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<宇宙空間へと旅立ったブランソン氏とベゾス氏。先を競うように宇宙旅行をする億万長者に対して、否定的な声も少なくない> 先を競うように宇宙へ向かった2人の億万長者 今年7月、2人の億万長者が先を競うように宇宙へと旅立った。しかしそのはしゃぐ姿をよそに、「宇宙開発の前に地球の危機に目を向けるべき」「ロケット発射で地球環境が破壊されるのでは?」といった懸念の声も上がっている。 米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は6月7日、自身のインスタグラム・アカウントで、宇宙旅行の計画を明らかにした。「5歳の頃から、宇宙旅行を夢見ていた。7月20日に、弟を連れてその旅に出る」と投稿したのだ。米フォーブス誌は、「ベゾス氏、初の”宇宙億万長者”に」と報じた。 ところが間もなく、ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏が、ベゾス氏よりも9日早く、「初の宇宙億万長者」となることが明らかになった。同氏が立ち上げた宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックが7月1日、飛行機型の宇宙船「スペースシップ2・ユニティ」による試験飛行(同社4度目の有人飛行)を7月11日に実施すると発表。この際に、ブランソン氏自らが搭乗することになったというのだ。 ブランソン氏は旅行前、米ワシントンポスト(7月1日付)とのインタビューで、11日に宇宙へ行くと決めた理由について、20日と公表していたベゾス氏を打ち負かそうとしたわけではないと述べ、「同じ月に宇宙へ行くのは、信じられないような、素晴らしい偶然に過ぎない」と話していた。 かくして7月11日、宇宙に向かったブランソン氏は、無重力状態になった機内から地球を見下ろしつつ、感動を次のように言葉にした。「私はかつて、星を見上げながら夢を見ていた子どもだったが、今や宇宙船に乗って美しい地球を見下ろす大人になった」。 続いて20日、ベゾス氏は自身が立ち上げた宇宙企業ブルーオリジンによる初の有人飛行として、弟のマーク・ベゾス氏など計4人で、ロケット「ニューシェパード」に乗って宇宙旅行へと向かった。 宇宙レースの加速は必至 ブランソン氏と2人のパイロット、ヴァージン・ギャラクティックの社員3人の計6人を乗せたユニティが向かったのは、高度85キロほどの場所だったと言われている。地上を離れてから再び地球に戻ってくるまでに要した時間は約1時間だった。 一方でベゾス氏を乗せたニューシェパードは、高度106キロまで達したが、テイクオフからランディングまでは11分間で、宇宙空間にいたのは約4分間だった。 「どこからが宇宙か」については、世界的に共通の見解が存在しないため、さまざまな定義がある。アメリカ海洋大気庁の環境衛星データ情報局によると、米軍および米航空宇宙局(NASA)は、地表から50マイル(約80キロ)からを宇宙と定義する。また、国際航空連盟(FAI)は海抜高度100キロをカーマン・ラインと呼び、ここから先が宇宙だとしている。 ===== いずれにせよ、ブランソン氏とベゾス氏が、同じ月に同じような宇宙空間へと旅立ったわけだが、ここに宇宙開発企業スペースXのイーロン・マスク氏が加わり、「宇宙レース」が加速することは必至だと見られている。 ブランソン氏の会社では、来年にも宇宙観光の開始を予定している。最大25万ドル(約2740万円)という搭乗券は、600人がすでに手付金を支払っているという話だ。 「宇宙開発よりもまずは地球保護を」 しかし、ヨーロッパが大洪水に見舞われ、北米では記録的な酷暑になるなど、気候変動が原因と思われる自然災害に多くの人が苦しむ中、先を競うように宇宙旅行をする億万長者に対して、否定的な声も少なくない。 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、ブランソン氏やベゾス氏、マスク氏が宇宙事業に取り組む理由は、気候変動から人々を救うためだ。遠い将来、地球に住めなくなったときに他の惑星に移ることを視野に入れ、その最初の一歩として、宇宙観光を位置付けているのだという。しかしNYTは、今回のような宇宙観光は、地球を救うどころか、むしろ大気汚染の悪化につながると指摘する複数の専門家の声を紹介している。 ブランソン氏やベゾス氏が今回行った宇宙旅行は、地球を周回することなく戻ってくるため、「準軌道(サブオービタル)」と呼ばれている。 NYTによると、こうしたフライトからの燃焼排出物が大気に及ぼす影響は、軌道ロケットと比較すると微々たるものだという。宇宙関連の研究を行う非営利団体、米エアロスペース・コーポレーションの研究者であるマーティン・ロス氏の試算では、軌道ロケットの排出レベルに達するまでに、宇宙観光企業は年間1万回もの準軌道フライトを飛ばすことができる。 とはいえ、ロケットが成層圏に残していく粒子が、太陽光を吸収したり反射したりすることで、成層圏の気候を変えたり、オゾン層に悪影響を与える可能性もある、とロス氏はNYTに話す。「今は問題ではありません」と述べつつ、「しかし何回離着陸を繰り返せば問題になるのか、予測はできません」と懸念を示した。 一方で英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、「ブランソン、ベゾス、そして億万長者の無意味な宇宙レース」というタイトルで、かなり辛辣(しんらつ)な論説記事を掲載した。億万長者たちは宇宙事業に取り組むもっともらしい理由を挙げているが、単に歴史に自分の名を刻みたいだけだ、と記事は指摘。一般市民が地上で気候変動と闘うために、食習慣を変え、旅行の手段を変え、消費生活を変えている今、このタイミングでやるべきことなのだろうか?と問いかけ、「住みにくい他の惑星を模索する前に、まずは私たちの惑星を救おうではないか」と結んでいる。