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<新型コロナウイルスのワクチン接種が進められ、「ワクチン休暇」という言葉も聞くようになった。そもそもどんな制度なのか。導入する企業側のメリット、デメリットは?> 2021年度より、医療従事者を皮切りに全国で新型コロナウイルスのワクチン接種が進められています。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のこれ以上の感染拡大を防ぐため、テレワークや時差出勤等の対応を取っている企業も多々あるなか、ワクチンは会社が従前通りの企業活動を行えるようにするための重要なツールの1つとされています。 そのため、会社内でまとめてワクチン接種を受ける「企業内接種」を検討するケースもあり、ワクチン接種への関心と対応法の策定は経営者にとって急務とされています。特に大企業と比べ社員一人ひとりの比重が大きい中小企業では、社員の健康と安全を守るための対応策として、ワクチン接種は非常に重要になります。 このような状況下において、注目されている制度が”ワクチン休暇”です。今回は、このワクチン休暇の概要や導入した場合のメリット・デメリット、実際にワクチン休暇制度を採用する場合の対応手順や気をつけなければならない注意点について、順を追って解説をしていきます。 そもそもワクチン休暇とは ワクチン休暇とは、会社に所属する社員が新型コロナウイルスワクチンを接種するにあたり取得することのできる休暇のことです。とはいえ、ワクチン休暇制度を取り入れている企業はまだまだ少なく手探りの状態です。 取得できる日数や時期は各企業の状況により異なりますが、ワクチン接種当日とその後1~2日をワクチン休暇日と設定し、慶弔時に取得できる”特別休暇”扱いとするケースが多いようです。 特別休暇は、有給休暇とは異なり法律で義務づけられておらず、社員が安心して働くことができるような福利厚生の意味合いを持つ休暇制度になります。したがって、特別休暇制度を採用するかどうかは各企業の裁量にゆだねられています。また、特別休暇の取得日を有給にするか無給にするかについても、各企業の一存で決められるという特徴があります。 中小企業のワクチン休暇導入メリットは? ワクチン休暇を導入することによるメリットには、主に以下の内容が挙げられます。 (1)社員がワクチン接種へ踏み切るきっかけとなる 新型コロナウイルスワクチンについては、他のワクチンとは異なり、開発されて間もない前例のない状況下で接種が開始されていることから、ワクチン接種に踏みきれない社員が多いことも予想されます。また、普段の仕事が忙しく、有給休暇を取得してまでワクチン接種を行う意欲がわかない社員がいるかもしれません。 ===== ワクチン休暇は、このようにワクチン接種に対してためらいを感じている社員が接種に踏み切るきっかけとなる存在になり得ます。会社が休暇制度を設けてくれているという安心感から、社員の会社に対する信頼感が増し、仕事へのモチベーションアップへつながるというメリットも期待されています。 (2)余裕を持ってワクチン接種へ臨むことができる ワクチン接種については、各地で大規模接種会場の設置が相次ぐなど、接種がスムーズに行われるための対策が取られています。それでも、接種会場の混雑具合や接種後の安静時間など、実際に行ってみないことには接種にかかる時間が読めないという状況になることが予想されます。 しかし、あらかじめワクチン休暇を取得していることで、社員はその休暇日をワクチン接種のために空けることが可能になるため、安心して接種を受けることができます。また、休暇によって普段ならば仕事で不可能な時間帯に接種を受けることが可能になるため、密を避けながら安心して接種できるという利点もあるでしょう。 (3)副反応への不安解消へつながる 特に2回目のワクチン接種の後は、腕の痛みや倦怠感などの体調不良に悩まされるというケースが取りざたされています。もしも接種後に体調不良になったらどうしよう、と不安にかられる社員も少なからずいることでしょう。 ワクチン休暇の導入により、体調不良の場合は休暇を取る事ができれば、落ち着いて回復までの期間を過ごすことが可能になり、スムーズな仕事復帰へつなげることができます。 (4)中小企業向けの支援策を活用できる 大企業と比較すると休暇制度の体制整備が遅れがちの中小企業の場合、ワクチン休暇制度の導入は興味はあれど敷居が高いとされてしまうことも現状です。 