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<温室効果ガス排出量の抑制と経済をめぐる意見の果てしなき対立の「正解」は> 気候変動は間違いなく最大の脅威だ ヘザー・ゴールドストーン(ウッドウェル気候研究センター) 緊急性があり、かつ生死に関わるが、まだ打つ手はある――そんな状況を「非常事態」と呼ぶ。同様な状況でも、既に打つ手がなければ「悲劇」であって、非常事態ではない。 この違いを忘れないでほしい。気候変動は深刻だが、まだ打つ手がある。だから非常事態なのだ。7月末には約1万4000人の科学者が連名で、地球の気候は非常事態にあると改めて宣言している。 大気中の二酸化炭素(CO2)の値は、今や途方もなく高い。この80万年ほどで最高の水準だ(ちなみに現生人類の出現は約40万年前)。 過去1万年、つまり農耕生活が始まり、人類の文明が育まれた時期の気候は極めて安定していた。私たちの知る文明や社会が発展できたのは、安定した気候のおかげだ。 しかし現状のCO2値は人類史上かつてなく高い。これは非常事態であり、迅速な対応が必要だ。 CO2はこれまでもずっと大気中に滞留し、そのおかげで地表の温度は温暖に保たれ、多様な生命が栄えることができた。それは事実だが、だからといってCO2は増えても問題ないという結論にはならない。大気中の温室効果ガス濃度の上昇が危険な気候変動を招いているのは事実であり、その点を今さら疑う科学者はいない。 ではなぜ一部の人々は、私たちが本当に危険な方向に向かっていることを示す圧倒的な科学的データを否定したがるのか。 その疑問に対する答えも、科学が与えてくれる。心理学的な知見によれば、心に深く根差した世界観や価値観、信念と相いれない客観的情報に接した場合、人はその情報を拒絶する傾向が強いそうだ。 気候の専門家に聞けば、この危険な気候変動を招いたのは人類だという答えが異口同音に返ってくる。専門家が膨大な数の論文を検証して作成するコンセンサスレポートでも、繰り返し同じ結論が出ている。 では、私たちは気候変動に関するあらゆる問題を既に知り尽くしているのだろうか。 いや、そんなことはない。あり得ないし、そんな主張は誰もしていない。それでも、これだけは確実に分かっている。いま私たちは非常事態の真っただ中にあり、今すぐ大胆な行動を起こし、この危機に対処しなければならないということだ。 健全な環境と健全な経済は両立できず、そのどちらか一方を選ぶしかないというのも誤った議論だ。むしろ科学は、健全な環境があってこそ健全な経済を維持できると教えてくれている。 ウッドウェル気候研究センターは現在、この問題で経営コンサルティング大手のマッキンゼーと協力しているが、その共同作業からも、気候変動が経済的繁栄に重大なリスクをもたらすことが分かった。 もう待ったなしだ。きれいなエネルギー、再生可能なエネルギーに投資しよう。気候変動を食い止めるために必要な変化をもたらす事業に投資しよう。いま惜しまずに先行投資をすれば、いずれ投じた額以上の利益が戻ってくる。 ===== ILLUSTRATION BY STEPPEUA/GETTY IMAGES 気候変動は認めるが非常事態ではない ジェームズ・テーラー(ハートランド研究所所長) 人類の文明が始まって以来のほとんどの期間、地球の気温は今よりかなり高かった。だから3万人以上の科学者が、人類は気候の緊急事態などに直面していないという意見書に署名している。 地球の歴史を通じて、大気中に滞留する二酸化炭素(CO2)の値はおよそ1000ppm前後で、現在の4200ppmよりずっと高かった。 確かに数百年、あるいは数千年前と比べれば、今のCO2濃度は上がっている。だが今の気温は、人類の文明が始まって以来の長い年月の大半に比べると低い。つまり、CO2の濃度が世界の気温を決めているわけではない。 今の地球温暖化に人間が何らかの役割を果たしている可能性は、私も認める。だが、それを絶対的な事実と言いくるめるのは、まさに論理の飛躍ではないか。 全米気象学会は学術団体として世界で唯一、この問題に関する会員全員の意見をアンケート方式で調べた。結果はどうだったか。気候変動を「どれほど心配しているか」という質問に、「非常に懸念している」と答えた会員は全体の30%にすぎなかった。 私たちは事実として、地球の緑化が進んでいることを知っている。NASAの衛星がそれを確認した。 また、主要穀物も気候変動の影響を受けず生産高がほとんどの国でほぼ毎年記録を更新していることも知っている。国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、昨今の異常気象に地球温暖化が関係しているという点に関する確信度(基礎となる科学的知見の信頼性)はとても低い。 NASAの衛星による観測で、世界中で山火事が減っていることも判明した。大気中のCO2の増加と気温の上昇がもたらす有益な影響があることも分かっている。 価格が手頃で、量も豊富なエネルギー源の存在は非常に重要だ。それこそがあらゆる経済の生命線だ。世界のほぼ全ての国で計画され、実現されているエネルギー開発計画の大半が石炭と天然ガスなのは、それが理由だ。 世界のほぼ全ての国の指導者が知性を欠いているとは思わない。彼らは愚かではない。石炭と天然ガスがエネルギー生産の主力であることには理由がある。もしも風力発電や太陽光発電が石炭や天然ガスと競える日が来たら、私も喜んで応援するが、現実はそうではない。 中国は世界の温室効果ガス排出量の30%を排出している。アメリカの排出量は14%にすぎない。20000年以降、アメリカは温室効果ガスの排出量を14%削減してきたが、世界の残りの国々の合計排出量は66%も増えている。 ===== この事実を踏まえると、世界の他の国々から「アメリカは世界の他の国々と歩調を合わせよ、アメリカは世界規模の行動を妨げている」と言われるのはなぜなのか、私は不思議に思う。むしろ世界の国々は、アメリカに教えを請うべきではないか。 アメリカは自由市場と技術革新、経済的要因によって石炭から天然ガスへの転換を進め、温室効果ガスの排出量を削減している。 アメリカの経済規模は国内総生産で世界最大だが、中国の温室効果ガス排出量はアメリカの20倍以上だ。仮にアメリカが20年前に温室効果ガスの排出を完全に止めていたとしても、世界全体の排出量は依然として増加していただろう。 アメリカは温室効果ガスの排出を減らしてきたし、今後も削減を続けるだろう。だが何らかの形で気候行動を取るとしても、それを他の国々に強制すべきだとは思わない。人類は気候変動の危機に直面しているわけではないからだ。 地球温暖化の阻止という名目で、アメリカが自国の経済にダメージを与え、自国の消費者と企業を挫折させることは許されない。中国を含め、どこの国も気候変動など気にしていないし、本気の行動など起こしていないのだから。