多くのゲームファンにとって、「コール オブ デューティ」シリーズの新作を購入することは年末前の恒例行事だ。アクティビジョンが毎年リリースしている一人称視点のシューターゲームはゲーム業界の最新技術のショーケースのようなもので、美麗なグラフィックや卓越したオンライン対戦機能の進化を毎年見せてくれる。シリーズの人気は根強く、2020年11月にリリースされた「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」は2020年に米国で最も売れたゲームタイトルだった。
しかし、21年はそんな恒例行事の様子が変わった。21年に発売された最新作「コール オブ デューティ ヴァンガード」の売れ行きは芳しくない。調査会社によると、英国におけるパッケージ(店頭)販売とダウンロード販売の売上は前作から40%低下したという。ゲームメディアの「GamesIndustry.biz」が過去5年間に「コール オブ デューティ」シリーズを購入した人に対して「最新作を購入したか」を尋ねたところ、「購入した」と回答した人は21%にとどまった。
売り切りモデルの行き詰まり
今年は「バトルフィールド 2042」や「Halo Infinite」といった人気シューターシリーズの新作リリースがあり、これらのタイトルに人気が分散したというのも理由のひとつだろう。また、シリーズのファンがバトルロイヤルタイトルの「コール オブ デューティ ウォーゾーン」をプレイしていることも要因としては大きい。
しかし、2020年に最も売れたタイトルのひとつであり、歴史あるシリーズの急激な売上減少は軽くいなせる事象ではない。果たして次作は、2020年以前のような勢いで売れるのだろうか。
「コール オブ デューティ」の最新タイトルの売上不振は、数千円を支払ってソフトを購入するという昔ながらの売り切り型の販売モデルから基本プレイ無料(F2P)やサブスクリプションといった新しい販売モデルに置き換わっていくプロセスの表れだろう。
F2Pとは、無料でゲームをプレイできるが、追加コンテンツや特別なキャラクターを獲得するために課金が必要というゲームだ。同じタイトルを長期間にわたってプレイしてもらうために、無料化によってプレイヤー人口を増やし、そのなかのコアなファンに課金してもらうことで収益化をはかる。
F2Pのモデルはモバイルゲームで広く採用されてきたが、家庭用ゲーム機やPC向けのハイスペックなゲームにおいても採用タイトルが増えてきている。例えば、ユービーアイソフトは売り切り型モデルに頼ってきた戦略を見直し、F2Pタイトルに力を入れていくことを明言している。高い予算を投じて開発したタイトルをより多くのプレイヤーに長期間プレイしてもらう(そして課金してもらう)ためには、F2Pのモデルが最適だと同社は考えているようだ。
2022年現在のユーザーたちは、「このタイトルをプレイするか否か」について容赦のない意思決定を下している。公式サイトで内容を把握し、YouTubeでプレイ動画を視聴し、レヴューサイトで星の数を確認する。それでも足りない。ゆえに、ゲーム企業は富山の薬売りのようにすべてのゲームコンテンツを無料で提供することで心移りしやすいユーザーたちの関心を十二分に引きつけ、「プレイした感想はどうですか。これだけ素晴らしいゲームに課金するかどうかはあなた次第です」と判断をゆだねるのだ。
ゲームでも受け入れられ始めたサブスクリプション
心移りしやすいユーザーたちを引き留めるもうひとつの方法は、サブスクリプションだ。大量に流通するコンテンツを「いつでも好きなときに楽しめるようにする」ことでユーザーたちを囲い込むという販売モデルは、昨今のエンターテインメント業界で幅を利かせている。
ゲーム業界におけるサブスクリプションサーヴィスもいままさに花開かんとしていて、マイクロソフトの「Xbox Game Pass」やソニーの「PlayStation Now」は契約者数を伸ばし続けているし、オンライン対戦用のサーヴィスだった「Nintendo Switch Online」はゲーム配信コンテンツにも力を入れ始めた。アップルが始めた「Apple Arcade」は魅力的なオリジナルコンテンツが評価され、ゲームファンに受け入れられ始めている。
サブスクリプションサーヴィスの魅力は、ユーザーが手を出さなかった(購入まではしなかった)ようなゲームに出合い、ゲームの楽しさを再発見することだ。個人的には「Xbox Game Pass」を愛用していて、個性的なインディーゲームが追加されるのを心待ちにしている。次に何をプレイするかをサーヴィスにゆだねて、広告を見たこともなかったゲームをプレイするのは楽しい。
「コール オブ デューティ ヴァンガード」もまた、こうした新しい流通モデルの影響を受けている。このシリーズには基本プレイ無料(F2P)の「コール オブ デューティ ウォーゾーン」があるほか、ゲームのサブスクリプションサーヴィスを通じてさまざまなシュータータイトルが配信されている。こうしたなか、数千円を支払って「コール オブ デューティ」の最新タイトルを購入する人の数は減少し続けるだろう。
あらゆるエンターテインメントコンテンツと同様に、ゲームの流通モデルは変化のときを迎えている。F2Pやサブスクリプションの普及によって「ゲームを買わない」ユーザーは増えるだろうが、毎日のようにリリースされる多様なゲームをプレイする機会が増えることはポジティヴに受け止められるべきだ。
インターネットが普及していない時代に、パッケージの箱に描かれたイラストを頼りにしてどんな内容かわからないゲームを買ってプレイしていたように、ライブラリーに並ぶサムネイルを頼りにゲームをプレイして一喜一憂する時代も悪くない。
但木一真|KAZUMA TADAKI
ゲーム業界のアナリスト・プロデューサー。著書に『eスポーツ産業における調査研究報告書』(総務省発行)、『1億3000万人のためのeスポーツ入門』〈NTT出版〉 がある。「WIRED.jp」にて、ゲームビジネスとカルチャーを読み解く「ゲーム・ビジネス・バトルロイヤル」連載中。
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