そこで、東京都では、ワクチン休暇の整備に取り組む中小企業に対し、無料で社会保険労務士等の専門家を派遣する取り組みを打ち出しています。各都道府県の先駆けとなるこのような制度を活用しながら、効率良く休暇制度の導入をする方法も検討すると良いでしょう。また、東京都以外の企業の場合は、社内の制度を整えるために行政の相談窓口を利用する方法も効果的です。 中小企業のワクチン休暇導入デメリットとは ワクチン休暇については新しい制度になるため、最近導入を開始した企業があるとはいえ前例がほとんどない状態で各企業は制度を整える必要があります。 特に規模の小さい中小企業の場合、休暇制度自体が整備されていないケースもあることから、整備のための時間や手間をかける必要がある点に注意をしなければなりません。 具体的には、自社の状況の洗い出しから行い、特別休暇制度が設けられていない場合は慶弔休暇や年末年始、お盆休暇などの他の福利厚生制度の導入も検討しながら詳細を決定していくことになります。 ===== また、就業規則がない会社の場合は、この機に作成や届け出も検討する必要があるでしょう。法律の専門家に相談しながらの対応が効率良く制度導入に踏み切ることができる可能性もありますので、検討する方法も有効です。 実際に導入する際の手順と注意点 実際にワクチン休暇を導入する場合、主に次のような手順で行うと良いでしょう。 (1)ワクチン休暇日の扱い ワクチン休暇日の扱いとして考えられる方法は、主に以下の3種類に分類されます。企業にとって最適な対応策を検討しましょう。 ・特別休暇とする 特別休暇を有給とするか無給とするかについては前述の通り企業の自由ですが、スムーズに社内のワクチン接種者を増やしていくためには、無給で設定すると社員の反発をかう可能性があります。有給で対応する方法を取ることで、無用なトラブルを防ぐ効果があるでしょう。 ・有給休暇とする 有給休暇は法律で義務づけられている休暇ですが、本来の目的は社員がリフレッシュをすることで、また新たな気持ちで仕事に向かうことができるように取得してもらう休暇です。 ワクチン接種は社員の健康や安全を考えた対応であるとはいえるものの、本来ならば自由に取得できるはずの有給休暇の一部をワクチン接種に充てると決める際には、社員を納得させるだけの理由が求められるケースもみられます。有給休暇を活用する場合は、入念に制度導入までの準備を行う必要があることが予想されます。 ・無給休暇とする 無給休暇とする場合、その日は欠勤日となり、当然ながら給与額の控除対象となります。有給休暇の設定時以上に社員からの反響があると思われますので、トラブルを防ぐためには別途手当を支給するなど、社員が働き続けるにあたり不利益をこうむらない方法を検討する必要があります。 (2)申請の流れを決める ワクチン休暇日の扱いが定まったところで、次は申請手続きの内容を決定します。どの社員がいつ休暇日を取得したのかが判断できるよう、事前にワクチン休暇取得の申請書を提出してもらう方法が良いでしょう。 気をつける点としては、ワクチン接種は現時点(2021年6月)では国民の義務ではないため、接種の強要や本当に接種したかどうかが判断できる証明書類の提出を求める方法は避けた方が良いでしょう。強要することで社員が不満を抱き、無用なもめごとへとつながる危険性があるためです。 ワクチン接種済みの人数は、地域によって差はあれども徐々に増加しています。今後も定期的に接種が必要となる可能性に備え、社員の身を守るため、またワクチン接種に関する社員の意識を高めるためにも、会社に合った方法でワクチン休暇を導入する方法が有効となるでしょう。 【参考】 ※報道資料(2021年6月7日) – 東京都産業労働局 2021.06.22 [執筆者] 加藤知美 エスプリーメ社労士事務所 社会保険労務士 愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に個人事務所を設立。総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。現在は文章能力を活かしたオリジナルの就業規則・広報誌作成事業の2本柱を掲げ、専門知識を分かりやすく伝えることをモットーに企業の支援に取り組んでいる。 ※当記事は「経営ノウハウの泉」の提供記事です