありました。このプラットフォームは、「完全担保型モデルによる保証」を謳っていたものの、1億4000万ドル相当の顧客の資金を危険に晒していたことが判明しました。結局、資金の貸出し先を厳しく審査せず詐欺的な資産管理業者に委託していたことが資金の損失につながりました。 CipherTraceによりますと、2020年の仮想通貨関連犯罪による被害額合計は19億ドルで、そのうち73%が詐欺でした。 ただ、2020年後半までに詐欺犯罪のほぼ99%がDeFi関連になりました。このため、クラーケンはCeFiに関する詐欺犯罪が全体の1%であると仮定します。 上記を勘案して信用・透明性リスクを計算すると、以下のようになります。 13.87億ドル/380億ドル×1%=0.36% 仮想通貨犯罪の被害額 (出典:Kraken Intelligence) ===== 年利6%が高くないわけ イーサリアムの「通貨リスク」に対して、「デフォルト・リスク」、「カストディアン・リスク」、「信用・透明性リスク」を加えると、イーサリアムのハードルレートは6.82%〜7.46%となります。 イーサリアムのリスクシナリオ (出典:Kraken Intelligence ※上記のリスクレートは、CeFiのハードルレート発見のためだけに算出されたものであり、今回の原稿で紹介されたプラットフォームのリスクを測る上で、確立された手法ではありません) さて、ここでイーサリアム預金で年利6%を提供するプラットフォームについて考えてみましょう。しかし、上記の表で示されたように、イーサリアムのハードルレートは6〜7%です。年利6%ではリスクに見合ったリターンではないと考えることができます。 仮想通貨レンディング市場は、間違いなくイノベーションの一つであり、プラットフォーム側の改善も進むと考えられます。ただ、銀行預金などと比較して、本当にリスクに見合うリターンが得られるのか、投資する前に精査する必要があるかもしれません。 [筆者] 千野剛司 クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)- 代表 慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社。2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。