“ハコ企業”Nutsめぐる偽計事件で初公判
不正に株価をつり上げる目的で嘘のIR情報を公表した罪に問われている医療関連会社Nutsの元社長・森田浩章被告(52)。森田被告の初公判が10月1日に東京地裁818号法廷で開かれた。
【画像】森田浩章被告は、2月、記者の直撃に対して「個人的な利得はない」と話していた
Nutsと言う会社の名前を聞いたことがない方も多いだろうが市場関係者の間では“ハコ企業”として名前が知られていた。有価証券報告書などによると、Nutsは東京・港区に本店を置き、1977年に設立され、当初は塩化ビニール製品の販売などを目的としていた。
その後、ゲームソフト販売やパチンコ関連などアミューズメント事業を中心に事業転換を繰り返し、1999年に日本証券業協会に株券を店頭登録。その後2013年にJASDAQ市場に上場し、2017年にはこれまでの事業とは全く関係の無い医療関連事業に突如として進出した。
株価をつり上げるため ウソのIR情報を7回公表
起訴状などによると、医療関連会社Nutsの元社長・森田浩章被告(52)は、2019年6月から12月にかけて、筆頭株主だった長谷川隆志被告(56)ら4人と株価をつり上げる目的で、医療施設の会員権販売の売り上げ高が、実際は2000万円だったところを5億6300万円とする、嘘のIR情報を合計7回にわたって公表した、金融商品取引法違反(偽計)の罪に問われている。
Nutsを巡っては、証券取引等監視委員会が2020年の2月以降、複数回にわたって本社などを強制調査。9月に東京地裁から破産手続きの開始決定を受け、10月には上場廃止となった。翌2021年6月23日に東京地検特捜部が森田被告・長谷川被告ら4人を逮捕した。
この際、資金調達を仲介等を通じて手数料収入を得た“ブローカー”の宮城和良被告や笹部伸広被告も同じく逮捕された。
外部調査委員会の報告書などによると、Nutsは2019年2月8日に医療施設の会員権の入会金などで、売上高が前年比の10倍となる15億7000万円に伸びるとの業績予想を公表したことで、それまでは70円台で推移していた株価が3月14日には234円の高値をつけた。しかし、実際は大半の会員権を販売した実態はなかったと認定された。
このタイミングで長谷川被告は、保有していた株を売り抜くことで、少なくとも1億円以上を儲けていたとみられている。
「Nutsの株価を上昇させるため共謀遂げた」検察側が厳しく指摘
10月1日、森田被告と宮城被告の初公判がまずは開かれた。森田被告は青色のネクタイを着けスーツ姿で出廷。入廷直後、傍聴席の方をキョロキョロ見て、誰かを探しているような様子を見せるなど落ち着かない様子だった。
裁判長から「被告人両名は証言台へ」と言われると、森田被告は座席から立ち上がりキビキビとした様子で証言台へ向かい、起訴内容について「間違いございません」とはっきり答えた。
一方で森田被告は逮捕前、FNNの取材に対して、このように弁明していた。
記者:代表取締役社長として、捜査受けていることに対する受け止めはいかがでしょうか?
森田被告:パブリックカンパニーの社長ですから、このような事態になったことは反省しています。株主の方々にはお詫びしたいと思っています。
記者:虚偽の情報で利益を得たのでしょうか?
森田被告:今はお答えできないが、個人的な利得はないと言えます。
記者:誰から指示があったのでしょうか?
森田被告:内容に関してはお答え出来ません。社長としての責任は感じています。
検察官の冒頭陳述で明らかになったのは、この偽計事件に被告4人がどのように関与していたかだ。2021年4月、森田被告は宮城被告・笹部被告と都内のホテルで打ち合わせをしていた。
会員制医療施設の販売について問われた森田被告が4口(入会金2000万円分)しか入会者がいない現状を伝えると、宮城被告からそのようなわずかな口数の入会ではNutsの株価が上昇しないと言う懸念を伝えられ、少なくとも20口の入会者がいて欲しいと伝えられた。
そこで森田被告は入会金の支払いを偽装するため、長谷川被告が調達した資金をNuts名義の預金口座に振り込んでいると伝えると、宮城被告に虚偽の入会者と売上高を公表するよう言われ、森田被告は長谷川被告の了承を得ることにした。
長谷川被告に報告すると、宮城被告・笹部被告らの意向通りにするよう話され、虚偽の売上高を公表する了承を貰った。以上のような流れから、「Nutsの株価を上昇させると共に、新株予約権の行使を促進させるため、会員制医療施設の入会に関わる売上高を偽装して、虚偽の売上高を公表する共謀を遂げた」と検察側は厳しく指摘した。
検察官の冒頭陳述がしばらく続く中、森田被告は手を前に組み、目を閉じて聞いていた。しかし時折、うんうんと頷く様子も見られた。初公判は約1時間半で閉廷。最後に森田被告は傍聴席に向かって、左右に2回深々とお辞儀をした。
(フジテレビ社会部・司法クラブ 熊手隆一)